リブロ・トリニティ – 10 - 『写楽面 SHARAKU-MEN』 cochae作 

(2009.09.01)
~著者+編集者+書店スタッフ、著者+書店販売員+読者……3人が一体となり、力を合わせて完成した本を紹介するコーナーが「リブロ・トリニティ」です~

デザインユニット「cochae(こちゃえ)」が作った写楽面がそのままアートブックになりました。眺めても、作っても楽しい新しいアート&クラフトブックです。

cochae作

『写楽面 SHARAKU-MEN』

『写楽面 SHARAKU-MEN』
cochae作 フィルムアート社 1300円(税別)
四六版 48ページ カラー


■ 著者より

cochae(こちゃえ)

“遊びのデザイン”をテーマに活動する軸原ヨウスケ、武田美貴によるデザインユニット。2003年、折紙という古典的な世界で「折紙をもっとポップに!」をキーワードにグラフィック折紙を制作。現在は新しい視点を持ったデザインで楽しさと驚きをもった玩具の開発、美術館等でのワークショップなど 幅広いデザイン活動を行っている。折り紙パズル「ファニーフェイスカード」がグッドデザイン賞2008受賞。2008年より京都造形芸術大学非常勤講師。
cochae(こちゃえ)の名前の由来は、出身地である岡山県の伝承民謡『備前岡山太鼓唄(こちゃえ節)』から引用。「こちゃえー、こちゃえー」の節回しは天保時代に流行した俗語であり「こちらへどうぞ」「こっちはいいぞ~」など複数の意味を持つお囃子言葉である。

マスクをかけて、写楽の役者になろう!
社会風刺に、懺悔に、そしてなによりパーティで楽しもう!


写楽面!
江戸時代(1603~1867)、写楽という極めて個性的な浮世絵師がいました。
「浮世絵」とは、当時の風俗画のことで、写楽はその中でも「役者絵」(歌舞伎の役を演じる役者の絵)という、現代のブロマイドを得意としていました。

デフォルメされた顔の細部、ド派手な色使い、狂った大胆な構図。
役の個性とそれを演じる役者の個性を、ぎゅっと濃縮して描いた写楽の浮世絵には、驚くほど粋なユーモアと、本質を見抜く鋭い視点がありました。

そんな写楽の象徴とも言えるのが「役者絵」に出てくる個性的な「目」。
その「目」をモチーフにマスクを作り、ポストカードにして「写楽の粋」を世界中にばらまこう、というのが本書の試みです。
その名も『写楽面』。

この面の形は、江戸時代に博多で流行した「博多にわか」の半面が元になっており、半面を付けてブラックに社会を風刺する、という即興狂言でした。
そして「写楽」と「博多にわか」、江戸に産まれた粋な文化ふたつを融合させました。

この「写楽面」をつければ、誰しも写楽の描いた「役者」になってしまうはずです。
あなたも、家族も、友達も!
いろんな人に送って、世界中のみんなを「役者」にしてしまいましょう。
社会風刺に、告白に、謝罪に、そしてプレゼントに、パーティに、
写楽のとびきり粋な世界を存分にお楽しみください。

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■書店スタッフより

TSUTAYA 三軒茶屋店蓑口 誠(みのぐち・まこと)

書籍フロアを統括し、仕入全般を管理。流行に敏感な三軒茶屋のお客様に向けた、フェアの企画立案も担当。最近では、ピスト・バイク、映像作家、Tシャツ本などのフェアが好調。趣味は釣り。

単に「読む」のではなく、
パフォーマンスにもなるアート的手法が魅力!

●本書をご覧になった第一印象はいかがでしたか?

とにかく発想がおもしろいと思いました。ポストカードだけではなく、それがお面にもなる、といった仕様が新しく斬新です。単に「読む」という形態ではなく、パフォーマンスのきっかけになるアート的な手法がとられている書籍というか。何よりも、一人で読むというより皆でわいわい楽しめることが最大の魅力ですね。
とくに気に入っている点は、役者の隈取の特長です。噺家さんごとに、それぞれの手ぬぐいの種類があるのと似てますよね。じっくり眺めていると、役者それぞれの個性や性格が表れていて、歌舞伎の奥深さに改めて気付きます。

●cochaeさんは、他社さんの書籍も沢山販売されていますね。

そうですね。『折りCA』(青幻舎)や『めでた尽くし』(講談社)などの折り紙は、若い女性を中心にヒットしました。外国の方のお土産としても最適だと思います。
『写楽面』はテーマ的に年配の方が手に取られるケースが多いのですが、クリエイティヴな若者層にも人気です。先日まで開催された生活工房(世田谷区が運営するコミュニティ施設)の個展と連動したフェアは大盛況でしたよ。いまでも当店ではcochaeさんのフェアを継続中ですが、以前より幅広いお客様を棚前で見かけるようになりました。
これからも、伝統的な文化を今に受け継いでいく、そんな企画をcochaeさんには期待したいです。

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■プランナー・企画編集より

粟津 ケン(あわづ・けん)

フィルムアート社役員、本書の企画編集ディレクター。粟津デザイン室運営をはじめ、博物館、美術館などでも企画展示を行う。在米期間15年、ブラックカルチャーへの造詣が深い。今季、ジミヘン本決定版も企画。お楽しみに。

現在によみがえるポップな複製! 
大衆のための反逆のデザイン力。

cochaeの作るものは、とてもいい意味で世間とズレている。写楽も描いた歌舞伎役者たちの、その「かぶく」の心意気。彼らのスタンスであり、この作品にも表れている。

そう、cochaeは「外れている」のだ。彼らのデビュー作とも言える、一連のグラフィック折り紙もそうだが、それを手に取った者に、はじめは「何だろう、これは?」と思わせる。試してみると、そこでそれが何なのかインスタントにわかる。そして、みな笑う。それらは、形になる前の形だったのだ。この発想は、綺麗で、オシャレで、カワイイ、でも毒気のない昨今のグラフィックデザインの潮流に対して、秘かに反逆の匂いを放っている気さえするのだ。ちょっと、危ない、というような。
最近、木村恒久や福田繁雄が相次いで亡くなったが、こういうデザイン力を持った作家は今や貴重だ。ムナーリにも通じる遊び心と創造性もある。

この「写楽面」は、まずはお面として楽しめ、さらにはポストカードにもなる。
それにしても、マスクというのはおもしろい。それをつけると何故か心が一段と自由に、楽しくなり、より自分が表にでてくるのだ。

写楽をはじめ、江戸の優れた絵師たちは、みな限られた条件の中でアイデアを絞り、何でもやった大衆のためのデザイナーで、イラストレータだった。そんな精神がcochaeにもある。彼らが、「新しさ」を感じさせるのは、きっと、彼らが過去の優れた発想を現代の複製物の中にポップによみがえらせているからだ。

ところで、今回の「写楽面」の素材は、木版画では最高峰の技術を持つアダチ版画研究所の写楽の大首シリーズからスキャンさせていただいた。超一流の彫り師と摺り師によって完成した粋なイマジネーション。今度は、この時代にまったくの別物として出版された。すばらしいことだ。それほ、きっと江戸の大衆のデザインセンスが本物であったということの証だから。

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