知的なアプローチでコレオグラフ
振付稼業 air:man インタビュー。

(2012.04.27)

きゃりーぱみゅぱみゅ『PONPONPON』、木村カエラ『Ring a Ding Dong』、
チョーヤ『酔わないウメッシュ』のコマーシャルの一度見たら忘れられないダンス。
可愛いアーティストをより可愛く、面白いアイテムをいっそう面白く見せるダンスは
彼ら『振付稼業 air:man』によるものです。
この春からは教育番組のダンス振付も手がけている
コレオグラフ・ユニット『振付稼業 air:man』は、
知的な振付マイスターでした。

■振付稼業 air:manプロフィール
(ふりつけかぎょう えあーまん)1996年『演劇集団 air:man』 として主宰・杉谷一隆が、菊口真由美らと結成。演劇公演からダンス、コレオグラフへと活動を展開、CM、ミュージックビデオ、テレビ番組の振付で知られるように。ピザーラ『エビマヨ』(’04〜)、リップスライム『熱帯夜』(‘07)『Good Day』(’09)、サカナクション『バッハの旋律を夜に聴いたせいです。』(‘11)『ネイティブダンサー』(’08)、などその振付は数え切れない。’08年、時報に合わせて少女たちが踊る 『UNIQLO』 のインターネット CM『UNIQLOCK』で振付を担当、カンヌ国際広告祭はじめ世界三大広告賞のすべてを受賞した。現在 NHK Eテレで放映中の教育番組『歴史にドキリ』(毎週水曜 9:40〜9:50)の振付、コカ・コーラのロンドン・オリンピックキャンペーンダンスコンテスト『My Beat Contest』の監修を務めている。

振付稼業 air:man

振付嫁業 air:man のスタジオにて。メンバーは 杉谷一隆さん、菊口真由美さんはじめ7人。本日はおふたりに加え、野本清さん、辰野翔亮さんの4人で。air:manというユニット名の由来は、メンバーが買わされた『NIKE Air Jordan』の偽物のブランド表記から。©2012 by Peter Brune
演劇集団 air:man としてスタート。
ー木村カエラさんが『Ring a Ding Dong』で、きゃりーぱみゅぱみゅさんが『PONPONPON』で、北乃きいさんがチョーヤの『酔わないウメッシュ』コマーシャルで、楽曲に合わせて踊るダンスはみな可愛らしく、ユーモラスな一面もあり、一度見たら忘れられないダンスです。これらの振付はすべて『振付稼業 air:man』さんによるものですね。air:man は振付ユニット、とのことですが結成のいきさつを教えてください。

杉谷 air:manは’96年に演劇集団としてスタートしました。当時は芝居公演を打てば打つほど赤字が増えて少しでも安く借りられるロケーションを考えたところ、ライブハウスでの興行を思いつきました。芝居小屋だと劇場、照明、舞台監督、音響、その他お金がたくさんかかるものですが、ライブハウスなら座付きで音響も照明もある。でもその代わり、セリフや演技のきっかけで照明をゆっくりフェイドアウトや明暗の調節などが難しい。それならばライブハウスに合うソフトを作ろうと考えたらダンスでした。踊って、セリフを言ってまた踊って、というようなダンスで繋ぐショーのパッケージを作っていくと、お客さんが入るようになって来ました。

その頃渋谷にはたくさんのクラブがありました。『クラブ・エイジア(club asia)』、『BUENOS (ブエノス)』、いわゆるヒップホップ系の人たちが集まっていたところです。そこにいきなり芝居をやる集団が入ってきた、ということでair:manを面白がってくれる人たちがいました。少しづつ話題になり、あるテレビ番組のプロデューサーから「振付をちゃんとやってみないか」とオファーがありました。それなら振付に特化してやってみようというのがきっかけです。

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ーそれまで踊る立場のダンサーだったわけですが、ダンサーと振付師とは違いは?

杉谷 ダンサーと振付師は真逆の仕事です。ダンサーは踊る人、振付師は踊らせる人。

air:man 創立当時、(メンバーの)菊口とよく話していたことは、日本では「振付師」が職業として成立していない。決して悪いことではないが、日本の場合はタレント兼振付師になっていることが多いのはなぜか。これまでとはちがったやり方で、5年先も10年先も振付師が職業として成立するような方法はないか、ということでした。

振付を生業にしている、ダンサーと振付師の境界線が曖昧な日本の状況を変えて行きたい、という考え方でair:man は頭に「振付稼業」がつきます。この言葉にそれが凝縮されています。

当時は、ちょうどデザイナー、ディレククターのユニットが出てきた頃で、そんな風に振付のユニットという方法でやってみようよ、となりました。

振付の展開はまず、ディスカッションから。

ー『振付稼業 air:man』はユニット体制で、杉谷さん、菊口さんを中心に現在は7人のメンバーがいるということですが、実際は振付をどのような方法で作っているのでしょうか。

杉谷 抱えている仕事の8割はCM、残り2割が PV、舞台、イベントです。CM の場合、振付の答えは決まってます。商品が売れること、出ているタレントさんにムリなく、振付が寄り添っていること。そして監督の一番やりたいこと、コンセプトが明確に表現できていること。

僕達の仕事はクリエイティブというより職人的。注文に何をはめ込むかということに特化しています。例えていうなら、ネジ穴にきっちり合ったネジをはめればよい。

振付をする前に、発案者であるプランナーや監督はもう何ヶ月間も案を練っています。タレントさんを選び、曲を選び、コツコツ創りあげて来た、ほぼ完成しているところに僕達は分業としての振付という答えをきっちり出したい。僕達が考える振付がオファーに合うかどうかは人それぞれの判断です。それぞれの判断があることを踏まえて予め10パターン程度の振りを考えておいて、そのどれが合うのか?です。

大切なのは、誰が、何をやりたいのか、ということを、共通認識として『振付稼業 air:man』 みんなで持つこと。それが答えに近づく方法です。

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CM はすごく不特定多数の方々が同じタイミングで観るものです。カワイく踊る CM があったとして、それがカワイイと評価される時、10代の方にとってのカワイイと、30、40、50、80代のカワイイは違います。メンバーの(辰野)翔亮と僕とはおよそ20歳年齢が離れていて、air:man の中で、世代間のカワイイについてのミニマムなシュミレーションができます。

材料を全部寄せ集めて俯瞰で観る。そして、作る前に、まずディスカッションです。10〜40代、全世代の感性で意見を出し合う。ひとりで観るより、みんなで観る方がちがった形が見えてきます。人数分のアプローチがあるのでこれはすごく勉強になり、コミュニケーションになりうる。それをアウトプットする時に言葉で伝えて、なおかつ踊りに転化させることがとても面白いのです。

木村カエラ『Ring a Ding Dong』

'10年 NTT ドコモの CMソングであったら 木村カエラ『Ring a Ding Dong』。真似したい、でも真似できない可愛さ。
アーカイブから出してくるのではなく、
いつも0から考える。
ー職人的に仕事をする、ということは、求められた時にある一定以上のクオリティのものを作ることができる、ということだと思いますが、そうできるためにしていることはありますか? 例えば、ダンスのパターンをアーカイブしている、いつでも良い動きができるために体を鍛えている、など。

菊口 体でなくて頭ですね。頭で考えてこそ、ユニットでやっている意味があります。私たちは一切体を動かしながら振りは作りません。体を動かすのは最後のプロセスです。

「この企画に対してカワイイものって何?」「この商品をもっとカワイく見せるためにはとどうすればよいか?」と毎回、企画に対して0からみんなで考えはじめるのでアーカイブはいりません。

杉谷 たとえばまず、音を聞いてインスパイアされて動くとします。この方法は自分達の体の中にあったダンスしかアウトプットできません。それでは、自我の押し付けです。僕たちに求められているのは、振りをタレントさんにいかにマッチさせるか、ということです。そのタレントさんに合った、今までにないもの。それが重要なのです。アイドルにアイドルっぽく踊ってくださいと言っても、それは愚問ですしね。

振付とは言葉を体に置き換えること。

ー『振付稼業 air:man』の振付は、簡単そうだけど実際に真似してみようとするとかなり難しい。親しみやすいが、ひねり、ユーモアがあるところが特徴だと思います。綿密な観察とディスカッションという知的なコミュニケーションから生まれるということがわかりましたが、振付とは何である、と考えますか?

杉谷  振付とは言葉を体に置き換えることです。たとえば「ここはクラブステップをしてください」というより「足をカニのようにダバダバさせてください」と言った方が伝わります。人に伝えるために言葉は必要で、言葉で伝えて、それを体で体現して共通認識が持てたら楽しいよね、ということです。

ー代表作であるユニクロのインターネット広告『UNIQLOCK』 も言葉だったのでしょうか。10秒ごとの時計の時報に合わせて最初の5秒は時間が表示され、あとの5秒間に少女たちが踊る、というもので膨大な数のダンスが盛り込まれていました。

杉谷 『UNIQLOCK』のダンスは今までにオンエアされているもので約800パターンです。それぞれのダンスに「ナンデール? ザンデール!」「NO HEART NO 鳩。」等のタイトルがついています。

08年、時計機能を持った WEB 広告というコンセプトと斬新なダンスで話題になった『UNICLOCK』。800種類のダンスには全てタイトルがついている。

 
当時はまだ WEB CM の黎明期。時計の時報に合わせて踊る、ということだけが決まっていたので、児玉裕一監督とのディスカッションでそこからアイディアをふくらませていきました。5秒とはいえ、踊りが続いていくだけだったら飽きてしまう。飽きない方法は何だろう? と考えてフェティッシュの方に行ったら面白いんじゃないか、と考えた。児玉監督は、僕にとってフェティッシュとは足だ、なるほど、それなら手のフェティッシュもあるんじゃないか、という風にどんどん展開させていきました。

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ーきゃりーぱみゅぱみゅさんの『PONPONPON』も踊りがとってもカワイイですが、これも言葉から展開したのですか?

菊口 田向潤監督が求めていたのは「変な世界観」。変顔する、女子高生に人気、ということで「かわいいけど奇妙」に見えると、彼女がハマるのでは、と考えました。

杉谷 きゃりーぱみゅぱみゅさんご本人がとってもダンサブルな方で、かわいいのはもちろん、とってもスマート。「これはP と W を出すゲームです”ポンポン”のところはアルファベットの”P”の一文字、”ウェイウエイ”は “W “です。真剣に一回も間違わないでゲームしてください」という言い方でお願いしました。そのあとの、両手を顎の下に置くポーズは「私、可愛すぎてこまるの、ってゆー感じでやってください。」「可愛さ余って奇妙さ 100 倍にしたいので指をピロピロさせて続けて下さい。」と、いうように粘土をこねるように作って行きました。

きゃりーぱみゅぱみゅ『PONPONPON』

'11年、きゃりーぱみゅぱみゅ『PONPONPON』カワイイ、変顔が得意なきゃりーぱみゅぱみゅ。「かわいいけど奇妙」をキーワードにしてコレオグラフィング。
子供が喜ぶダンスは大人も喜ぶ。
それを見て子供はもっと喜ぶ。

ーディスカッションでは、よい意見を出すことが求められると思うのですが、よりよい意見の発想のために心がけていることはありますか?

菊口 ものごとを俯瞰で観る、そこに何が足りないか一歩退いてみることです。ひとつのことに集中していても、同時にまわりも見るようにしています。広く見ていないと、何かハプニングが起きた時に気づくことができません。

杉谷 映画でも、テレビでも、客観的に観るようにしてます、面白いものをフラットに面白がれる感覚を持ちながらも、「これを面白いと思う自分って何なのだろう?」と、そこで初めて自我を意識する。

CHOYA 酔わないウメッシュ 『ビーチ・ダンス篇』


写真をクリックでムービースタート。チョーヤのサイトでは、ダンスレッスンも。

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ー映画やテレビで今、気になっているアーティストや人物はいますか?

菊口 ……子供たちですね。道を歩いててすれ違う子供たちが歌っている歌とか、彼らに今、何が響いているのか、とっても気になります。

杉谷 少し前まで、子供番組の振付をよくやっていました。僕達が考えて行った振りを、子供たちに面白いと思ってもらえないこともあった。でも子供たちが気に入ったら踊ってくれる、それを見た大人たちが喜ぶ、親が喜ぶと子供はうれしい……これが積み重なるといわゆる「キャッチー」なことに繋がっていくのではないかと思います。よく CM の振付などで「キャッチーな感じでお願いします。」というオファーを受けることが多いのすが、「キャッチー」の着地点がみつからない時は子供たちに立ち返ることが多いです。

必修化されたダンスの授業でも活用してほしい
新教育番組『歴史にドキリ』
ー最後に今後の予定を教えてください。

杉谷 この夏、8/1(水)〜9/2(日)『大人計画』の Bunkamuraシアターコクーン公演『ふくすけ』劇中の振付を担当します。元『ハイレグ・ジーザス』の河原雅彦さんやコンドルズの小林顕作さんのお芝居をお手伝いしたり、今年は演劇系の仕事が多いです。

また、4月からNHK Eテレで放映がスタートした『歴史にドキリ』はユニークな教育番組です。歴史上の人物を取り上げ、その歴史的背景や、その人物の行ったことをミュージカルで紹介します。人物に扮した中村獅童さんが歌って踊るのですが、 音楽は 『AKB48』や 『ももいろクローバー』などに楽曲提供している前山田健一さんが作り、僕達が振付してます。

小学6年生を対象にした、実際に学校の社会科の授業で使える内容で、歌の歌詞をWEBサイトで提供しているので、見ているみんなもいっしょに歴史ミュージカルを演じて楽しめる構成です。

歴史へのアプローチもこれまでとはちょっと違っていて、例えば徳川家康なら、1600 年ではなくて、江戸幕府は260年続いた、江戸は 世界初の100万人都市だったんだよ、というように従来とはちょっと違ったキーワードの選び方で、大人も十分楽しめるものだと思います。

この春から中学校でダンスの授業が必修化されて話題になっていますが、この番組は子供である生徒と大人である先生が同時に情報を共有できる環境下(校内でのテレビ授業等で使用)なので結び付きやすい内容になっています。授業のソフトとして活用してもらえたらうれしいと思ってます。


左・杉谷一隆(すぎたに・かずたか)『振付稼業 air:man』の主宰。好きなアーティストは友川かずき、三上寛。もちろんマイケル・ジャクソンも。アンティーク好きという一面も。
右・菊口真由美(きくぐち・まゆみ)人見知りを直すため3歳からダンスを始める。9歳でミュージカル『アニー』を見てタップダンスの道に。女性ロックミュージシャンの無作為な動きが好き。

左・野本清(のもと・きよし)USJで修行を積み、どんなジャンルのダンスもできる。ブレイクダンスの世界大会『バトル・オブ・ザ・イヤー』を観ることを毎年楽しみにしている。
右・辰野翔亮(たつの・しょうすけ)幼い頃からジャズダンスを学ぶ。杉谷さんの演劇教室に通い初期の『ラーメンズ』のテキストで演技の勉強した。