土屋孝元のお洒落奇譚。色彩と絵の具の関係について。

(2010.09.14)

昔、誰かに聞いたのか 読んだのか不明ですが、日本人の色感は紙の白をもとに考えられるとか。西洋人は紙(古くはパピルス)には多少の色がついているという認識があるようです。

紙の製法の違いにていろいろとありますが、コットンとボロ布を混ぜている洋紙、ファブリアーノ、ブレダン、アルシュ、ワトソン、ワットマン、アルビレオ、など水彩紙といわれる紙には微妙ですが、色はありますね。
かたや、日本の和紙にも繊維(楮、三叉、雁皮など)により色はあるのですが、墨絵などの障壁画は紙は白いものを基本に描かれているのだと、長谷川等伯の松林図などは墨の濃淡により幽玄に広がる世界観を表現しています。

墨の黒に対して紙の白 無限に広がる淡墨のグレーの色調、空間を表しているのは紙白なのです。日本人の網膜が陰影礼賛ではないですが、墨の黒から白に近い淡墨の階調を見分けるのでしょうか。色彩感覚に優れているとは世界的にもいわれているようですが、「派手娘江戸の下から京を見せ」と句があるように江戸と京上方では「色感」や「色の好み」により「色の組み合わせによる粋」の表現にも多少の違いはあります。
琳派、太閤秀吉、に対して家康の質素倹約と文化の違いで微妙に変化が生まれたのかもしれません、色彩つながりで、思い出したことがあります。

©Takayoshi Tsuchiya

芸大時代の講座で恩師三好二郎先生の「色彩学」がありました。
その中で先生曰く、DICの色見本帳から任意に8色を選んでもらうと、その人が だいたい何処の出身かわかるというのです。その人が選んだブルー青色の色で違いがわかるらしいのです。日本海側に生まれた人はブルーでもグレーがかっていたり、濃度が濃かったりするようです。あくまでも先生の意見ですが、太平洋側の出身者は鮮やかなブルー、青色を選んでいた記憶があります。
三好先生はこれを発展させて色占いをおこなってくれました。

その時 僕たちの教室にいらした「有元利夫」先生が赤の色とグリーンの色を選んでいたのが記憶にあります。今思えば有元さんが描いた背景の辰砂の赤や緑青の色かなあと。有元利夫先生について 広告代理店に数年勤務してから画業に専念するため大学へ戻っていた時期が僕の学生時代と重なり、エッチング、リトグラフ、など工芸棟の工房にて一緒に作業をさせていただきました。

その頃、先生を見ながら教わったことは今でも自分の中での貴重な体験であり思い出です。現在、「没後25年有元利夫展 天空の音楽」 白金庭園美術館にて開催中。9月5日まで。

©Takayoshi Tsuchiya

もとい、「よく先生の色は鮮やかですね、」と、生徒さんから聞かれます。これはあきらかに違いがあるのです、 が 、その違いは画材の違いによります。水彩の場合 ウインザーニュートン の赤、ウィンザーレッドやバーミリオン、スカーレットなどの暖色系の色はウインザーニュートンに限ります、あくまでも私感ですが。

国産の水彩絵の具にも優れたものはありますが、赤に関してはやはりニュートンにかぎりますね。
顔料の元が海外にあり、その顔料にて赤系の色を作っているのですから仕方ないのかもしれません。それは価格にも反映されます、チューブ1本が数千円とか。

絵の具に数千円とはと思うかたもいるでしょうが、この違いが水彩画の仕上がりには響いてきます。前述の「先生の色は鮮やかですね」になるわけです。

日本画の岩絵の具などは宝石を砕いて絵の具にしているようなもので、それはそのまま、日本画の価格帯に反映されます。ブルーのキレイな色、たしか群青など、宝石のラピスラズリに近いものを砕いています。
これほどに画家が使う絵の具には違いがあり、有名な話ですが、ゴッホの絵は今でもとても鮮やかですね、それはゴッホさんの弟のテオさん(画商だと記憶しています。)が兄のためにせっせと良い絵の具を送っていたというのです。絵の具のおかげで 今でも鮮やかな色彩を保ち 描いた当時のいきいきとした作品を見る事が出来るわけです。