鬼頭舞の放課後美術館 – 4 - セットという虚構の中で〜借りぐらしのアリエッティ×種田陽平 展〜

(2010.07.23)

現代美術館では今『借りぐらしのアリエッティ×種田陽平』展が開催されています。3Fはアリエッティ達の家のセットの中に入ってアトラクション感覚で楽しめる非常に楽しい企画展示です。

 

展示イメージ イラスト:種田陽平

忠実に再現されたアリエッティたちの家に夢中になっていると、天井にゴキブリが這いつくばっていたりして驚かされたりも。食器までもが精緻に作り込まれたセットには圧巻させられますが、筆者がとりわけ気になったのが光の魅せ方。ビンから採光していたりとアリエッティたちは工夫をしながら生活しているのですが、セットにもまた光を魅せる工夫がなされています。家の中の排水管の裂け目から落ちる水滴はどこか曇ったやわらかな光をたたえていますが、それに対し、自然光にあたった庭の草木の上の水滴は透明でビニールのように艶があります。

そしてその庭への入り口では光と闇、外部と室内とが織りなすコントラストが強く感じられ、光によってアリエッティ達の住む家と、外の人間たちが暮らす世界との境界が明快になっているように感じます。まぶしく輝く外の世界を前にアリエッティたち小人はどんな想いを抱いたのでしょうか。このような経験はこうしたセットのような実装空間でないと体験できないように思います。

種田陽平監督。

種田監督は本展のカタログでセットを用いない現実そのもののようなCG /3D映画志向の強まる一方、高くつくセットを作りたがらない最近の映画界を危惧していますが、この展覧会ではセットにしか表現しえない世界を改めて感じさせてくれました。

人の手でつくられたセットという虚構が生み出すのはリアリティショーのように現実そのものを撮るのでもなく、CGや3Dのテクノロジーによる生気を感じられない異空間でもありません。まさに展覧会の宣伝文が「現実と虚構を融合させる」というように、現実と虚構の狭間にある何かなのです。そんな種田監督の「再現ではなく表現を、模写ではなく想像を」というポリシーはジブリの作品制作の姿勢にも通じるところがあるように思います。

1Fでは種田監督がこれまで手掛けた作品に関する展示が中心となっています。
『THE有頂天ホテル』、『キルビル』、『空気人形』、『イノセンス』、『フラガール』、『悪人』とここ数年の話題作がほぼラインナップされているところからも種田監督の活躍ぶりがうかがい知れます。『キルビル』の青葉亭のステージの背景は若冲、宗達といった江戸時代の巨匠たちから引用されたモチーフが混在し、主人公が飛行機で降り立つシーンでは『ゴジラ』のセットのようにわざわざ模型を用意したのだそうです。

こうした日本美術に対する愛着は、種田監督の自伝的絵本『どこか遠くへ』(小学館刊)に収録のドローイングにも多いに見受けられます。監督自身が描くホームセンターなどモチーフは、現代のものでありながら、名称の札が右上に掲げられて歌川広重の『東海道五十八次』さながらです。さらに構図なども広重の影響が強く感じられます。

その他CMやポルノグラフィティの『アポロ』をはじめ数々のヒットソングのPV、展覧会の会場構成、ポスター制作など実に多岐にわたる種田監督の仕事を垣間見ることができます。また展覧会の最終パートでは宮崎駿によるアリエッティのイメージボードが設置され、ひとつのキャラクターが生成されるまでのプロセスを垣間見れ興味深いです。

音声ガイドは映画で翔役を担当した神木隆之介くんによる案内とともに、種田監督自身のコメントも多いので是非利用してみてください。

東京都現代美術館ではこのほか、OJUNや泉太郎らの作品が並ぶ『入り口はこちら-なにがみえる?』という常設展のテーマ展示、24日(土)からは『こどものにわ』展も開催されます。併せてどうぞ。

 

放課後美術館、ちょっと寄り道 -4-
飛行機にまつわるものが満載のカフェ『ハネカフェ』

現代美術館もよりの清澄白河の駅を降りてしばらくあるいたところにある『hane-cafe(ハネカフェ)』。“ハネ”という名の由来は店内を見渡せば一目瞭然。壁には昔の客室乗務員のポスター、棚に並べられた飛行機の模型、お冷を入れてくれるグラスにもエアーラインのマーク入り! とここは飛行機にまつわるものが満載のカフェなのです。「タコベジ」はタコライスとベジタリアンカレーが一皿で楽しめる筆者のような欲張りさんにぴったりな一品。カレーは和風だしが利いていて辛さも控えめ。野菜もとても細かいのでお子様にもぴったりです。雑穀米で体にもおいしいのでお母さんも大満足の一品。数量限定なので売り切れに気をつけましょう。

飛行機模様の入ったティラミス、黒ゴマのチーズケーキなど珍しいデザートや豊富な種類のドリンクも揃っているのでお茶をするのにももってこいのカフェです。ご家族でアリエッティ展を満喫した後は是非こちらのカフェにハネを伸ばしに来ては?

hane-cafe(ハネカフェ)
03-5620-0387 / 東京都江東区三好1-8-4 1F / 11:30 – 20:00 (L/O 19:30)、日・祝~19:00 (L/O 18:30) / 木休

『借りぐらしのアリエッティ』

借りぐらしのアリエッティ×種田陽平展

会期:2010年7月17日(土)~10月3日 (日)
休館日:月曜日(ただし7/19, 8/16, 23, 30, 9/20は開館、7/20, 9/21は休館)
開館時間 :10:00~18:00(入場は閉館の30分前まで)
会場 :東京都現代美術館 企画展示室 1F・3F
観覧料:大人・大学生1,200円(1,100円)/ 中高生900円(800円)/ 小学生600円
(500円)
*( )内は20名様以上の団体料金。
*本展チケットで同時開催の「MOTコレクション」もご覧になれます。
*同時開催の「こどものにわ」展とのセット券もございます。
セット券:大人・大学生1,750円(前売1,650円)中・高校生1,200円(前売1,100円)
主催:公益財団法人東京都歴史文化財団 東京都現代美術館/ 日本テレビ放送網/ マンマユート団
企画制作協力:スタジオジブリ/ 三鷹の森ジブリ美術館
後援:読売新聞東京本社/ TOKYO FM/ tvk
協賛:KDDI株式会社
協力:A FACTORY/ 日東化工