女性のための、元気になれる俳句46 選・如月美樹 天よりもかがやくものは蝶の翅 山口誓子

(2009.04.13)
 

 しばしば美しいものの代名詞とされる、と歳時記にあるが、蝶が苦手だという人は多い。私の高校時代の友人にもいた。しかし、蝶のほうはおかまいなく、彼女めがけて飛んでくるのだ。ひらひらと。
 まばゆい春の日射しのなかで、私たちの周りを飛んでいたかと思うと、ふいといなくなった。安堵する彼女。しかし、蝶が来る前といなくなった今は、同じ空間が広がっているはずなのに、なにか大きな不在感があった。
 蝶は記憶を残していったのだ。その小さな翅(はね)によって。記憶の中で、翅はきらきらと輝きを増す。春はそんな季節。掲句初出『遠星』(1947)。