土屋孝元のお洒落奇譚。銀座でレイモン・サヴィニャック展を
見てきました。

(2011.06.17)

ユーモアというよりエスプリ。

銀座でサヴィニャック展を見かけ、観てきました。サヴィニャックはフランスの広告作家でイラストレーターというよりは、町の看板屋さんに近い感じですか? リトグラフの大判ポスターは、かのロートレックのムーランルージュのポスターからカッサンドル(サヴィニャックさんの師匠です。アールデコの巨匠です)、サヴィニャックへと続くポスター広告の流れですが、フランスリトグラフポスターの傑作でもあり、芸術作品だと思います。

サヴィニャックさんは原画を描きリトグラフの職人さんが仕上げるのです。浮世絵と同じで職人技により原画にはないニュアンスも生まれポスターとして面白味が増すのかな、と思います。中でもサヴィニャックさんのポスターはユーモアというよりエスプリの効いた作品が多く。

こんなポスターです。マギーブイヨンのポスターでは、マギーポトフの香りを目を瞑りウットリと嗅ぐ牛の姿で、牛は身体の半分がないのです。そうです、ポトフの鍋の中に牛の半分が入っている。と……。

晩年はトルーヴィルに移り住み。

60年代には黄金期がやってきます。フランス最高の広告賞金賞をもらったのは、 アスプロという薬のポスターで、しかめ面をしたおじさんの頭の中を渋滞したクルマ達が通り抜けるというモノです。70年代に入り広告に代理店が関わるようになるとだんだんと仕事が少なくなっていったようですが、一人代理店のサヴィニャックさんは、シトロエンのマークだけのポスター、フランス国鉄のポスターなどで復活し、晩年はトルーヴィルに移り住み生涯を終えました。

このトルーヴィルでは、街の洋装店のポスターや、カジノのポスター、街の病院の壁、トルーヴィル観光協会のためのポスターなど、パリにいた頃より明るい色彩の作品を残しています。サヴィニャックさんの名前をつけた通りもあるようです。

このトルーヴィルについて一言、トルーヴィル、ドーヴィルは同じ駅で降りる街で小さな海岸のお隣どうしです。ドーヴィルはスノッブでトルーヴィルは少し庶民的です。昔、僕も撮影で何日か過ごした事のある街です。

おとなりのドーヴィルへ。

パリから鉄道か高速で2、3時間のノルマンディー地方にある避暑地で、ドーヴィルは鎌倉と軽井沢を足したような海辺の街でヨットハーバーがあり、洒落たカフェやレストランが並び、デッキで有名な海水浴場、カジノもありました。映画「男と女」の舞台になったり、隣町のオンフルールは街並みがカラフルでディフィの絵の題材にもなっていますね。「スープ・ド・ポワッソン」魚のスープは、とても美味しいので、ぜひとも食べることをオススメいたします。ブイヤベースよりも日本の鍋に近くスープの水分が多いので味噌汁感覚で食べられます。ちょっとお行儀が悪いのですがフランスパンを浸して食べると、一層美味しさが増しますね。

僕が訪れたのは10月初旬ごろでしたが、昼間はまだ夏の様な日差しで海にも入れるかなと思える天気でした。夜、日が落ちるとさすがに大陸気候で急激に温度が下がり、マフラーを巻いたのを覚えています。

ドーヴィルのカジノの都市伝説。

カジノへも出かけたのですが、最初はこんなに勝てて良いのかなと、思うほどでしたが、だんだんと所持金が少なくなり、最後はタクシー代もなく歩いてホテルまで帰りました。少し勝っているところで切り上げる、これが一番です。夜、一人で歩く帰り道はドーヴィルとトルーヴィルは近いようで遠いのでした。

そこのカジノで聞いた、噂話、都市伝説をひとつ。ルーレットテーブルによくやってくる老紳士がいつも、いつも、少し遅れてあと出しすると言うのです。ルーレットでは止まる間際になるとなんとなく予想できるようになりますから、ディーラーがその日も「パルドン、ムッシュー!!」と3回注意していたそうです。

それでもその紳士はあと出しをしていました。その瞬間、ディーラーの横にいたボディガードのような大男が長い針金の様なモノ? 折りたたみ式のナイフを一瞬で取り出し、その老紳士の耳の端を切り落としたというのです。

一瞬の出来事で本人も気がつかない様な早技、まわりのお客さんも何も言えなかった。その後老紳士はスタッフに連れられて何処かへいなくなってしまった。という話です。まことしやかに伝えられていました。

誰にも嫌われず、子供でも理解できるイメージ。

本題に戻り、サヴィニャックさんのポスターには暗い表現はなく、ビックのボールペンや、石鹸のポスター、マギーのポスター、ハムのポスター、など、など、見たことがあるという方達も多いのでは。少し前ですが、森永チョコレート、サントリービール、豊島園の「プール冷えてます。」のポスターもサヴィニャックさんでした。

今、日本ではこういうテイストのポスターが少なくなりました。かなり昔になりますが、カレーのホーロー看板や、栄養ドリンクの看板などは同じテイストでホーロー看板を見ると商品をイメージする広告でした。サヴィニャックさんの素晴らしさは、誰にも嫌われず、子供でも理解できるイメージで商品を的確に伝えたことです。

サヴィニャックさんは、広告は楽しくなければ広告でない。とか、広告は大道芸だ。とも言っていたそうです。

私感ですが、まだこの手法で大型ポスターなど制作すれば、商品イメージを伝える事ができるのでは。予算縮小とか、紙媒体の衰退とか、関係なくポスターをプレミアム商品にしてリトグラフ、シルクスクリーン印刷で仕上げたらどうでしょうか。

レイモン・サヴィニャック展
41歳、「牛乳石鹸モンサヴォン」のポスターで生まれた巨匠”
2011年6月6日(月)~6月28日(火)
ギンザグラフィックギャラリー