シノエリの美術巡礼中 – 5 - 新創! 生まれ変わった根津美術館『根津青山の茶の湯』

(2009.12.09)

お洒落なブランドショップの並ぶ青山6丁目に、突如として現れる日本庭園があります。実はこの広大な庭園、根津美術館の敷地内にあり、入館者は庭園を散策することができるのです。私が美術館を訪れた日はちょうど紅葉の真っ盛りで、鮮やかな色彩が目に心地よい刺激を与えてくれました。

2009年10月7日(水)に、根津美術館は3年半を経て再び開館しました。
新創記念ということで、開館から1年間は、『新創記念特別展』として館が所蔵しているコレクションを8つのテーマに分けてを展示していくそうです。

第1部は10月7日~11月8日に開催された『新・根津美術館 国宝那智瀧図と自然の造形』です。ここでは有名な国宝「那智瀧図」を中心に貴重な作品が多数展示されました。
そして現在、第2部『根津青山の茶の湯ー初代根津嘉一郎の人と茶と道具』が開催中です。
今回はその展示について紹介します。

重要文化財『夕陽山水図』馬麟筆 理宗賛 1幅 中国・南宋時代 13世紀 根津美術館蔵

「鉄道王」とも呼ばれ、実業家であり政治家でもある初代・根津嘉一郎(1860-1940)は、同時に茶人の顔も併せ持っていました。また、財界内での美術愛好家としても知られています。嘉一郎は古美術品に興味を示し、それらを精力的に蒐集しました。それらの蒐集品が、現在根津美術館に所蔵されている貴重なコレクションなのです。そしてそうした蒐集家として有名になった嘉一郎は青山(せいざん)と号し、自らが集めた茶道具を用いた茶会を開くようになったのです。茶の湯の世界に踏み入れたのは大正7年秋、根津青山が59才の時でした。以来、青山は様々な茶席を設けました。今回の展覧会では、そこで用いられた茶道具85点を茶会別に展示しています。そのため、茶会ごとの取り合わせの妙を見ることができる構成となっています。取り合わせというのは、一席の茶会の中で飾られる花入や香合、掛物あるいは釜、茶入、茶碗といった茶道具の組み合わせであり、それらをお客をもてなす空間に再現したものです。

以下、1924年11月13日に行われた夕陽茶会での茶道具について、触れていきます。まず掛物は『夕陽山水図』です。これは山間にすっと差した朱色が印象的で、重要文化財です。そしてさらに目を惹くのは『古銅龍文象耳花生』という青銅の花入。太い首が特徴的で安定感のある直線と曲線のシルエットが魅力的。よくよく見ると耳の部分が象になっており、面白い造形をしています。茶会の際にはどのような草花が飾られていたのでしょうか。香合は緑色をした狸の形のもの。ユーモアのある表情をしています。次に『黄瀬戸獅子香炉』。全体が質素な色をしているので自然と造形に目が向きます。異国情緒溢れるモティーフを使っており、これも少しユーモアを感じます。ちなみに重要美術品です。水指はというと、『南蛮芋頭水指』。私はこの丸い胴体から高台へつながる絶妙なラインが気に入りました。蓋の持ち手の形もどこか愛らしさを感じます。

私が特に気に入ったのは『瀬戸正木手茶入 銘 正木』です。江戸時代17世紀につくられたというこの茶入は、均整がとれた柔らかさのある形で、釉薬は飴色と白濁した茶色をしています。艶のある釉薬の輝きが、視覚を通って触覚を刺激してくるようです。シンプルながら存在感がある作品です。

また、『茶杓 銘 松本』は手元部が細く、節は大きくかつ滑らかに起伏しています。さらによく見ると先端は僅かに斜めで、左右対称ではありません。こういった些細なところに作者の美意識を読み取ることができそうです。

重要美術品『黄瀬戸獅子香炉』 美濃 1個 桃山時代 16世紀 根津美術館蔵

最後に茶碗について。『青井戸茶碗 銘 柴田』はざらりとした表面で、ろくろの回転を感じさせる形です。一方『伊羅保茶碗 銘 淀屋』は大ぶりで緑がかった灰色をしています。ふちが軽く外側に反っていることにも気付きます。胴体の歪みにより、意識して左右対称性が壊されているようです。

これらの道具を用いて濃茶をたてた後、「誰もが楽しめる自由で開放的な茶会」を目指した青山は、薄茶席にかえて番茶席とし、友人ら(原三渓、岩原謙庵、高橋箒庵など)と歓談を楽しんだのだといいます。

茶道というと難しそうだと思えてしまいますが、これはもてなしの精神なのではないでしょうか。例えば大切な友人を自分の家に招く時、たいていは部屋を片付けて綺麗にし、テーブルクロスをひいて花を飾り、一緒に食べるお菓子や飲み物は何がいいかしら、と考えますよね。その行為を洗練させ、芸術にまで高めたのが茶の湯なのだと思います。

だんだんと寒くなって参りましたが、お茶の世界でほっこり暖まってみるのもいいかもしれません。

 

☆シノエリの現場ルポ☆

折角なので原宿駅から表参道を通って根津美術館を訪れました。
表参道は私のお気に入りスポットなのです。
もうクリスマスモードに突入していました!
夜はイルミネーションが素晴らしくロマンティックです。

そして根津美術館は一目でそれと分かる建物。
目印は“竹”です。
館内に入ると巨大な一面の窓から素敵な庭園が望めます。
まさに素敵空間。
季節を変えてまた来たくなる場所です。

 

 

新創記念特別展 第2部
根津青山の茶の湯
初代根津嘉一郎の人と茶と道具
Nezu Seizan: Tea and Art

2009年11月18日(水)~12月23日(水・祝)
開館時間:10:00~17:00(入館は16:30まで)
月休
入館料:特別展一般1,200円、学生1,000円
Tel:03ー3400ー2536
住所:東京都港区南青山6ー5ー1
http://www.nezu-muse.or.jp/