リブロ・トリニティ – 1 - 『作ること暮らすこと』井山三希子 著

(2008.07.15)
〜著者、編集者、書店スタッフ 三位一体 書籍紹介〜

井山三希子 著 『作ること暮らすこと』

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『作ること暮らすこと』  井山三希子 著(産業編集センター)

協力/藤栩典子、写真/根岸佐千子、
装幀/沼澤順子、吉村麻理子、佐野恵理子/ish.inc
1,680円(税込み)

■著者より

やきものやとなってまだ16年目……ついぞ。

著者プロフィール

井山三希子(いやま・みきこ)
1965年、東京生まれ。佐賀町エキジビット・スペースに勤めながら休
みの日に陶芸教室へ通い、瀬戸の職業訓練校へ。仕事の打ち合わせもスイミングの日はダメ、なほどスイミングにはまるこのごろ。マスターズの大会にも。

 最後のあとがきにも書いていますが、数年前に家の取材で知り合った、フリーの編集者の藤羽典子さんから「一冊、本を作りませんか」とお話を頂いたとき、「私の本なんてありえない……」とすぐにお断りをしました。
 やきものやとなってまだ16年目、本に仕事をまとめるほど完成された仕事をしてきていないし、自分の生活を一緒に出すと言っても、当時住んでいた家は築40年になる古い家、ここでの生活を見ていただいても、自分はもちろん見る方も悲しい気持ちになるのでは……そんな腰の引けた状態で、藤羽さんと何度か話し合いを重ねていくうちに、真っ直ぐに向かって来る彼女と一緒に仕事をしてみたいと思うようになりました。

 カメラマンは藤羽さんと一緒に取材をしていただいた、根岸佐千子さんと迷わずに決まり、デザインは古くからの友人の沼澤順子さんに、出版社はやはり数年前に取材を受けた、産業編集センターの福永恵子さんをたずねる事に、産業編集センターは友人でもあるRARI YOSHIOさんの本などライフスタイル本を数年前から出版していましたが皆さんメジャーリーガー、ただのやきものやの私にはきっと厳しい返事だろうと期待せずに待っていた返事は「やりましょう」と、いざスタートです。
こうなったら腹をくくってやらせて頂しかない、でも以前から自分の作った器より自分の名前が前に出ることをイヤだと発言してきた私には、たくさんの矛盾を抱えながら撮影が始まりました。
一年かけて月に二回から三回のペースで、器を撮る・食事を撮る・仕事の風景を撮る……女性ばかりで定期的に集まって行なう撮影は、それぞれがだんだんリラックスしてくる事も、食事は毎回撮影をしていたつもりなのに、編集の段階で「あらっ、牛肉の時雨煮、食べたんだけど写真がないよね?」なんて事も、今思うと部活のような感覚だったのかもしれませんね。

でも何より苦労したのが初めての原稿書き、器の制作に、展示会をし、仕事場と家の引っ越しも、新しい家に移った頃には頭も身体もクタクタでしたが、残りの原稿や写真のキャプション入れを残し、自分へのご褒美にと楽しみにしていたデンマーク旅行へ行くときは、皆さんの視線が怖かった気がします(気のせいでしょうか……)。
迷い、悩みながら作り始めた初めての本ですが、自分の仕事・生活・ものに対してキチンと考えを整理をする事が出来、また沢山の人の支えでここまで来る事が出来たとあらためて思いました……
今はただやってよかったと思うばかりです。

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■編集者より

編集者プロフィール

産業編集センター出版部 
福永恵子(ふくなが・けいこ)
1972年生まれ。主な担当書籍に、小説『鴨川ホルモー』雑貨ガイド『チャルカの東欧雑貨買いつけ旅日記』紀行ガイド『哈日杏子のこだわり台湾案内』などがある。チェックと花柄が好き。浪費の傾向アリ。

原稿の持つ、しなやかで力強い迫力

『作ること暮らすこと』は、白と黒の器の作り手、井山三希子さんの初めての書籍です。ここでは、本を作ることになった経緯を振り返りながら、個人的とも言える感想を書かせていただきたいと思います。

 井山さんとの出会いは4年ほど前に遡ります。その当時の井山さんからは、本を執筆される可能性はゼロに等しいだろうな、という印象を受けました。ご自分の名前が前に出ることに大きな抵抗を持っていらっしゃる方(井山さんはご自身の器にもお名前を入れません)が、本を執筆されることは、よほどのことがない限りないだろう、と残念に思ったことを覚えています。
 ですから、去年の年明け頃に企画のご提案をいただいた時には、びっくりしました。「これまでのことを振り返り、まとめてみたいと思って」というお話でしたが、それでも腑に落ちず、「ご自分のお名前で本を出されるならば、それ相当の覚悟が必要になってきますが大丈夫ですか?」と厳しいことを伝えさせていただきました。

 単行本として一冊をまとめあげるには、著者としての腹のすわりと熱意が何と言っても必要になります。最初に井山さんから提示された本の構成は、井山さんの器を紹介するに留まったものでしたが、私は一つの器がカタチになるまでを知りたいと思いました。どんなきっかけで、どんな経緯があって、どんな試行錯誤がなされて、あの器が出来上がっているのか、それこそを見てみたいと。そのためには、どうしても「井山三希子」という一人の人物に正面から向き合った構成が必要になります。何度か再検討のお願いをし、最終的に今の目次立てとなりました。井山さんの暮らしを限界まで著したものになっていると思います。ただ、いくら「本を作りたい」という気持ちがあったとしても、井山さんの中でご自分のプライベートを見せることへの抵抗は、計り知れないものがあったはずです。そして、そのような思いをしながらも一冊作りあげることが、長い目で見て果たして井山さんにとってどんな意味を持つことになるのか、本を出したことを後悔されてしまうのではないか、というためらいが私の中にはありました。「覚悟が必要になりますが大丈夫ですか?」などと偉そうに言っておきながら、私自身が迷っていたのです。

 こちらの希望にどのぐらいまで応えてもらえるのか、予想がつかないままに切ってしまったスタートでしたが、届いた原稿には、藤野での暮らし、日々のこと、これまでの交友関係、仕事のこと、制作のことが、真摯に誠実に丁寧に綴られていました。原稿を読み、井山さんの作り手としての器への思い、「暮らし」の愉しみ方、「もの」への眼差しを知り、私は我が身と自分の生活を振り返ることしばしばでした。それまで食器棚の奥に大事にしまい込んでいた井山さんの器を手前に出した時には、私の迷いも消えていました。この原稿の持つ、しなやかで力強い迫力を一人でも多くの人に知ってもらいたい、と心から思ったのです。
『作ること暮らすこと』はまさに著者渾身の一冊です。

 ライフスタイル系の書籍が山と出版される中、本書の個性がどこまで読者に受け入れられるのか、未知数の中での制作でしたが、発売一ヵ月で増刷がかかったことは、一先ずの結果と言って良いと思います。この本に表れている井山さんの生活者としての潔さ強さの気配が、読者に伝わったのであろうことを願ってやみません。

 最後に。初めての書籍刊行という出来事を、井山さんはご自分の中でまだ消化できずにいらっしゃるようです。でも、何年後であっても、この本の執筆が何かの契機、何かのきっかけにつながったと井山さんに思っていただけたなら、本作りに携わった者の一人としてこんなに嬉しいことはありません。

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■書店員より

リブロ渋谷店 宮崎麻紀(趣味実用書担当)

山に興味があります。なかなか行けないのですが、山の詩集や写真集を見て気を紛らわせています。

 一大決心して買ったのに使わずに眠っているもの、間に合わせに買って結局捨てられる運命にあるもの。もの選びの失敗は数えきれません。
 だから、よいものを教えてくれる本はこれまでにもたくさんありましたが、「必要であっても、気に入ったものと出会わなければ買わない」という井山さんのもの選びの姿勢には、はっとさせられます。結局、自分好みのものだけを身の回りに置くという単純なことが、ものと長く付き合う上で一番大切なことなのかもしれません。
 ただ、無意識のうちに流行に流されていたりして、意外に自分の好みは自分ではわからないこともあります。『作ること暮らすこと』を眺めていると、芯の通った井山さんの好みが伝わってきて、そんなライフスタイルに対する憧れも、この本が支持されている理由ではないかと思います。

下記は終了しております。

■■■井山さん出展のイベント「ガスリーズ・マーケット」開催■■■

作者の井山三希子に会ってみたい人はぜひ! 井山さんはじめやきものの上泉秀人さん、中心に金工の坂野友紀さんなど、物作りを生業とする人たちの顔を見ながらの、作品販売展です。会場のガスリーズ・ハウスは、築80年になる織物工場だった木造の建物で、懐かしの佇まいがそのまま。

日程 9月 27日 土曜日
時間 10時~5時  準備9時からスタート
場所 八王子 ガスリーズ横スペース
メンバー
上泉 秀人 磁器の器 青梅市
井山 三希子 陶器の器 八王子市
野上 薫 陶器の器 藤野町
竹嶋 玲 陶器の器 藤野町
伊藤 環 陶器の器 三浦市
坂野 友紀 金工 八王子市
井上 枝利奈 ガラス 世田谷区
岩本 美千子 横浜市
米本 卓弘 多肉植物 八王子市
森  哲人 薫製 青梅市
黒田 ゆきこ 保存食 世田谷区
セト キョウコ 軽食・飲み物 国分寺市
後援 中央線デザイン倶楽部・八王子
お問い合わせ Tel.042−686−0746