シノエリの美術巡礼中 – 3 - 会場から出る時にはまるで一つの旅を終えたような……『鴻池朋子展  インタートラベラー 神話と遊ぶ人』

(2009.09.21)

現在最も注目を浴びているアーティスト・鴻池朋子の展覧会『鴻池朋子展 インタートラベラー 神話と遊ぶ人』に行ってきました。

鴻池朋子さんは、『ネオテニー・ジャパン 高橋コレクション』でもインパクトのある作品を披露しており、私はその数点の作品からも背景に広がる壮大な世界観を感じたことを覚えています。今回はその世界観により深く踏み入ることができそうで、期待に胸を膨らませて会場を訪れました。そして予想以上の完成度と鴻池朋子という人物の奥深さに驚愕しました。この感動は実際に展示会場を訪れなければ分からないものです。

展示は地球の中心に向かって深く深く潜っていくというストーリィ仕立てになっています。私はすっかりインタートラベラーになって展示会場の空間いっぱいに広がる鴻池ワールドをじっくりと堪能しました。

『mimio――Odyssey』DVD 11’30” / 2005 Ⓒ KONOIKE Tomoko / Courtesy: Mizuma Art Gallery

開かれた襖『隠れマウンテン――襖絵』をくぐり抜けると、そこは別世界。歩みを進めるにつれ、不思議な世界が展開します。蚊帳に囲まれた空間に渦巻状に並んでいるのは、四季の移り変わりを描いた絵本『みみお』の原画。鑑賞者は原画に沿ってぐるぐる回ることになります。そんな風に非日常的なことを普通にやってしまっている状況に誰も気付きません。既に鴻池朋子の術中に嵌まっているのです。

赤い垂れ幕を捲って地殻からマントル、外核へ。ここでの垂れ幕を捲る、という行為は非常にエキサイティングです。鑑賞者は次に進む、という強い認識をしながら、まだ見ぬ世界に期待と不安を滲ませるのです。また、時折ふと上を見ると“足だけ”の彼女がこちらを“見て”いました。なるほど、この旅のお供というわけです。遊び心溢れる存在に思わず笑みが漏れました。そしてふと思いました。彼女に“足だけ”あるのは何故なのか――。それは進むため、前進し旅を続ける為なのではないか。だから彼女には足しかないのではなく、足だけはあるのです。このように想像力をかきたてられながら、旅人は内核へと踏み入れます。そこで語られるのは世界の未来、そして秘密。核心に近付くにつれて緊張は高まり、ついに地球の中心へ。

言葉を越えた圧倒的な何かがそこにありました。会場には鴻池朋子さんの不思議で綺麗な言葉が満ちていましたが、最後の最後に強烈な勢いで私へぶつかってきたのは言葉にできないものでした。

軽い浮遊感と眩暈を感じ、自分には体があったのだ、と気付きました。地球の中心を見つめながら、意識と思考は自分の内部に向かっていました。ここまで潜ってきた地球は、外ではなく私の内側に存在したのです。

会場から出た時にはまるで一つの旅を終えたような心境でした。

思考はどこまでも自由で、もっと高く、もっと遠くまで飛べる。

想像力のすばらしさに触れて、私は子どもの頃のようにもう一度飛びたくなりました。

あなたも、不思議な世界を旅してみませんか?

 

 

鴻池朋子展 インタートラベラー 神話と遊ぶ人

期日:2009年7月18日(土)~9月27日(日)
会場:東京オペラシティ アートギャラリー
料金:1.000円(一般)ほか
問い合わせ:問い合わせ:東京オペラシティアートギャラリー Tel. 03-5353-0756
http://www.operacity.jp/ag/