『第15回 文化庁メディア芸術祭』
国立新美術館にて開催。

(2012.02.22)

ソーシャルサービス、スマートフォンの普及で
宇宙も身近になった、メディアの世界。

『第15回 文化庁メディア芸術祭』が東京・国立新美術館でスタート。アート、エンターテインメント、アニメーション、マンガの4部門にエントリーした2,714作品から選り抜きの受賞作品と審査委員会推薦作品約170点が展示されています。

各部門、大賞、優秀賞のほか、審査員推薦作品が選ばれますが、今年から新人賞も創設されました。
 

アート部門大賞は、山本 良浩 作の映像作品『Que voz feio(醜い声)』。双子の女性が、自らの声がこのような「醜い声」になった理由を、左右それぞれの画面の中で語りはじめるのですが、微妙に話が食い違っている。彼女たちが口ずさむ歌についても同様な話の食い違い、が起きます。彼女たちの記憶違いか? 果たして観客は、左右の話を聞き分けられているのか? 記憶や認識の差異を考えさせる知的な作品。

4つの優秀賞のうちのひとつ、町田-相模原の1年分の天気模様の写真、ムービーをつなげたWEBサイト、片山 義幸 作『つながる天気 』。いつも観ている空の風景をつなぎあわせ、止まっていないことを目撃することで、天体活動の不思議に改めて気づきます。さらには、止まっている空の写真や絵を見ていた時のことを彷彿させ、新たに人間の想像力の豊かさを気づかせるという、逆説的な暗示も魅力の作品です。
 

エンターテインメント部門は、今年はスマートフォン向けのソーシャルゲームやアプリの応募が増加。新人賞の成瀬 つばさ 作『リズムシ』 は『anan』の連載でもおなじみ、シリーズで総計200万ダウンロードを超える音楽アプリ。手描き鉛筆タッチのほっこりゆるりイラストと、打ち込みサウンドとのギャップ、触ると音が出る、絵も出る楽器といった面白みが人気を呼び続けている作品です。

大賞の 『スペース・バルーン・プロジェクト』は、スマートフォンGALAXY S llを気球に載せて上空3,000mの成層圏へフライトさせ、Twitterで募集した宇宙へ届けたいメッセージを表示、USTREAM,WEBで世界に届けるという壮大なプロジェクト。Twitterという身近なソーシャルツールを使ったメッセージが宇宙へ行く、ということで、あたかも自分が宇宙へ行ったような気分になれる楽しい作品になっています。
 

国立新美術館のほか
4つのサテライト会場で実際に作品に触れて。

マンガ部門は、3.11後、渾身のマンガを発表し続けたしりあがり寿 作『あの日からのマンガ』が優秀賞に選ばれました。会場では、掲載された新聞の震災報道記事とともに4コママンガ『宇宙防衛家の人びと』が展示されています。また、震災後、被災地に駆けつけボランティアを行ったしりあがりさんの活動の模様を伝える写真も。未曾有の危機の時にこそ、マンガ家としての使命をかけて読者を笑わせ、考えさせた軌跡です。

そのほか、スペインのパコ・ルカ作『皺』、アメリカのアリソン・ベグダル作『ファン・ホームーある家族の基悲喜劇ー』の海外の2作品が、初のマンガ部門優秀賞に入選。大賞はやさしいタッチと色合いで、近未来の地球コロニーに暮らすミツの成長を描いた岩岡ヒサエ『土星マンション』が受賞。フリーハンドで描き込まれた画面には、従来の未来ものにはなかった暖かさがあります。

アニメ部門では、昨年のひきつづきテレビ番組が大賞に。『魔法少女まどか☆マギカ』は重厚なストーリー展開、美しい映像、斬新な音楽の使い方など、挑戦的な手法がパワーを感じさせます。優秀賞は日本古来の伝承に題材をとった歴史大河 川崎博嗣監督『鬼神伝』、瀬戸内観の小さな島を舞台にした沖浦啓之監督『ももへの手紙』。19世紀の写真家エドワード・マイブリッジの人生と、現代の母娘の人生を、ノスタルジックなアニメーションで交錯させた山村浩二『マイブリッジの糸』ほか。ストーリー重視した心に残る作品が選ばれました。
 
今年は国立新美術館のほか4つのサテライト会場が設置され、入賞作品により親しめる機会が増えました。東京ミッドタウンタワー7F『d-labo』では、入選のマンガをゆっくり読めるスポットもあります。合わせてチェックしてみてください。

アート部門より

左・映像作品『Que voz feio(醜い声)』山本 良浩 双子の女性が「醜い声」になった体験を回想する。それぞれの話は微妙に食い違い、観ている者に認識と記憶の差異を感じさせる知的な作品。

右・インタラクティブアート『Soak』Yunsil HEO / Hyunwood BANG 布を触ると淡い色合いのカラーが広がる。触ることで色が広がる新体験ができる。

左・映像作品『HIMATSUBUSHI』 植木 秀治 アート部門新人賞受賞。東京-静岡 東海道新幹線の車窓の風景。よく見ると小さい白い人影 (写真左上角に注目)がビルの上でジャンプしたり、富士山を登ったり。なぜか笑える作品。

右・WEB作品『つながる天気 』片山 義幸 町田-相模原の1年分の天気模様の写真、ムービーをつなげたWEBサイト。

エンターテインメント部門より

左・新人賞『リズムシ』 成瀬 つばさ  『an・an』の連載でもおなじみ、シリーズで総計200万ダウンロードを超える音楽アプリ。写真はぬいぐるみなどキャラクターグッズ。

右・優秀賞『相転移的装置』勝本 雄一朗 柔らかさと固さを合わせもったものを作れば、何か新しいことができるのでは、という発想で、蝶番でつながるパーツの形をくにゃくにゃと変えることで異なる音が出る装置。 ノーマルだとリコーダー、首を曲げるとサックス、棒状にするとドラム、輪にするとハープの音に。

左・審査委員会推薦作品のスマートフォンアプリ作品のブース。スマホを振るとフラッシュが光り爆音が鳴る『Tyny Riot』、ユーザーがカメラで映したリアルタイムの画像を音楽とシンクロさせる salyu salyu『muse’lt visual』のiPhoneアプリなど。

右・大賞 『スペース・バルーン・プロジェクト』大八木 翼 / 馬場 鑑平 / 野添 剛士 / John POWELL スマートフォンGALAXY S llを気球に載せて上空3,000mの成層圏へフライトさせ、Twitterで募集した宇宙へ届けたいメッセージを表示、USTREAMで世界に届けるプロジェクト。

マンガ部門より

左・『あの日からのマンガ』 しりあがり 寿  3.11以降、精力的に制作発表された新聞連載を含むマンガ。考えさせながら笑わせ、笑わせながら考えさせる、日本のリアルな精神状況を反映した驚くべき作品となった。

右・審査委員会推薦作品。『水蜻蛉の庭』須藤真澄、『西原理恵子の人生画力対決』西原理恵子、『氷河期』ニコラ・ド・クレシー、『人間失格』古屋兎丸、『テルマエ・ロマエ』ヤマザキマリなど。

左・大賞 『土星マンション』 岩岡 ヒサエ 近未来、地球に暮らせなくなった人類は地球外コロニーに住んでいた。そこに暮らすミツの成長を描く。写真は作者の岩岡さんと、作品を手がける前にハマっていたという人形。

右・新人賞 『マスタード・チョコレート』冬川 智子  Web・Mobileで発表されたケータイマンガ作品。ヒトコマずつクリックして読み進むスタイル。美大を目指して美術予備校に通うつぐみの毎日を描く。

アニメーション部門、メディア芸術クリエイター育成支援事業より

左・大賞『魔法少女まどか☆マギカ』新房 昭之(監督) 重厚なストーリー展開、美しい映像、斬新な音楽の使い方など、挑戦的な手法が多用されたテレビアニメシリーズ。

右・優秀賞 短編アニメーション『Folksongs & Ballads 』Mathieu VERNERIE / Pauline DEFACHELLES / Rémy PAUL フランスSupinfocom Valenciennes イラストレーター科の学生3人の卒業制作作品。

左・『Folksongs & Ballads 』のクリエーター3人。左からCGデザイナー Rémy PAUL、Pauline DEFACHELLES、ディレクター Mathieu VERNERIE。

右・メディア芸術クリエイター育成支援事業の成果を発表する6組のクリエイターより、藤木 淳 『ゲームキョウカイ』。ハードの枠を超えてキャラクターが枠外へ。『ゲーム&ウォッチ』『Wii』『ニンテンドーDC』の規格お構いなしに前進。

『第15回文化庁メディア芸術祭』受賞作品展

会期:2012年2月22日(水)~3月4日(日)

※28日(火)休館 10:00~18:00 金曜は 20:00 (入館は閉館の30分前)

会場:国立新美術館 企画展示室1E
東京都港区六本木7-22-2
※サテライト会場:d-labo(東京ミッドタウンタワー7F 映像上映、読書会など)、メルセデス・ベンツ コネクション(作品展示)、ニコファーレ(ゲーム作品)、TOHOシネマズ六本木ヒルズ プレミアスクリーン(映像作品上映)

観覧料 : 無料

主催 :文化庁メディア芸術祭実行委員会、文化庁、国立新美術館

問合せ TEL. CG-ARTS 協会内「文化庁メディア芸術祭事務局」フリーダイヤル 0120-309-100

http://megei.jp/