土屋孝元のお洒落奇譚。桜の花の満開を待つ日々、
二十四節気で晴明になりました。

(2012.04.13)

先日の春の嵐が過ぎ、やっと桜も開花したと思ったらこの雨で花もおわりでしょうか、例年よりほんとうに寒い春でした。
手紙の書き出しに「春寒の候」とありますが、まさにその字の如くです。

この季節、夜風とともに香る沈丁花の花の香りもようやくで、梅の花や桃の花も次々と満開になり、近所の公園の白木蓮やこぶしの花もいっせいに咲き出しました。

個人的な好みですが、染井吉野や敬翁桜、山桜よりも八重桜が好きですね、満開の桜はみなどれも美しいのですが、特に八重桜は美しいと思います。『桜の園』『風と共に去りぬ』のイメージが重なるからかもしれません。北国ではこれくらいの寒さは毎年 普通のことなのでしょうね、

春、花々がいっせいに咲き出すとの表現が少しわかったような気がします、本当に日本は南北に長い国だと実感します。
満開の桜の散る様子を見ると西行の詠んだ

「願はくは花の下にて春死なむそのきさらぎの望月のころ」

この歌を連想します。

『セザンヌ―パリとプロヴァンス』展へ。

先日 セザンヌ展へ出かけてきました。

国立新美術館の展示スペースを広く使用した展覧会で世界40館より集められたセザンヌ作品が一同に会します。

パリ時代、プロバンス時代の両方が見られるのは世界的にも珍しいようです。

まずは初期の作品群です、

パリ時代のアカデミックな作品でドラクロワに傾倒していたとされる作品などがならびます。

次に一連の風景画群、サント・ヴィクトワール山を描いた連作も並び、この時期セザンヌは印象派の技法をまとめ、光の移ろいの変化を描いた曖昧なものから体系的に美術史に残りうる より強固な表現へと進んでいきました。

このサント・ヴィクトワール山に描かれた植栽の描き方が個人的に印象に残っていますが、長谷川等伯の松林図の表現と一部分、松の木の表現がだぶります、どちらかが影響を与えたとかということは考えられないでしょう。

同じ時代ゴッホやマネは日本から来た浮世絵に興味を示し模写までして、自分の作品の中にも登場させたりしていますが、当時セザンヌは日本美術には興味がないと言っていたようです、

浮世絵『葛飾北斎の富嶽三十六景』を見たのではないかとも言われていますが真相は定かではありません、

この日本から来た一連の浮世絵は作品として輸入されたのではなく、当時日本からの代表的な輸出品だった伊万里焼など陶磁器を包む今でいうクッションの新聞紙の代わりだったとも言われていますが確実な資料がないのでこれだとも言い切れません。

次に人体をモチーフにした作品群、有名な水浴図などが入ります、マティスが後に影響を受け同じテーマで繰り返し描き、セザンヌの水浴図を長い間 個人所有していたとされています。

庭師の肖像。背景が簡略化させて新しい変化が見えます。
近代絵画の父といわれる所以は。

肖像画の展示、セザンヌ夫人や庭師や農民など親密な人達を繰り返し描いています、この肖像画における画面構成や人物の衣装などの簡略化、背景の単純化の試みは後にキュビズムに発展していくのです。水彩や油彩で描かれた静物作品群の展示、セザンヌが生涯で描いた油彩画1000点中200点が静物画であったことからも、いかに静物画を重視していたかがわかります、

中でもリンゴを描いた作品は100点もあり、かなりのリンゴ好きだったのでしょうね、この静物画の構成は美術予備校時代の水彩や淡彩や油彩画の画面構成の見本のようで、懐かしくもありました。画面内を円錐、円柱、球体で構成するセザンヌの静物画を見ると近代絵画の父と呼ばれるのも理解できます。

最後に晩年のプロバンス時代の作品群と各時代コーナーごとに一望できます。原画を見た感想ですが油彩にしては薄塗りでまるで水彩の様に描かれています、この時代の少し前にはドラクロワ、アングル、などのサロンの常連、ルーブルを代表する錚々たる画家たちがいて油彩でもかなりの厚塗りだった様な記憶がありました、セザンヌ展では描きかけの作品もあり、制作途中の作業もすっかり見えていて参考になるものでした。

展覧会最後に最近発見されたというセザンヌのポートレート写真があり、その写真を見ると美術の教科書で有名な気難しそうな自画像とは違いにこやかに微笑むチャップリン風のスーツを着たお爺さんのように見えていました。

いま、東京には世界中から良い作品が来ています、なるべく時間を作って、本物の原画を自分の目で見ておきたいものですね。

国立新美術館開館5周年 『セザンヌ―パリとプロヴァンス』展 “Cézanne. Paris-Provence”

会期:開催中〜2012年6月11日(月)
休館日:火(ただし5月1日は開館)
開館時間:10:00〜18:00(金曜日は20:00まで)、入場は閉館の30分前まで
会場:国立新美術館 企画展示室1E

東京都港区六本木7-22-2
【アクセス】
主催:国立新美術館、日本経済新聞社

後援:フランス大使館

特別協力:オルセー美術館、パリ市立プティ・パレ美術館
問い合わせ:TEL 03-5777-8600(ハローダイヤル)