Shibuya Tourbillon 〜5〜 セミトラ『SOC.HOP (ソック.ホップ)』展 、『フクシマでつなぐ』 デジタルの世界で人が感じる違和感、
原発20km線上で人が見つけた解決。

(2013.06.04)

渋谷から文化の旋風を!と考える『アツコバルー arts drinks talk』、『サラヴァ東京』のオーナー アツコ・バルーさんのコラム『Shibuya Tourbillon(シブヤ・トゥルビヨン)』。開催中の『SOC.HOP』展、『フクシマでつなぐ』について。

プログラマー・デザイナー集団、
セミトラ 結成10周年

セミトラを透明にする。というテーマで今、開かれている展覧会『セミトラ『SOC.HOP(ソック.ホップ))』展』ではセミトラのメンバー6人がそれぞれの妄想を形にしてみた。著名なデザイナー・プログラマー集団『Semitransparent Design(セミトランスペアレント・デザイン 略してセミトラ)』結成10周年もあり、長年彼らに注目してきたキューレーター四方幸子さんの挑発に彼らが受けて立った形である。

 100円ショップを何軒も梯子して買い集めた自転車のテールランプを木の桟に取り付けたのは田中良治。このために珍しく手を使い、足を使って人のコントロールを離れたところで勝手に点滅する不正確な発光体を作ってみた。という。反デジタルの面白さを表現。


田中良治『just then n of us』。量産品のLEDライトが持っている製品誤差(点滅間隔のばらつき)によるアニメーション。

トシユキ スガイは電子書籍リーダー『キンドル』のトップ画面をハッキングして画面に大きく落書きで『This is not a book』と書いてみた。リコメンドばかりしてくる amazon.com が個人的な営みに介入してくることに対する違和感を形にした。また同じ大きさでピクセルによる発光体『発光する1pix』と写真による映像『反射する1pix』を並列して、『発光体に感動するのか反射体に感動するのか。』という疑問を投じる。パソコンや電子機械上でみる映像はすべて発光体だ。同じ映像でも写真は光を反射。人は炎に魅了されるように発光体に惹かれるのだろうか?


トシユキ スガイ『This is not a book』。 リコメンドばかりしてくる amazon.comへの違和感を形に。
『言葉の解像度』?

高津直孝は『言葉の解像度』というテーマを10枚の透明なフィルムに解像度の違うプリントで同じ文章を表したものをのれんのように展示した。「思い」を言葉に表す時、クリアに人に伝わるか、そのレベルを解像度というピクセルの語彙であらわしたのが新鮮だ。壁を隔てて次のスペースの展示されたのが5W1H。つまり、どこで誰がいつ何を、という作品。ツイッターに表示されるコメントをシャッフルしてまるでジェテーム、モア、ノンプリュみたいなシュールな会話が繰り広げられる。その不思議でユーモラスな会話は詩的で言葉の整合性がちぐはくだったり、時々、変にばっちリかみ合っているのがおかしくて見飽きない。


高津直孝『言葉 / 解像度。』「思い」を言葉に表す時、クリアに人に伝わるか。

同じく言葉がテーマで、ごく私小説的な日記がQRコードを読み込むとスマホで読める仕掛けが柴田祐介の『アップロードとダウンロードの境目』
 
彼は日記をブログにアップしていてその読者と知り合い結婚した、という経験を持つ。日記をネット上でアップロードする。それをこの場でダウンロードするたびに大画面にビビビと波長が走る。そこで読む人もアノニマスな存在となる。というパラドドックスを表現。何とも不思議な、人の心の中を覗いてしまったドキドキ感と誰でもやっているというアノニマス感が微妙な居心地の悪さを生み出す秀作。
サイト http://diary.yusukeshibata.jp/


柴田祐介『アップロードとダウンロードの境目』。アップされた赤裸々な日記をその場所限定で読める。

柏木恵美子『o.m.f.m. op.01』。お昼の間に蓄電、夜になるとレモン、木、鈴蘭の絵 そのものが発光する。

有本誠司『Tシャツの原板』。文字の下にピンクの影が落ちるなど凝りに凝ったディテールのTシャツデザインの原板を展示。
川内村在住の陶芸家、
画家の志賀敏広。

うってかわって、6月18日(火)から23日(日)までは川内村在住の陶芸家であり画家でもある志賀敏広を中心とした展覧会。

 ふるさとを追われた人たちの悲しみ、怒りは「違和感」などというかわいいものじゃない。私が以前訪れた志賀の家は遠くに福島原発は見えるものの、清らかな小川のほとりにある気持ちの良い家で、アトリエと薪窯が庭の奥、村で獲れた大豆の豆腐、味噌、福島の海でとれた新鮮な魚介をいただいた。自然の恵みや村の人々との共存の中で実にうらやましい豊かな生活を送っていた。そういうものすべてが奪われた。
 
作家は震災で避難を余儀なくされたとき、庭に咲き誇る花を切り取っては写生していった。その後も荷物を取り戻る度、無人となり果てた村に花は咲き,果実は収穫されないまま見事に熟れていた。「もののあはれ」がテーマの200枚の写生。もう一つのテーマは日本中が右往左往していた時に不動の山、富士山をパターン化して描いた山シリーズ200枚。避難先の土を絵の具に塗りこめた。
 
陶芸家として、使いやすい日常の器の即売会も兼ねている。


志賀敏広
『私は福島に残ります。』

娘の風夏(当時高校生)は父に習い陶芸を作り始めた、数か月で白磁の造形をマスターして上に緻密な染付で描いた大作を全国のコンクールに出品していった。完成度の高い作品は軒並み賞を獲得。コンクールあらしで稼いだお金を家の生計の足しにしたうえ、大阪の大学から学費免除の申し入れを蹴って、『私は福島に残ります。』と決めた。

18歳の彼女がコンクールに出した作品を展示する。

Steve Tootellは東京在住のイギリス人陶芸家、志賀の苦しい時に率先してバザーや即売会を開いてくれた。この3人がつながり、力を合わせたことによりこの展覧会は成立した。

志賀が悲しみの中で見いだした解決法はこれだった。


風夏

●『アツコバルー arts drinks talk』 で開催中の展覧会
セミトラ『SOC.HOP(ソック.ホップ)』展 
2013年5月29日(水)〜 6月9日(日) 
営業時間:14:00〜23:00 

●これからの展覧会
『フクシマでつなぐ』志賀敏広・風夏&Steve tootell 絵画と陶器 展
2013年6月18日(火)〜 23(日)会期中無休
営業時間:11:00 〜 20:00(22日、23日は19:00まで)

『アツコバルー arts drinks talk』
TEL:03-6427-8048
所在地:東京都渋谷区松濤1-29-1 渋谷クロスロードビル 5F
休館日:月、火
入場料:1ドリンク (500円)

『アツコバルー arts drinks talk』のアイドル、あかねちゃん。