アジア初の回顧展。詩的リアリズム
『ジョセフ・クーデルカ展』

(2013.11.06)
ジョセフ・クーデルカ 『エグザイルズ』より オー=ド=セーヌ、フランス、1987年 © Josef Koudelka / Magnum Photos
ジョセフ・クーデルカ 『エグザイルズ』より オー=ド=セーヌ、フランス、1987年 © Josef Koudelka / Magnum Photos

2013年11月6日(水)~2014年1月13日(月・祝)、東京国立近代美術館で開催の『ジョセフ・クーデルカ展』。その代表的なシリーズ「ジプシーズ」や「エグザイルズ」を含む約280点が展示されるアジアでは初の回顧展です。

1938 年チェコスロヴァキア生まれ、世界で最も注目される写真家の一人、ジョセフ・クーデルカの初期から最新作までを紹介します。

航空技師として働きながら1960 年代初頭に写真を発表し始め、1967 年には技師の仕事を辞め、フリーランスの写真家として活動を開始。その翌年ワルシャワ条約機構軍のプラハ侵攻「チェコ事件」で兵士に抵抗する市民の姿を多く撮影。その写真は匿名のまま西側に配信されました。これをきっかけに1970 年、クーデルカは故国を離れます。71年、マグナム・フォトに参加。


チェコスロバキア時代から取り組み後にイギリス、フランスを拠点にロマの人々の暮らしをとらえた『ジプシーズ Gypsies1962-1970』、亡命後にヨーロッパ各地で撮影された『エグザイルズ Exiles 1970-1994』などのシリーズを発表。

詩的でありながら独特の強さをもつイメージによって、市井の人々のささやかな人生の陰影をとらえた作品群。20 世紀文明論的な奥行きをも備えた作品として高く評価されています。

2002 年、クーデルカの初めての本格的な回顧展として、故国チェコ共和国、プラハのナショナル・ギャラリーで開催された『ジョセフ・クーデルカ展』は、その後トルコやメキシコに巡回。

アジアでは初の開催となる東京展では、従来展示されなかったヴィンテージ・プリントが加わります。また1980 年代後半より取り組むパノラマ・フォーマットの作品『カオス Chaos 1986-2012』のシリーズも。

初期から今日に至るクーデルカの作品世界を紹介します。

また同時期開催の所蔵作品展『MOMATコレクション』ではクーデルカと同年生まれの森山大道 初期の代表作『にっぽん劇場』(1968)を全100点を一括展示します。


ジョセフ・クーデルカ 『ジプシーズ』より スロヴァキア、チェコスロヴァキア、1967年 © Josef Koudelka / Magnum Photos 

●ジョセフ・クーデルカ 来日記者会見より

写真展開催に先立ちジョセフ・クーデルカさんの来日記者会見が東京国立近代美術館にて行われました。会場にニコニコしながら登場、設置されている自身の来歴年表パネルの写真を指さしながら説明するなど、実にラフで陽気。


テノール歌手のように通る声で陽気に豁達と語るクーデルカさん。©2013 by Peter Brune

展示は7つのコーナーに分けられています。
1 初期作品 / Beginnings 1958-1961
2 実験 / Experiments 1962-1964
3 劇場 / Theater 1962-1970
4 ジプシーズ / Gypsies 1962-1970
5 侵攻 / Invasion 1968
6 エグザイルズ / Exiles 1970-1994
7 カオス / Chaos 1986-2012

全283点が展示。1~7まで製作年代順になっており、1~4がチェコ時代、5 の『侵攻』は1968年、チェコで起った変革運動「プラハの春」を捉えたものでそれがきっかけで西側に政治亡命、6~7は亡命後から現在までの作品。


『ジョセフ・クーデルカ展』より。右手に『ジプシーズ 1962-1970』、左手に『劇場 1962-1970』の写真が並ぶ一角。

『ジプシーズ 1962-1970』より。

『エグザイルズ 1970-1994』より。


最新作も含む、『カオス 1986-2012』より。

記者会見では東京国立近代美術館 加茂川幸夫館長がクーデルカさん自身が展覧会の準備のために二度の来日を果たし、自ら会場構成を行ったと紹介。企画担当・増田玲さんは、展示のうち3の『劇場』シリーズはヴィンテージプリントであることに触れました。これまで世界を巡回してきた本展では、プリント複写ネガから作ってものであったので、大きく異なります。

Q&Aコーナーでは、「(エグザイルズシリーズに触れながら)エグザイルの極意を教えてほしい」というカメラマンの質問に「特に金言のようなものはない。私自身、ただの愚か者がカメラを持って世界を旅しているようなもの。だが、まあ、よい靴を買うことです。」と答えるなどユーモアたっぷり。

劇場、ジプシーのシリーズが、それぞれその後の写真に影響したかについては「人生、生活は劇場であるという視点を習得できた。」、「写真が被写体に影響を与えることがあるが、逆に被写体が写真家に影響することもある。彼らから二つのことを学びました、それは生きていくのに必要なものはそんなにたくさんはないこと。それから将来についてそんなに心配することはない。」と答えました。いずれも豁達、明確な喋りで、大御所ぶらないオープンマインドな姿勢を感じさせます。

また「(『侵攻』シリーズの)『プラハの春』は劇場であったのか?」という質問には後に続く世代への真摯なメッセージを交えながら答えました。
「私にとってはプラハは劇場ではありませんでした、強力な現実でした。悲劇でもあったという点では劇場でしたが。撮影期間は1週間、その間の私の行動はそれまでの日常生活とは大きく違いました、街にいた人々にとっても同じだったでしょう。国家には時によっては悲劇が必要なのもしれない。チェコは小国です。一方にはドイツがあり、もう一方にはロシアがある。歴史を振り返ると大部分の戦いにおいて負けて来ています。ただこの1週間だけはチェコは立ち上がり、国家として振る舞いました。そういった意味でもこの1968年の写真は重要だということができると思います。

2年前、東京都写真美術館で開催された『侵攻』シリーズの大きな展覧会(『ジョセフ・クーデルカ プラハ1968』)はその後世界を巡回し、ロシアにも行きました。そこにはたくさんの若者が来てくれたことを嬉しく思いました。チェコの若者には忘れてほしくありません、この時に国として誇らしい行動をしたことを。ロシアの若者にはこの時の彼らの父、母、祖父母のチェコにおける行動にはならないように、できる限りのことをしてほしいと気づいてほしかった。

今、テルアビブで展示しようという提案を受けてます。いかなる占領であれ、占領であるには違いはない。銃を持つ人がいれば、持たざる人もいる。願わくば銃を持たざる人の方が力強いということを示せればよいと考えています。」

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「存在するものはいつかは終結を迎えます、私は未来よりも終わりかけているものに興味をひかれます。そこで救えるものを私は捉えたいのです。

これまで私はいつも旅して来ました。ひとつの国に3ヶ月以上いたことはありません。その場所で面白いと思うことを見つけたらそれを深く追求する。ファインダーの中に世界をとらえ、その世界はまた私をかたちづくるのです。」と結びました。

ジョセフ・クーデルカ展

会場:東京国立近代美術館 1F 企画展ギャラリー (東京都千代田区北の丸公園3-1)
会期:2013年11月6日(水)~2014年1月13日(月・祝)
休館日:月(12 / 23、1 / 13日は開館)、12 / 24(火)、年末年始 12 / 28(土)〜1 / 1(水・祝)
問い合わせ:03-5777-8600(ハローダイヤル)