「不道徳なこと」しちゃったら、あなたは罪悪感に悩むかしら? 本谷有希子作・演出『甘え』に登場する父と娘は、もつれ合って……

(2010.04.27)

本谷有希子は人間のダークサイドを毒々しくも滑稽に描きます。外部と関係を築くバランス感覚が崩れた登場人物たちを笑いつつ、見る者は居心地悪〜い気分にさいなまれるの。痛くてオカシイ人物の騒動にどきどきさせられるうちに、観客も一種の自傷行為に参加しているような気分になっちゃって。

娘(写真中央、小池栄子)と父(左端、大河内浩)の息苦しい日常に、父の女友達(右端、広岡由里子)そして娘の友人(安藤玉恵)と若い男(水橋研二)がからみ、人間関係が緊迫していく。

2007年に鶴屋南北戯曲賞を受賞した『遭難、』では、自分大好きな女性教師が非道な行為を重ねます。2009年に岸田戯曲賞に輝いた『幸せ最高ありがとうマジで!』では、身勝手なヒロインが他人の家庭をかきまわす。
……こういうタイプ、近くにいたらイヤだな、でも、被害にあうのが他人なら面白いか……。

そんな印象を与える「困った人」、つまり周囲の迷惑を顧みない自意識過剰キャラの、極端な行動に現実味を漂わせる演出手腕もパワフル。幅広いジャンルで活動する本谷ですが、小説は芥川賞や三島賞など文学賞の候補にあがり、今秋には原作映画化の2本目になる『乱暴と待機』が公開される予定です。

主宰する『劇団、本谷有希子』は、専属俳優をもたないプロデュース・ユニット。公演のたびに新鮮な組み合わせの俳優が、ディープな世界を表現します。最新作『甘え』では、孤独と欲望と投げやり気分でよどんだ暮らしを、罪の意識が襲うんです。罪悪感とセットでついてくるのは、罰ですよね。

物語の設定をお話しましょう。罵りあい息苦しいほど追いつめ合う父(大河内浩)と娘(小池栄子)の家に、娘の友人(安藤玉恵)がなんとも情けない空気をもちこむの。友人が連れてくる男(水橋研二)や父の女友達(広岡由里子)も出入りする家は、次第に緊迫した状況に。やがて、恐ろしい事件が起きる要素をはらみながら、人間関係がズレていく。鍵になるのは、「夜這い」という言葉。

かつて農村に実在した性風習「夜這い」には、犯罪的な側面もあります。そして、作家は『甘え』のテーマは「不道徳」と発表しているんです。正統がなくなると同時に異端も消えた昨今、「道徳」は死語と化しています。悪意と妄想を武器に、ワイルドな世界を浮上させてきた本谷有希子が道徳をどう料理するのかしら?  

あやしいドラマですね。なりゆきが気になる皆様は、ベッドの置かれた丸いステージを囲んで「不道徳」のゆくえを見張ってください。

 
 

劇団、本谷有希子公演『甘え』

作・演出:本谷有希子
出演:小池栄子/水橋研二/安藤玉恵/広岡由里子/大河内浩 
日時:2010年5月10日(月)〜6月6日(日)
会場:青山円形劇場 Tel. 03-3797-5678
問合せ:ヴィレッヂ Tel. 03-5361-3027 
劇団、本谷有希子オフィシャルサイト http://www.motoyayukiko.com/