鬼頭舞の放課後美術館 – 5 - これは写真なの? 〜オノデラユキ 写真の迷宮(ラビリンス)へ 展〜

(2010.08.18)

東京都写真美術館で開催されている『オノデラユキ 写真の迷宮(ラビリンス)へ』展。パリを拠点に活動してきたオノデラの作品を東京でまとめて見ることができるのはこれが初めての機会となります。それぞれの作品ごとにテーマが違うオノデラの作品。例えばカメラのレンズの中にビー玉を入れてしまう『真珠の作り方』をはじめオノデラのイタズラ心は非常にラディカルです。

 

『12 Speed』(2008)

ポスターにも使われた『12 Speed』では蛍光ピンクの壁面にグラフィティのタグのようなものが施され、テーブルの上にはポテトチップスやハンバーガーといった現代社会を象徴するようなものが並びますが、その構図は古典的な静物画をもとにしたものです。鑑賞者側を向く鏡に映りこむのは青々と茂るフォーテーヌブローの森であり、撮影場所を断定できる唯一のてがかりとなっています。鑑賞者は何処にいるのか、森の中なのか、展示室内なのかー。目前に立ち現れる鮮やかなピンクに包まれた光景との乖離が我々鑑賞者の位置をますます分からなくさせているともいえる不思議な写真です。

『11Fingers』は街ゆく人々を隠し撮りしたものですが、大胆にも繊細なレース状に細工をほどこした厚紙をちょうど顔が隠れるように覆いかけられています。それは匿名性の担保のためでもありますが、やはり写真の上に異物が重なったこの作品を前にしてこれを写真という概念でくくってもいいものなのかというような疑念を抱かざるをえません。そして人がカメラが向けられているとは知らずにとったポーズはどこか滑稽です。それは人間の感情をもっともよくあらわす顔が見えないことにより、よりその無意味さを強調します。隠し撮りであるためか、ぶれていたり粗く捉えられた人物とその繊細なレース細工とが織りなす対比がより一層紙の物質感、異物感を際立ています。被写体となった人々の視線がどこに投げかけられているのかが不明瞭であることからくる不安に加え、私たち鑑賞者はこれを写真として捉えていいのか、という今までの写真に対する思い込み対して疑念を抱かせます。

『Annular Eclipse-Bear』(2007)
『Transvest』(2002-)

異性の服装趣味を表す語をタイトルにあてた『Transvast』では自ら被写体を撮影した『11th Finger』とはうってかわって雑誌からイメージをとっています。地に足をつけていない人物が黒いシルエットとなって浮かび上がりますが、眼を凝らしてよく見てみるとその闇の中に都市風景が映り込んでいます。どこか浮遊感の漂う雑誌から引用されたイメージたちは、か細く空虚ささえ抱かせますが、しかしその空の内部は満たされています。

このイメージの多様性のようなものは形態や現れ方こそ違いますがオノデラの作品に一貫して存在するものではないでしょうか。オノデラの写真はそこにうつし出されたもののほかに何か物語のようなものが明らかに存在しています。それは地図上からRomaと名のつく町を見つけ、その名前に導かれるようにして撮影を行った『Roma-Roma』や、事件を手掛かりに制作を行った『オルフェウスの下方』のような、作家の意志を意識的に排除したかのような作品であっても同様に見えます。

オノデラは日本語の写真は「真」を「写す」もの、と捉えられているのに対し、フランスでは「光(photo)」が「書く(graph)」するものとして捉えられており、必ずしも現実をそのまま写すものだとは思われてないことを知り大変驚いたと言います。まさにオノデラの写真は、写真機に身を任せ真実をただ「写す」のではなく、探究心をもって物語を付与するように自身の意志をもって「書いた」ものだと言えるでしょう。彼女はあらゆる実験を繰り返すのは、「書き方」のバリエーションを求め続けているからなのでしょう。初めての版画作品となる『Annular Eclipse』で用いられたシルクスクリーンという技法をはまさにイメージを重ねるのにうってつけの技法です。写真という枠をまたいで活発に活動を重ねるオノデラユキ。彼女の実験心は今後も止むことなく、制作を続けていくのでしょう。

 

放課後美術館、ちょっと寄り道 -5-
生活に彩を添えるステキな雑貨『イコッカ』

今回はおやつではないのですが恵比寿駅からほど近い小さな雑貨屋さんをご紹介します。ビルの2階にある『Ékoca(イコッカ)』というお店では食器類を中心にふきんや花器、掃除用具など生活に彩を添えるようなステキな雑貨を多数取り扱っています。作家さんの手による一点ものなども多く、お気に入りがきっと見つかるはずです。薄口のガラスは口当たりがよくとても使い勝手がいいです。パン販売のイベントなども行っているのでこまめにホームページをのぞいてみてください。

Ékoca
東京都渋谷区恵比寿南1-21-18 圓山ビル2F
Tel&Fax 03-5721-6676    
open:12:00~19:00
close:日曜日・第2・第3月曜日(祝日は営業)(第2・第3月曜と祝日と重なる時は翌火曜日休み)
http://www.ekoca.com

オノデラユキ
写真の迷宮(ラビリンス)へ

会期: 2010年7月27日 ( 火 ) ~ 9月26日 ( 日 )
Tel.03-3280-0099
住所:東京都目黒区三田1-13-3 恵比寿ガーデンプレイス内
開館時間:10:00〜18:00(木、金は20:00まで)
休館日:毎週月曜日(休館日が祝日・振替休日の場合はその翌日)
料金:一般 700(560)円/学生 600(480)円/中高生・65歳以上 500(400)円
( )は20名以上団体、当館の映画鑑賞券ご提示者、上記カード会員割引/
小学生以下および障害者手帳をお持ちの方とその介護者は無料/東京都写真美術館友の会会員は無料/第3水曜日は65歳以上無料