深瀬鋭一郎のあーとdeロハスロンドン新都心、
カナリー・ワーフ アート散歩。

(2012.04.29)
Aeolus - Acoustic Wind Pavilion, Luke Jerram, 2012
カナリー・ワーフの
パブリック・アート鑑賞。

去る3月から4月にかけてロンドンに滞在した際に、ロンドン東部ドックランズにある新都心、カナリー・ワーフの視覚芸術プログラムを視察してきました。

イギリスのアート・サポート体制は、欧米先進国の中では最低クラスと言われています。そうした中でも、次代を担う独創的なアーティストが次々と生まれてきたのは、ロンドンに世界最大級の美術品流通市場があるとか、社会に前衛を喜んで受け入れる気風があるとか、アーティストとして成功し階層社会の中で成り上がろうというハングリー精神等の背景があるからと言われています。

日本にも、1970年代前半までは、美術品流通市場の規模は小さくとも、芸術家のハングリー精神や、旦那衆(市民富裕層)による芸術家への支援があったと言われますが、残念ながら、現在の日本にはあまり存在しない様子です。

 
ビジネス街でのパブリックアート(街の公共的空間に設置された美術作品)展示は、日本では、この旦那衆がいた40年前に、彫刻の森美術館の収蔵品貸出協力により、東京都千代田区丸の内で始まりました。現在は、丸の内仲通りに14点、丸の内ブリックスクエア敷地内の一号館広場に4点の作品が展示されており、2~3年に一度展示替えされています。

ロンドンの新都心であるカナリー・ワーフでも、この3倍に上る60点以上という英国最大級のパブリック・アートコレクションがあるほか、観覧無料の特別展が年中開催されており、過去45回以上の展覧会で、約130人のアーティストが展示しています。

カナリー・ワーフの芸術プログラムは1990年代初期から開始されたもので、2002年には、就業環境における顕著なアートへの貢献により、”Art and Work Award”(芸術と労働賞)を、2010年には、競売会社クリスティーズからの”Award for Best Corporate Art Collection and Programme”(企業による最良の美術品蒐集と芸術プログラム賞)を受賞しました。

アートマップはこちらのウェブページから入手できます。


イゴール・ミトライのポストモダン的トルソー。CENTAURO, Igol Mitraj, 1984

地元ロンドンの作家スレシュ・ダットの空へ届こうとする立方体。Drawing Cube (Blue), Suresh Dutt, 2010

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展示作家の紹介をしましょう。イゴール・ミトライ(Igor Mitraj、ポーランド、1944~)の損傷した古典彫刻のように四肢等を切り取ったポストモダン的トルソー(胴体のみの彫像)、キャサリン・ヤス(Catherine Yass、イギリス、1963~)の幻想的なライトボックス、ソフィー・スモールホーン(Sophie Smallhorn、イギリス、1971~)のカラフルかつミニマルな(最小限の構成要素による)壁面構成作品など、日本でも紹介された作家の作品も見られます。

世界的には著名でない作家についても、同時代的な優れた作品が展示されており、企画者の確かな選択眼には感心させられます。

また、現在、カナリー・ワーフでは「働く彫刻」(Sculpture at Work)と題し、イギリス人彫刻家3名の特別展を開催しています。ジュビリー公園(Jubilee Park)では3月12日から5月25日まで大御所アンソニー・カロ(Anthony Caro、イギリス、1924~)の鉄彫刻7点、ワン・カナダ・スクエア1階ロビーでは3月19日から5月25日までジュディス・コーワン(Judith Cowan、イギリス、1956~)のグラスファイバー彫塑5点(The Stuff of Dreams展)、カナダ・スクエア公園では3月27日から5月10日までルーク・ジェラム(Luke Jerram、イギリス、1974~)の巨大な風鳴琴(Aeolian harp)“Aeolus”を展示しています。

カナリー・ワーフは、ロンドンの中心街シティからドックランド・ライト・レールウェイ(DLR)または繁華街オックスフォード・サーカス(銀座中央通りのような通り)近くのグリーン・パーク駅からロンドン地下鉄ジュビリー線で20分程度です。

ロンドン東部にある、テート・モダンやホワイト・チャペル・ギャラリー、バービカン・センターなどを巡る機会があれば、少し足を延ばして、ぜひカナリーワーフも訪れて見てください。風鳴琴は、新都心の高層ビルに囲まれた公園で、ビル風が吹き抜けるたびにとてもよい音色を奏でていますよ。


ジュビリー公園の大御所アンソニー・カロの作品。St George and the Dragon, Anthony Caro in Jubilee Park, 1973-87

ワン・カナダ・スクエアのジュディス・コーワン、グラスファイバー作品。Globes of Stuff, Judith Cowan, 2012

カナリー・ワーフ『働く彫刻』(Sculpture at Work)