トモロヲ×オレノ×モンド×ヨタロウ鈴木勝秀の演劇ジャムセッション
『LYNX Live Dub vol.1 LYNX』

(2012.05.23)

高くてつまらない演劇は、もういらない。

日本でドキドキするような芝居を見なくなって久しい。私の高校時代、寺山修司の『天井桟敷』が渋谷でメインストリームを突っ走り、『小劇場 渋谷ジァン・ジァン』ではイヨネスコの芝居を延々とやっていた頃、下北沢の空き地や新宿花園神社、あちらこちらで『紅テント』(状況劇場)や『黒テント』の連中が暴れまわっていた。面白い時もあったし、くだらない時もあった。しかしそれもゲームのうち、と納得させられるエネルギーがあって、私は夢中だった。

大学を出て外国に暮らすようになって、数年たった頃か、旅行に行ったモントリオールでロベール・ルパージュの演劇を見て衝撃を受けた。音や映像を効果的に使い、たかが1-2人の俳優がいくつもの並行世界を作り上げていた。その頃はアートサーカスが出てきた時代でもあった。アクロバットと道化、演劇とオペラ、そしてロックコンサートが渾然と溶け合った世界に魅了された。大成功した『シルク・ドゥ・ソレイユ(Cirque du Soleil)』とそれに対抗して、もっと演劇的なグループ、もっとコンテポラリ―ダンスに近い演劇、言葉を省いて詩情を大切にするグループなど、今でも次々と出てきている。百花繚乱という様相でヨーロッパの演劇シーズンは楽しい限りである。

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パリで1985年から私たちの仲間と行った『テアトル・アレフ(Theatre Aleph)』では、まったくの素人を使った芝居でそれぞれの下手さを逆手に取ってぐさりと胸に刺さるような人間味のある芝居を、一種の「アルテ・ポーヴェラ」と言うかアウトサイダー・アートのような抜き身の真剣さでプロの劇団に対抗してきた。よく噂を聞きつけて太陽劇団(アリアーヌ・ムヌーシュキン主宰)の俳優たちが見に来ていた。中には素人の中に入って芝居をしたいとやって来るものたちもいたが、反対に下手で使い物にならなかった。なぜなら彼らは演じてしまうのだ、他の連中はなりきってしなうのに対して。しかし、私も含めて本当にズブに素人がほとんどの劇団なので毎晩ヒヤヒヤしながらも極上の演劇経験をさせてもらった。

コアなプロ3名とズブの素人ばかりで構成された『テアトル・アレフ』。教会の物置で始まり、600人のシアターで6ケ月のロングランを行った。

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10年前に日本に戻りしばらくぶりに芝居を見に行って、反対にショックを受けた。全然面白くない、しかも高すぎる! 日本は20年間鎖国していたのか? いや、たまたま見た芝居が悪かったのか?

もしかしたら値段が高すぎる、と言うことと、つまらないということはリンクしていないか? 洋服だって高いブランド物ってセンスよりもいかに高く見えるか、と言うところにポイントがあったりするから、ひどく重たくてダサいデザインのが多いじゃあないですか。あれみたいに硬直しちゃっているのではないかしら。

それとも日本の陥りやすい断絶構造に問題があったのか? 音楽の世界で思うのだが、日本のポップスで歌のうまい人は少ない。でも演歌や民謡では抜群にうまい人がたくさんいる。なぜ民謡の彼らがうまいかと言うと、地域や文化に根ざして小さい頃から聞いて歌ってうまくなっているから。

ところがポップスやロックは薄皮のように張り付いているだけだから、根っこもない、だから伸びない。で、アメリカの黒人音楽がジャズやソウルになり今のポップスにまで発展したように、根っこからずんずん伸びていけば、日本発のユニークで強い音楽ができるのに、なぜが日本ではそこで断絶してしまい、民謡歌手は民謡、歌はうまいがソルフェージュやコード進行のわからないまま、ガラパゴス化する。(唯一沖縄の民謡に素晴らしい試みがある。)ポップスは根なし草のまま、ヒットだけ求めて漂ってる。誠に残念な話である。演劇で言うと、能、歌舞伎、日舞、文楽の世界と現代の創作演劇の関係が同様になっているのかもしれない。

スズカツさんが、『サラヴァ東京』で新しい試み。

その問題は歌舞伎や能の世界の人に健闘を願うとして、問題は高くてつまらない演劇である。俳優たちが必死でチケット売りさばいて、友達だから義理だから、と暇と金のある女性だけが見に来るような芝居はもういらない。なんとかしてください! という挑発を受けて立ったのがスズカツさん。『サラヴァ東京』で新しい試みがはじまります。

演出家、スズカツさんこと鈴木勝秀さんは早稲田大学在学中から演劇活動を開始し、1987年にプロデュース・ユニット『ザズゥ・シアター(ZAZOUS THEATER)』を旗揚げ、主宰。約10年間の公演活動。その後1998年から3年間の活動休止期間を経たのち、2001年からはフリーで活動を再開します。

これまでの主な演出作品は『欲望という名の電車』(’01 / 篠井英介)、『ベント』(’04 / 椎名桔平)、『ディファイルド』(’04年 / 大沢たかお・長塚京三)、『ドレッサー』(’05 / 平幹二朗)、『レインマン』(’07椎名桔平・橋爪功)、『ノー・マンズ・ランド』(’07 / 坂本昌行)、『写楽考』(’07 / 堤真一)、『ファントム』(’08 / 大沢たかお)、『冬の絵空』(’08 / 藤木直人)、『ドリアン・グレイの肖像』(’09 / 山本耕史)、『宮城野』((’09 / 草刈民代)、『フロスト/ニクソン』(’09 / 北大路欣也・仲村トオル)、『ウエアハウス-circle-』(’11 / 橋爪功)、『7DOORS』(’12 / 水夏希・SUGIZO)など。また、早稲田大隈講堂ほか全国20カ所以上での公演を重ねた一人芝居『緒形拳ひとり舞台 白野―シラノ―』(’06)は、緒形拳最後の舞台作品となりました。音楽との関わりの深い作品も数多く、ミュージカル以外にも、ロックから現代音楽まで、様々ななジャンルのライヴ演出を手がけています。

演出家のスズカツさんこと鈴木勝秀さん。草サッカーチーム『FC AARDVARK』のプレーイング・マネージャーでもある。

テキストはネット上で公開。
俳優はどう動くか?
2008年、スズカツさんは自身の構成・演出による『HYMNS(ヒムス)』の公演パンフレットで、「三十代の頃、 “ZAZOUSっぽい” スタイルを深めることで『ZAZOUS THEATER』に縛られ不自由になっていった」と書き、『ZAZOUS THEATER』を天に返す、と宣言。「好きなモノ」に囲まれ「何でもあり」であることを求め続ける人、スズカツさんの追求は今も続いています。

そのスズカツさんが、『サラヴァ東京』で何をしようとしているのか。『サラヴァ東京』の空間に足を踏み入れ「しばらく考えます」と言ったあと、スズカツさんから「『LYNX』三部作をやりたい」という提案がありました。『LYNX』三部作とは、『LYNX(リンクス)』(初演1990)『MYTH(ミス)』(2006)『HYMNS(ヒムス)』(2008)のスズカツ・オリジナル三作品のこと。これが、渋谷のライブハウスで息を吹き返します。それぞれ一夜限り。

このスズカツさんの提案に賛同した役者とスタッフが集まり、ギャラに関係なく出演や参加を承諾してくれました。これは若者がある時間を経て大人になったからできる遊びではありません。スズカツさんにはこの先の目論みがあります。『LYNX』『CLOUD』の 連続上演の実現、それこそが『LYNX Live Dub』 参加メンバーのやりたい仕事なのです。『CLOUD』は、『LYNX』の初演から20年経た2011年に「今この時代に『LYNX』の主人公オガワが死なずにに50歳になっていたらどうだろう?」というところから作られた作品。

主人公オガワについて、スズカツさんは「1990年、僕(スズカツさん)の中に突然オガワが現れた。」といいます。また、「オガワは僕のアヴァターラ。僕の代わりに考え、苦悩し、泣き、叫び、のたうちまわる……そのおかげで、僕は平穏な毎日を送れるのである。」とも。

そんな背景をもって私たちの目の前で行われるのが『LYNX Live Dub』。

2011年6月23日〜7月3日、青山円形劇場公演『CLOUD』より。

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そのキックオフとなる2012年6月1日、サラヴァ東京で起こること。1990年12月、青山円形劇場で初演の『LYNX』のテキストを役者たちが読む。動くかもしれないし、動かないかもしれない。当日まで稽古時間はもたない。テキストはネット上で公開されていてダウンロードできるので、観客は事前に読んでおくこともできるし、当日それを手にしていることもできる。そして、スズカツ作品に重要なファクターとなる音楽とSEが入る。

50を過ぎた大人たちが、演劇の持っている可能性を模索している。そのプロセスの現場になるのが、サラヴァ東京。その空間に居合わせる人はすべて、参加する目撃者となるのです。

プロデューサーもスポンサーもない。そのかわり観客が保証人です。彼らは予定調和で上品にぱちぱち手のひらを打ち合わせなくてもよい。本音で、つまらなければ唸り、感動すれば涙する。俳優も演出家も、観客のうねりを感じながら、芝居を練りこんで行くでしょう。だけど、だから100%演劇へのご招待です。

2011年6月23日~7月3日、青山円形劇場公演『CLOUD』より。
『LYNX Live Dub vol.1 LYNX』
リンクス ライブ ダブ

構成、演出:鈴木勝秀 
出演:田口トモロヲ、オレノグラフィティ、山岸門人、伊藤ヨタロウ
テキスト:ダウンロードしてください。

*【LYNX Live Dub】SARAVAH東京での今後の公演予定
 vol.2『MYTH(ミス)』2012年9月下旬
 vol.3『HYMNS(ヒムス)』2012年12月中旬

期日:2012年6月1日(金)
開場:19:00、開演:19:30
終演後、LYNX-CLOUD連続上演推進会議 (~23:00)

料金:予約、当日 2,500円 1drink付

問い合わせ:SARAVAH東京 TEL.03-6427-8886