おどろくべきアートシャンデリア
デザイナー キム・ソンへ。

(2011.11.14)

なつかし、カワイイぬいぐるみ、ドールたちがわんさかシャンデリアとなって世を照らす。ひと目見たら忘れられない驚くべきカワイイ・バロック・シャンデリア。『H.P.FRANCE』『SILAS&MARIA』『パンとエスプレッソと』ファッション・ブティック、カフェのディスプレイなどで作品を発表、『パスザバトン』表参道店での作品展を終えたばかりのデザイナー、キム・ソンへさんに、そのクリエーションの源泉、モチーフ、制作過程……インタビューです。

■キム・ソンヘ プロフィール

デザイナー
Kim Songhe。1982年生まれ。織田デザイン専門学校卒業後『ノゾミイシグロ』企画グループへ。ショー演出、内装デザインに関わる。セレクトショップ『LOVELSS』のクリスマスディス・プレイを手がけたことからファッション業界を中心にワン&オンリーな作風が知られることに。愛してやまない『ディズニー』とのコラボレーション・シャンデリア(’08)、『BEAMS』×『セブンイレブン』のコラボ『BEAMSTATIONERY』メインビジュアル・アート(’09)、雑誌『EYESCREAM』×『アディダス』コラボレーションイベントのアート(’09)、『H.P.FFRANCE』ウィンドウ・ディスプレイ……etc.、着々と活躍の場を拡大してきた。この10月『PASS THE BATTON』表参道店にて作品展を開催。大盛況を博す。趣味はヨガ、休日は子供と遊んで過ごす。作品作りのほかテキスタイル・デザイン、エディトリアル・デザインも。作品のパーソナルオーダーも受け付けている。
http://www.kimsonghe.com/

モチベーションは
ビックリさせたい、楽しませたい。

ー2006年の『LOVELESS』でぬいぐるみが盛り盛りのクリスマスツリーを拝見、仰天しました。今回の『PASS THE BATTON』での展示は、ジャイアントサイズのぬいぐるみシャンデリアが登場しています。どのようなテーマで作成したものですか?

「いつもそうなのですが、明確なテーマを設けるワケでもなく、ただ、みんなをビックリさせたい、楽しい気持ちにしたい、と思って作っています。」

ーぬいぐるみ好きな女の子は多いです、『ty』ブランドのクタクタ加減がたまらないプチぬいぐるみシリーズ「ビーニーベイビーズ」は一部で大流行しました。でもそれでシャンデリアを作ろう、と考える人はあまりいないと思います。そもそもぬいぐるみでシャンデリアを作りはじめたきっかけを教えてください。

「ファッション・デザインを勉強後『ノゾミイシグロ』の企画グループで仕事をしていました。『ノゾミイシグロ』は企画制というか、みなやりたいことを企画として提案、それが通るとプロジェクトとして実際に動く、という壮絶なほど楽しい会社で、私はそこでなぜか一ヶ月間お店づくりをしていたり、ディスプレイの人間あやつり人形や、キノコの家を作ったりしていました。

ショウの演出や、店舗デザイン担当の師匠の元でアシスタントをしていたのですが、この師匠がいろいろヒントを与えてくれました。『ノゾミイシグロ』のほか『アンダーカバー』などのショウやお店を手掛ける天才肌の師匠がディスプレイとしてシャンデリアを作っていて、そのアシストをしながらシャンデリア作りに興味を持ちました。

ノゾミさんをはじめ、マルタンマルジェラやコムデギャルソン、などが面白い服を作るように、私はシャンデリアで面白いことができるかも、と。今まで見たこともないものを作れちゃうだろう、と。」


2011年『パスザバトン』で開催された作品展から。
タイガー&ライオンライト

光を照らして役にたつ。
アートとしても楽しいシャンデリア。

ーぬいぐるみって抱いて寝たり、いっしょにいるだけでうれしい存在です。そのぬいぐるみがいっぱいいて、光り輝いているというソンへさんのシャンデリアは、まばゆいファンタジーです。このスタイルが確立したのは?

2006年に展示会『ROOMS』に出展するために作品を作りました。大好きでたくさん持っていたぬいぐるみを組んで小さいシャンデリアを作りました、お気に入りのダンボのぬいぐるみを使った作品で、それを『LOVELESS』のバイヤー、吉井雄一さんが気に入ってお店のクリスマス・ディスプレイをやらないかと誘ってくれました。『LOVELESS』の展示がきっかけで、いろいろなところから「うちでもやってくれ」と声をかけていただくことが多くなりました。

ぬいぐるみのほか、本でシャンデリアを組んでみたり、髪の毛、ヘア・エクステンションでアート作品を作りました。

シャンデリアは光を灯すものです。光は人間の生活に欠かせないもの。そこにあるだけ飾るだけのアートというのではなく、点灯するという役にも立つもの。そして楽しいもの。役にたつアートが作りたかった私にはぴったりな表現だと思います。」

『LOVELESS』ショウウィンドウ 2005年 
ラフも完成予想図も描かない、
直感主義。

ーぬいぐるみがワンサカいてそれが発光するシャンデリア、しかも倒れたり落下したりしないで物体として成立している、というソンへさんの作品は構造的にもしっかり設計されていると思うのですが。制作時には、なにか完成予想図のようなものを描いて、それに基づいてぬいぐるみをチョイス、発光装置の構造に沿って組み立てていく、という工程でしょうか?

「デザイン画やラフは一切描きません。シャンデリア、という基本形は変わらず、頭に浮かんだイメージのまま、自然に直感で素材を選んでいきます。素材との出会いありき、というか。

たとえば、『PASS THE BATTON』のタイガー&ライオン シャンデリアは、タイガーとライオンの大きいぬいぐるみを見つけて、これはシャンデリアにできると、すぐわかりました。点灯装置が装着できる構造かどうか、すぐ判断できます。

組み立てていく方法は、ちょっとフラワー・アレンジメントに似ていて、中心となる、フラワー・アレンジメントでいうところのオアシスのようなものに、アイテムを差していったり、貼り付けたり、塗ったりしていきます。」

ー絵を描くアーティストさんならお気に入りの画材は何ですか、と聞きたいところですが、ソンへさんのお気に入りの素材、ぬいぐるみは?

「トロール、70年代のディスニーもの、ビーニーベイビーズ、ディズニーは特にダンボが好きでした。ぬいぐるみは常にストックしています。トロールは大好きなのですが、もう製造している会社がなくて入手困難です。ショップをやっている友人が、アメリカの西海岸にバイイングに行くときにお願いして、買ってきてもらったりしています。以前、エキシビジョンでサンフランシスコに行ったとき、ぬいぐるみを買うためにリサイクルショップ巡りをしたのですが宝の山で素晴らしかったです、しょっちゅう行けるといいのですが、そうも行かないので。

原宿の輸入トイショップ『スパイラル』にある海外のキャラクターのおもちゃが大好きで通っていた関係で、仕入れを手伝ってもらったりもしてました。最近は、東京の味の素スタジアムでは月に一度大々的なフリーマーケットをやっていて、そこで探したりします。あとはインターネットもチェックしています。eBayや世界もん、ジャンク便などのサイトにはよいものがあります。造花類は主に浅草橋の問屋街がよいです。

照明は、白熱球の光の色味が好きなのですが、これらもどんどん製造終了になっていってしまうので、ちょっと困ってます、これからはLED電球を取り入れないといけない、と考えています。」


左・トロールシャンデリア 2006年 81,900円 40cm×40cm、右・ブックスシャンデリア 2007年 291,900円 50cm×50cm

自分の思い描く世界を表現できる技術力、
構成力に憧れ。

ーアートとプロダクトの境界といいますか、エンターテイメントするデザインといいますか、ユニークな作風のソンへさんですが、尊敬するアーティストはいますか? 自分と同じような視点で活動していて気になる人など。

「自分と同じような目線……そういう人はいないです。でも映画監督のティム・バートン、人形アニメ作家で、映画も作っているヤン・シュヴァンクマイエルが好きなんです。映画の監督や、美術担当さんを尊敬しています。『アリス・イン・ワンダーランド』は素晴らしかったです。自分の思い描く世界を表現できる技術力、構成力に憧れます。」

『BEAMS』×『セブンイレブン』のコラボ『BEAMSTATIONERY』メインビジュアル・アート 2009年
ドラクエ・シャンデリア 2010年


喜んでもらって、はじめて満足。

ー今後はどのような活動をしていきたいですか?

「3・11の後、いろいろなものがはっきりしてしまいました。いるものといらないもの、生きていくのに本当に必要なもの、必要でないものがみんなの中で明確になってしまった。生きていくのに服そのものは必要だけど、ファッションやアートは、いざという時にはいらないものといわれてしまいました。

ファッションブティックなども売上げが落ちて、ディスプレイの仕事も少なくなってしまいました。でも、このような時だからこそ、がんばって盛り上げて行かなければいけない、と思うのです。今、サバイヴできなかったら、この後はない、と思います。作品で人にサプライズを与えて、みんなを元気にすることができればいいなと思います。それには広く私の作品を知ってもらう機会が増えればよいな、と考えています。

アートは自己満足といわれることがありますが、私は自己満足なアーティストにはなりたくないです、自分で作って満足、というより、作品をいろんな人に観てもらって、その反応を見たり、評価を聞きたいです。大作が出来上がっても、自分ですごい、と思うことはありません、人の意見を聞いて、喜んでもらえて、はじめて満足できます。そこでみんなが楽しんでくれたらとってもうれしいです。」


上左・『パンとエスプレッソと』シャンデリア 2010年、右・『クッキーボーイ』とのコラボ・シャンデリア 2010年、下左・『SILAS&MARIA LONDON』シャンデリア 2011年、右・『Francfranc』インテリア 2011年