池田美樹, 池田美樹のLOVE♥ CITY WALK夏の夜のお楽しみ、“ナイター”いまむかし。

(2008.05.05)

 5月5日に立夏を迎え、暦の上では夏になった。夏といえば、の後に何を思い浮かべる人が多いだろう。私は断然、野球の“ナイター”である。

“ナイター”が和製英語であると知ったのはいつだっただろうか。子ども心にかなり衝撃を受けたことを覚えている。なぜなら、テレビではずっと「火曜ナイター!」と放送されていたからである。「テレビが言っていることなのに本当の英語じゃなかったんだ」と。

“ナイトゲーム”ではいかにも風情がない気がするが、今はテレビでもこちらを使っているようだ。

 ともあれ、今年のペナントレースを東京ドームに見に行ってきた。巨人広島戦である。
 実は私、これが生まれて初めての生での野球観戦。東京ドームへは、ザ・ローリング・ストーンズやX-JAPANやビヨンセのコンサートを見に行ったことしかない。ゲートには既に長蛇の列、ワクワクしてくる。

 入場してまず配られたのが、オレンジ色のタオル。首からかけるとたちまち巨人軍の応援気分が盛り上がってくる。「でもどうしてオレンジ色のタオルしか配ってないの?」と聞くと「そりゃあ、ここは巨人のホームだからだよ」と同行した友人。なるほど、そういうことだったのか。

 広島の攻撃から始まった試合。地道にヒットを連発する広島。へえ、プロ野球ってけっこう、淡々と進んでいくものなのね、と気を許していたら、巨人の攻撃に交代して驚いた。
 激しい効果音。ラップのような巻き舌のアナウンス。選手が出てくるたびに大音量で音楽がかかって、バックスクリーンには炎に包まれた選手の顔写真と背番号と名前が映し出されるという派手な演出。めまぐるしいことこのうえない。

 聞くと、選手は自分の好きな入場曲を選ぶのだとか。「なぜ巨人の攻撃の時だけこんなことが起きるの?」と尋ねると、「そりゃあ、ここがホームだから」。なるほど、好きな球団はホームで応援した方がおもしろいもののようだ。
 ほかにも、ひいきのチームの攻撃の時しか“鳴り物”を鳴らさない、選手ごとに応援の歌があり、みんなで合唱する、など、生の野球観戦には暗黙のルールと楽しみ方があることを知った。
 この日は残念ながら、ホームで戦った巨人は負けてしまったのだけれど、「かっとーばせー、よーしーのぶー!」と、応援団に交じって叫んでみたり、売り子のお姉さんからビールを買って飲んでみたりと、とても楽しいひとときだった。

 ところで“ナイター”は夏の季語でもある。が、テレビ中継も“ナイトゲーム”という呼び方に変化したように、季語自体の解釈も時代とともに変化してきた。

 昭和49年に発行された『俳句歳時記』(角川書店)のナイターの項目には、「職業野球のチームは、夏はほとんど夜間試合を行う。これをナイターといい、夏の都会は名物をまた加えた」とあり、ナイターという季語が新鮮なものであったことを思わせる。
 平成1年に発行された『新歳時記』(河出書房新社)では、「夜の野球試合で、英語ではナイト・ゲームという。ちょうど勤めも終わり夕餉のすんだときなので、テレビでナイターを見るのは、楽しい一日のくつろぎの時間になる」とあり、テレビ観戦に言及していることが注目される。
 これが平成12年発行の『新日本大歳時記』(講談社)の時代になると、「ドーム球場などでは雨天でも試合が可能なため、初めの頃のイメージとは徐々に変わりつつある」とあり、どうやら季語としてはだんだん劣勢になりつつあるようだ。

 呼び方やイメージは変化してきても、テレビでの野球観戦が夏の夜の楽しみのひとつであることには変わりがないし、実際に球場に足を運べばさらに気分が盛り上がることは間違いない。
 今シーズン、改めて“ナイター観戦”はいかがですか?

9回表、広島の攻撃。ネット裏19列目バッターボックス真後ろという、とてもいい座席だった
9回表、広島の攻撃。
ネット裏19列目バッターボックス真後ろという、とてもいい座席だった
巨人が奮わず、少し沈滞ムードの観客達