鬼頭舞の放課後美術館 – 7 - シャガールと同時代に活躍した多様な作家『シャガール -ロシア・アヴァンギャルドとの出会い-』

(2010.08.25)

東京藝術大学 大学美術館で開催されている『シャガール―ロシア・アヴァンギャルドとの出会い~交錯する夢と前衛~』展。パリのポンピドゥー・センター所蔵の普段なかなかお目にかかることのできない作品がみれるのはもちろん、舞台『魔笛』のための下絵などシャガールの多岐にわたる活動を堪能できる展覧会となっています。

まず会場に入ると、明るい赤や緑、黄色と色とりどりに塗装された壁やソファなどの内装が私たちを出迎え驚かしてくれます。それはシャガールの描く絵の中にも色彩のバランスのとり方にも通じるものがあるでしょう。『家族の顕現』のように上部の赤色の部分と下方の青の部分とが中間に用いられた紫色でバランスがとられている作品もあれば、青色の背景の中に、鮮やかな赤で小さなモチーフを点在させるような作品もあります。

©Centre Pompidou/Mnam/Bibliothèque Kandinsky/Rose Adler
シャガール、1936年。

こうしたシャガールの色彩に対する関心は『緑色の恋人たち』と『灰色の恋人たち』のような同じモチーフを違う色彩で描き分けた作品からうかがい知ることができるでしょう。

チラシにも用いられた『日曜日』もまた赤や黄が上方から降り注ぐ光線のように配されつつも人物は緑色で描かれたりとシャガール独特の色彩感覚が如実にあらわれた作品ですが、右上の円の中に正面を向く男と横顔の女が共存するような不思議なモチーフの構成もなされています。

シャガールの作品には人の顔が上下さかさまについたものや、顔が二つある人物など、自由な造形感覚に満ち、観る者を楽しませてくれます。

『ロシアとロバとその他のものに』首が身体から分離している人物に顕著ですが、シャガールの作品に登場する人物たちは地に足をつけることなく浮遊しているように描かれています。

またこれらのモチーフが黒の背景に対して鮮やかな色で着彩されていることもより一層浮遊感を助長させています。『日曜日』に話を戻しますが、女性の髪の中に木があったり、左上の赤い部分にもよく見てみると女性が潜んでいたりとディテールに至るまで画家のこだわりを観ることができます。

ⓒCollection Centre Pompidou, Dist.RMN/Jacques Foujour
『ゴタ』(マレーヴィチに基づく)
1923年(原作) / 1989年(複製)

そして今回の展示を見て驚いたのはシャガール以外に取り挙げられている作家の多さです。ネオ・プリミティヴィズムのラリオーノフやゴンチャローワの絵はもちろん立体コラージュの作品やマレーヴィチの立体作品までもが並んでいます。シャガールというと「幻想的な画家」というイメージしかなかった筆者はとても驚きました。

これは同時代に活躍した作家の多様な作品を一堂に集めることで、シャガールのロシア美術史における位置づけをより明確にさせるという意図からなのだそうです。

ところでシャガールが活躍した時期のロシアは、後に未来派を形成するマレーヴィチらが『黒い正方形』といった無対象の神秘的な絵画などを盛んに描いた時期でもありました。

ⓒCollection Centre Pompidou, Dist.RMN/Geoges Meguerditchian
カンディンスキー『アフティルカ 赤い教会の風景』 1917年

そうした中でシャガールは大衆的なモチーフの具象画を描き続けた。「幻想的」と称されるのはその独自の色彩感覚や画面構成の仕方によるものでモチーフそのものは牡牛やヴァイオリンそして人物といった日常的なものばかりです。とりわけ故郷ロシアのモチーフはあらゆるシャガール作品にまるで亡霊のように繰り返し描かれます。

それは先述した『日曜日』でもエッフェル塔やノートルダム聖堂、サクレクール寺院といったパリ特有のモチーフを描きつつも、上方には故郷ロシアの風景が描かれています。今日、現代絵画は具象画、それも極私的な内容の作品で溢れていますが、シャガールにも彼らと似通ったところがあるように思えます。

本展覧会では応援サポーターのDAIGOさんが、シャガールの作品タイトルから想を得て描いた作品なども展示されているなどなかなかユニークな体験もできます。連日開館前から長蛇の列ができ、大変にぎわっていますが、テントがあるので待つのもそれほど苦にはならないはず。暑い夏、冷房完備の美術館は涼むのにもってこい。皆様是非シャガール展に足を運んでみてはいかがでしょう。

*本展への招待チケットプレゼントはこちら。

放課後美術館、ちょっと寄り道 – 7 –

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『シャガール―ロシア・アヴァンギャルドとの出会い~交錯する夢と前衛~』

会期:2010年7月3日(土)~10月11日(月祝)
会場:東京藝術大学大学美術館 [上野公園]
〒110-8714 東京都台東区上野公園12-8
電話番号:03-5777-8600 (ハローダイヤル)
開館時間:10:00~17:00、金は〜20:00(入館は閉館時間の30分前まで)
定休日:毎週月曜日(ただし月曜日が祝・休日の場合は開館し、翌日休館)、2010年8月21日(土)
◆ただし、8月30日(月)は「親子のための優先鑑賞デー」のため、臨時に開館します。
主催:東京藝術大学、ポンピドー・センター、朝日新聞社、フジテレビジョン
後援:外務省、文化庁、フランス大使館、ロシア連邦大使館、ロシア連邦文化協力庁
特別協賛:日本生命保険相互会社
協賛:大塚製薬、大日本印刷
協力:みずほ銀行、エールフランス航空、日本通運