Shibuya Tourbillon ~12~ 渋谷にパリに。天才 TAGAMI、
キューティ&ボクサー、デュエンデ。

(2013.11.25)


渋谷の街を流れる風も冷たくなってきました。『シブヤ・トゥルビヨン』とは渋谷の奥=オクシブのギャラリー『アツコバルー arts drinks talk』、ライブハウス『サラヴァ東京』のオーナー アツコ・バルーさんが綴るコラム。今月は渋谷からパリから巻き起こる新しいつむじ風。

身につまされます『キューティー&ボクサー』

清水靖晃さんから「昔のアルバムから書きおろしまでたくさんの曲が入っていているから、映画も面白いけれど音楽も聴いてみて。」と映画『キューティー&ボクサー』の試写会のチケットをいただいた。
 
『キューティー&ボクサー』は「現代芸術家・篠原有司男と妻・乃り子の愛と闘いの記録映画」。身につまされます。だって、まるで私とつれあいのピエール・バルーみたいだ。というか撮影の時点でギュウチャンとピエールは同い年、乃り子と私も同い年。つまり同じ年の差夫婦ということに気がついた! 


現代芸術家・ギュウチャンと妻・乃り子さんの愛と闘いの記録映画『キューティー&ボクサー』より。ギュウチャンとピエール・バルーさん、乃り子さんとアツコ・バルーさんはなんと同い年齢!

芸術家との結婚というのは概して食うか食われるかの関係になりやすい。なぜかというと芸術家は精神的に「健常者」ではない人が多くて、同居人は世話係になってしまうか全く見捨てるかの選択に迫られる。もちろん彼らと我々は多くの点で違うのだが家庭と愛と戦いという面では似ている。

芸術至上主義を貫こうとする男性(例えば粉ミルク代まで使っちゃって絵の具を買おうとするようなこととか、乳母車まで差し押さえになっているのに新しいレコードを作ろうとしたり。である)と子供があり生活を運営しなければいけない女性の間で軋轢が生まれるのは同じである。

男たちが「世界を変える」とかなんとか夜中じゅう雄たけびを上げる脇で、生活を守る活動が実にしみったれて地面をはいずり回るような行為に見えてくる。女の方も芸術が好きだから最初は我慢をしているがそのうちなんか違う、絶対違う。うるさ~いと女はちゃぶ台をひっくり返す。そんな戦いだ。でも憎しみはひとかけらもない。だってギュウチャンがいての乃り子だし、彼女がいてのギュウチャン。実に仲が良い。そんな戦いがいのある相手に恵まれたのは幸せである。

一方たまたま東京に帰っていた娘(19歳の画家)は、夫婦の機微には当然敏感ではなく、この絵はいい、これはあんまし。とか、ぶつぶつひとりで呟いていたが、彼らの大きなテラスのあるアトリエを見て、「いいなあ~こんな広くて」という感想であった。

肝心の音楽はぜひ聞いてほしい、日本を代表する音楽家、ヤスアキの世界が美しく繰り広げられている。


乃り子さんは、ギュウチャンの大切なパートナーであるとともにアシスタント、そしてギュウチャンとの生活をモチーフにしたドローイングを描くアーティストでもある。*2013年12月4日(水) 開場18:30~の『キューティー&ボクサー』試写会プレゼントあり。応募はこちら(11/28締め切り)

『キューティー&ボクサー』
2013年12月21日(土)からシネマライズほか全国ロードショー
監督 : ザッカリー・ハインザーリング

出演 : 篠原有司男、篠原乃り子

編集:デヴィッド・ティーグ
音楽:清水靖晃
アメリカ映画/カラー/82 分/ビスタ/

原題:CUTIE AND THE BOXER

© 2013 EX LION TAMER, INC. All rights reserved.

 
 

〈パリから〉2000万円集めて本当に劇場を作った
『テアトル・エル・デュエンデ』の劇団員たち。

 

『テアトル・エル・デュエンデ』 。彼らとはもう30年の付き合いである、当時、彼らは赤ちゃんで彼らの親たちと我々は友人だった。親たちはチリから亡命してきた演出家と役者達、、『テアトル・アレフ』として『ラストチャンスキャバレー』などの演目を、私の連れ合いと演じていた。私も役者として出演していたことがある。子供たちはそれこそ舞台を遊び場にして育ち、中学高校でも演劇部を作り、大人になっても芝居にどっぷりつかり、学校時代の仲間と劇団を結成した。彼らは親の芝居の幕間に寸劇をしたり踊ったりして芝居を独学で身につけた。

今どき演劇学校も出ていない彼らの劇団が生きていくことは至難の業であるが、彼ら15人ほどのメンバーのエネルギーはとてつもなく全員アルバイトをしないで演劇だけで家族を養う、という偉業を達成している。

移民で低所得者の親を持った特権を生かす。

彼らの3つの活動のうち1つは緊急出動。移民の町で10代による事件がおこると学校に駆け付けて事件について生徒達と話しながらその場で芝居を作って演じていく。セラピーとしての演劇である。移民2世で学歴のない彼らは同じ目線で深刻な問題を客観視できる、弱点を切り札にした。

2つ目の活動はやはり10代の、今度は落ちこぼれ、引きこもり(フランス語で Hikikomori という!)に参加してもらって社会性をつけていく。教育としての演劇。

3つ目は大人のクラス、子供のクラスなど地域での劇団作りのお手伝い。

そして、土日の昼間を使った歌、ダンス、芝居のお教室である。

自分たちの芝居を作るかたわら、これらの活動で15人の月給を払っている。

夢を現実に。

彼らの夢は自分たちの城を作ることだった。パリ郊外、イヴリー市は移民や若年層の失業者対策の一貫で彼らに安価で場所を提供してきたが、いつも短期間で引っ越しを余儀なくされていた。しかし劇場建設には融資を入れても残り17万ユーロ(約2000万円)、が必要そこで彼らはクラウドファンディングで劇場を作ってしまった。彼らのサイトには毎週の工事の写真がアップされ、出資者は椅子ひとつ、芝居のチケット10枚、自分のリサイタルを開ける、などの様々な形で協力した。そして1年後の先月私がちょうどパリに着いた晩に劇場のオープニングにこぎつけた。

社会が芸術に篤いヨーロッパである。それでも自分たちで劇場を持つなんて夢のまた夢、それをついに叶えた彼らのバイタリティーに未来の可能性を感じる。

テアトル・エル・デュエンデ 
Theatre El dunede
23, rue Hoche 94200 Ivry sur Seine.
Métro : terminus Mairie d’Ivry (ligne 7)
Bus : ligne 132 arrêt Jean Le Galleu
Vélib : sation n°42012 – 1, rue Henry barbusse

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天才TAGAMI秘蔵大作展

TAGAMIとは『アツコバルー arts drinks talk』グランドオープン『「好きで描いてるわけじゃないけん」天才おじさん、TAGAMI 展』で紹介したアーティスト、田上允克(たがみまさかつ)さんのこと。

●『「好きで描いてるわけじゃないけん」天才おじさん、TAGAMI 展』について
Shibuya Tourbillon〜6〜 

Shibuya Tourbillon〜7〜

「絵が追いかけてくる!」30代のTAGAMIは昼、目黒の鷹美でモデルのデッサンをして、夜は狭い下宿で油絵の大作に挑み、絵の具が乾く暇に小さなキャンバスに昼間描いた人の顔を思い出して肖像画を描き、またそれも乾く間にエッチングをカリカリ削り、また大作に戻る、という生活を続けていた。イメージが次から次へと沸いてきて彼を責めた。という。そんな狂気に近い時代に彼は絵画の中に空間を作ること。色彩と構成を手なずけることを独学で学んでいった。

「何しろ数ですよ。」と彼は言う。彼ほど多作の作家を私は知らない。躊躇せずに、迷わずにイメージに追われるままに描いていったが、あまりに作品が多く、また個展を開くも誰も彼の才能に気がつかず、彼はそのほとんどを捨ててしまった。残された一部が今ここにある。

この絵をうずもれさせてはいけない。というミッション。

私達が2003年、博多の画廊香月で渡されたカラーコピーにある絵の本物を見たい。と頼みこみ二年後やっと訪れることができたTAGAMIの生家で納屋の中から庭に運び出された作品群。古い農家の庭先に並べられた絵画は別世界から来た贈り物のように初夏の太陽を浴びて色を放っていた。たぶん隣の家の人もその存在を知ることなく蜘蛛の巣に覆われ30年が経っていた。「ここで滅びさせてはいけない。きれいに保管して、多くの人に見てもらわなくてはいけない。」感動を多くの人と共有したい。その一心で作家から預かりました。今回その一部をご紹介します。

天才TAGAMI秘蔵大作展

会期:2013年11月27日(水)~ 12月7日(土)
時間:火〜土 14:00 ~ 21:00、日~月 11:00 ~ 18:00
会期中無休

作家在廊 11/28〜30(木〜土), 12/1(日)
会場:アツコバルー arts drinks talk
TEL:03-6427-8048
所在地:東京都渋谷区松濤1-29-1 クロスロードビル 5F
入場料:500円(ワンドリンク付)