映画『アメリ』の部屋にあった絵の作者、ミヒャエル・ゾーヴァの作品展が松屋 銀座本店にて。

(2009.04.13)

動物たちを乗せ、嵐の海で波に翻弄される船、鏡の前にたたずむウサギ。
ゾーヴァの描く不思議な世界に迷い込んでみませんか?

『ちいさなちいさな王様』『エスターハージー王子の冒険』などの絵本の挿絵、大人気のフランス映画『アメリ』の中に登場する作品などで知られる作家ミヒャエル・ゾーヴァ(1945年ドイツ生まれ)。

『治療中の犬』/映画『アメリ』より 

卓越した描写力、そして描かれた不思議なシチュエーション、見る者をとらえて離さない その魅力はどこから来るのでしょうか。「ドラマ性というか、とくにユーモア、それも背後に狂気を隠しているような笑いというものは、風刺画を描く僕にとって、重要なテーマだ」と語るゾーヴァ自身の言葉がそれに対する答えなのでしょうか。

ゾーヴァの作品の中には、画集やポストカードなどのヴィジュアル化されたものを目にすることはできても、実物は世の中に存在しない作品があります。
いったいどういうことかというと……。

一旦完成し(本人は完成とは思っていないのかもしれないが)納めた作品が、何かの都合でゾーヴァの手許にもどってくると、構図や色、光の調子などが気になりだして、加筆してしまうのだそうです。ほんのここの部分だけと思って始まった手直しが、つぎからつぎへといろいろなところが気になりだしてきて……、その結果最初に絵にあったものがなくなってしまったり、描かれている人物の位置が変わってしまうなどということはしょっちゅう。まったく違う絵になってしまうことさえ珍しくはなくて、“上塗り屋”というあだ名が付いているくらい。今回の展示でも、「読書推進ポスター」のために描いた作品は、“現在上塗り中”です。ほかの作品はすでに日本に入ってきていますが、この作品だけは、幸いなことに? ゾーヴァ氏が来日の際に持ち込むことになっているのです……。会場では、「ポスター」と「上塗り後の原画」を並べて展示する予定です。どんなに変わったか、乞うご期待!

『Their master’s voice』

初期のタブローやポスター、絵本の原画などの代表作の数々と、ドイツを出発する直前まで描き続けた最新作まで初公開作品を含む約130点のほか、インタヴュー映像など、ゾーヴァ作品の魅力の全貌に迫る展覧会、それが、4月29日(水)から松屋銀座で開催される『描かれた不思議な世界 ミヒャエル・ゾーヴァ展』なのです。

最後に、ゾーヴァ氏からのメッセージ。
「絵の中に間違いがあります。ほんとのほんとの間違いです……」どの絵のどの部分? 答えは会場にて。こちらも乞うご期待!

『エスターハージー王子の冒険』より。

『ちいさなちいさな王様』より。

『箱舟』

 

ミヒャエル・ゾーヴァ Michael Sowa

1945年ドイツ・ベルリン生まれ。ベルリン芸術大学で芸術教育を専攻。半年間教育に携わったのち、画家、風刺画家、イラストレーターとして活躍。19995年、現代を的確に風刺した画家に与えられる「オラーフ・グールブラソン賞」を受賞。また、フランス映画『アメリ』やオペラ『魔笛』の美術を手がけるなど、ジャンルを越えて活躍中。 

 
描かれた不思議な世界 「ミヒャエル・ゾーヴァ展」

2009年4月29日(水・祝)~5月11日(月) 
会場 松屋 銀座本店 8階大催場
問い合わせTel. 03-3567-1211(代)

ミヒャエル・ゾーヴァ氏。
ゾーヴァさんのお家に行ってきました!(2008年10月)
撮影1日目 (ベルリンのご自宅にて)

展覧会場内で流す、インタビュー映像の撮影の為、ドイツ・ベルリンのゾーヴァさんのご自宅にお邪魔しました。大人数でうかがったにも関わらす、ご家族ぐるみで温かく迎えてくださいました。アトリエでの撮影途中にお子さんがのぞきに来たり、猫のハイジがいつの間にか、まぎれ込んだり……。終始穏やかなゾーヴァさんでした。

猫のハイジ。

自宅のアトリエにて。


撮影2日目 (郊外の別荘にて)

ご自宅から車で1時間ほどの郊外の別荘にもアトリエがあるとのことで、そちらでの取材も行いました。朝早くからの撮影で、前日には「少し遅くなるかなぁ」とおっしゃっていたのですが、ちゃんと時間通り来てくれました。

週末を控えていたので、ご家族と猫のハイジも一緒で、取材チームのために奥様がリンゴのケーキまで持ってきてくださいました。

お手製のケーキ。

別荘の庭にて。

ゾーヴァさんは、「なかなか絵が仕上がらない作家」として有名です。自分の絵にこだわり、上塗りを続けるのも大きな理由ですが、いろいろな言い訳を作りながら、先へ先へと締め切りを伸ばし、なかなか取り掛からないということも一因のようです。

「絵を描くつもりでここにきても、結局描けないで終わってしまうことも多い」、と言っていらしたゾーヴァさんですが、こんな素敵な場所に来れば、のんびりした気持ちになって、何もしないで過ごしてしまうとしても無理もないと納得してしまいます。

きらきらした光が、ゾーヴァさんの作品の中に出てくる木々を連想させました。

(松屋 銀座本店 文化催事課 専門課長補佐 学芸員 高橋千佳)