編集者の眼 3 -私が編集した本を紹介します-

(2008.06.30)

翻訳家・花子の生き方に、
辛口エッセイスト、酒井順子さんも感動!

モンゴメリ作!『赤毛のアン』誕生100周年の今年、アン・ブックスを翻訳した村岡花子(1893~1968)の評伝を出す――この仕事は自分のミッション(使命)かもしれない、と思いました。エミリー・シリーズ、「少女パレアナ」「王子と乞食」「フランダースの犬」、「秘密の花園」などの名作の訳者の、生き方を伝えたかったのです。クリスチャンの娘に生まれた花子への共感もありました。

明治の日本で英語を身につけた花子ですが、村岡訳の見事な日本語は佐佐木信綱に短歌を学んだおかげでもあります。信綱に紹介してくれたのは、女学校の寄宿舎で出会った伯爵令嬢、柳原白蓮。国中の耳目を集めた大正10年(1921)の恋愛事件で知られる歌人との友情も、評伝の読みどころ。花子も白蓮も息子を亡くしますが、悲痛な体験を世のため人のための活動に昇華するところも共通しているのです。吉屋信子、林芙美子、宇野千 代、市川房枝ら、世間の常識を打ち破っていく痛快な女性が次々登場します。

私自身、詳しく花子の歩みを知っていたわけではありません。孫である著者、村岡恵理さんにお話をうかがい、歴史から忘れられがちな人々の功績も記してほしい、と願うようになりました。実業家の広岡浅子、文学者の片山広子など、魅力あふれる人物が、恵理さんの筆でいきいき蘇りました。彼女たちの貴重な写真も収録。また、本の巻頭を飾るカラー写真16p用に、花子の愛用品や書斎を撮影しました。「禁じられた恋」を貫いて結婚した 夫とのラブレターも収録。

花子は選挙権獲得や廃娼をめざし、行動する文学者。「メルヘンチックな少女小説を訳した、オンナ・コドモ文学の紹介者」という枠には収まらない活躍を続けました。『負け犬の遠吠え』『黒いマナー』などを著し、シャープな視点で知られるエッセイストの酒井順子さんも、この評伝を褒めてくださいました(週刊文春書評欄、6月26日号)。全国を巡回中の『赤毛のアン展』に設けられた、村岡花子コーナーも楽しんでください。日程はHPで。anne100th.com



アン・ブックスを翻訳した村岡花子(1893〜1968)

 

孫である著者、村岡恵理さん

 

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編集者プロフィール

マガジンハウス書籍出版局
第二編集部
桂 真菜(かつら・まな)

澁澤龍彦&片山健によるページも麗しい創刊時のアンアンに憧れ、入社。エル、クロワッサン、ブルータスをへ て書籍へ。大杉漣「現場者」、中野春夫「シェイクスピアの決めぜりふ」と、まず演劇に関る本を編集。中山庸 子のエッセイも担当し、「書きこみ式『いいこと日記』」は今年で6冊目。顔イラストは7月24日発売の玖保キリコ作・爆笑漫画『ヒメママ 2』より。ヒメママとは、超わがままでぜいたく好き、お姫様みたいなお義母さん。
編集担当・桂とは真逆のキャラね。

村岡恵理 著『アンのゆりかご 村岡花子の生涯』 1,995円