女性のための、元気になれる俳句88 選・如月美樹 桃食うて煙草を喫うて一人旅 星野立子

(2010.08.31)
 

桃は秋の季語。掲句、一人旅の景であるが、決して羽根を伸ばした女性の様子を切り取ったものではないと感じる。甘い果汁で指を濡らし桃を食べることも、煙草をふかしてみるのも、この旅が喜びに満ちた遊興ではないのではないか。

高濱虚子の娘であり、主宰誌を持った歴史上初めての女性であり、同時に一家の主婦でるという背景、そして時代を考えてみてもわかる。多忙な仕事をこなすために、一人で移動することも多かっただろう。一つの場所にいることのできない、非凡な運命をもって生まれてきたことへのかすかな悲しみ。現代のビジネスウーマンにも通じる。

しかし、そんな背景を知らなくてもよい。俳句はどんな読み方をしてもいいのだ。ただひとついえることは、この句は、女性性(「女性」ではなく「女性性」)でしか感じることのできないなにかを備えている、ということ。掲句初出『立子句集』(1937)。