女性のための、元気になれる俳句63 選・如月美樹 ふるさとも南の方の朱欒かな 中村汀女

(2009.10.13)
 

朱欒(ザボン)は、人の頭くらいの大きな黄色い実を生らせる。初めて見るとギョッとするくらい大きい。皮は厚さ1センチ以上もある。ざっくりと剥くと中の果肉は白っぽく、食べてみると汁気が少なく、甘さの中にちょっと苦みがある。見たことがないという人も多いかもしれない。

私の生家には、この季節になると、いつも台所や居間にいただきもののザボンがあり、皮を割って(割るという表現がぴったり)、果肉を食べた。黄色い実が木に生っている光景も、珍しいものではなかった。遠いその記憶を懐かしく感じるのも、わたしが汀女と同じ土地の出身だからだろうか。

「故郷とは別の土地に住むことを選び、それを自明のこととしてことさらに意識しない毎日であっても、ザボンを見てこの句に仕立てたとき、胸を突き上げられる思いがあった」と、汀女は後に述懐している。句を読むことで、私たちは同じ思いを、時を越えて共有する。掲句初出『汀女句集』(1935)。