土屋孝元のお洒落奇譚。香りによる
記憶の連想についての考察。

(2013.05.13)

香り、アロマ、パルファン……。

最近、気になる香りがあります。

その香りは、あるホテルのアメニティにあったもので、とても気分を気持ちよくしてくれて、どんな内容のものかと中身を確認したところ、ハワイ特有の植物を使用したボディケア商品群『マリエオーガニクス』でした。

その中でも、特に気に入ったのは、「koke’e(コケエ)」と呼ばれるハワイの在来種「マイレ」から作られた商品で、この「マイレ」とはハワイの王族のレイとしても有名なもので、古代より叙勲や結婚など儀式で使われてきたものらしいです。今でも正式なフラでは、この「マイレ」のレイを使用するようです。その香りは個人的な好みの違い以外は男女を選ばずに使え、爽やかな印象を与えてくれました。

ホテルには直営店があり、あの、美容家IKKOさんが大のお気に入りで来るたびに大量購入していくようです。
まだ、あまり日本ではメジャーではないですね。

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このように香りや匂いは、人間の気分や記憶にも様々に影響を与えるようです。

お茶室で薫る、香の香り。その香りによっては四畳半の小間から意識は離れ、幽玄なる世界へと旅することもできるのです。

お稽古では『山田松香木店』の練香『玄妙』を使わせていただいております。

かの、マルセル・プルーストの小説でもマドレーヌの香りから記憶をたどる長編小説『失われた時をもとめて』、トマス・ハリスの『羊たちの沈黙』のレクター博士のアーモンド石鹸の香りのシーンなど数々、記憶と香りの関係性が描かれています。


『山田松香木店』の練香『玄妙』
梔子の花、
むせかえるような栗の花の香り……。

もうすぐ、梔子(くちなし)の花の季節がやってきます、この梔子といえば、『くちなしの花』の歌詞でも有名な香りで、梅雨時やその少し前の初夏の宵、風に乗って薫るあの香りは何ともいえません。

この香りから連想する記憶があるので、ここで簡単に、中学生の頃、同じ塾に通った女の子で、名前はもう忘れてしまいましたが、初めて一緒に帰った夜の道で梅雨時の季節、雨上がりの中、どこからともなく薫る、あの梔子の香りが記憶にあり、あの香りをイメージしたりすると、その時の情景が目の前に浮かぶのです、頭の中で完全に記憶され、イメージされているのでしょう。


あの『くちなしの花』の歌詞にでる梔子の花です

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話は飛びますが、これも香りから連想される記憶の一つです。もうすぐ、上野公園の栗の木も満開になり、あのむせかえるような栗の花の香りで公園内がいっぱいになります。

在学時代のある日、僕はいつものように授業を終えて、家に帰る途中、帰りの電車内で突然、女性から声をかけられたのです。初めてのことで、何だろうかと、その声の女性を見ると、彼女は、こう言うのです。「たぶん、同じ学校で同じ学年でしょうか、」と。その声の彼女は音楽学部ビオラ科で同じ市内に住んでいるとの事、僕も郊外のその街に世田谷区から大学2年に引越してきたばかりでした。その彼女曰く、いつも同じ電車内で見かけるのでいつか声をかけようと思い、今日、思い切って声をかけたのだということでした。

それから、毎朝、同じ電車で出かけるので、偶然、会うようになり、学校までの時間、いろいろな話をするようになりました。学園祭での学内演奏会、今は上野公園に移築された奏楽堂での演奏で初めてビオラ演奏を聞いたもこの頃です。

彼女とは通学仲間の関係から発展する事はなく、卒業とともに自然に出会うことはなくなり、今では、どうしているのだろうかと、あの栗の花の香りで思い出します。なんで、こんな記憶が連想されるのか、ある本を読んで、その影響からかもしれません。これで、たぶん、あれのことかと推理できる方は、かなりの読書通でしょうか。

『マリエオーガニクス』

『山田松香木店』