Shibuya Tourbillon ~13~ フランスの反アマゾン法、ソワレ、
谷口江里也さんの詩的なおしごと。

(2014.01.20)

『トリコロールのソワレ 赤:日本の叙情歌を歌う』ソロライブ@サラヴァ東京より。photo : Peter Brune


枯れ葉よ~♪ の季節は過ぎて新年。渋谷からパリから巻き起こる新しいつむじ風についてギャラリー『アツコバルー arts drinks talk』、ライブハウス『サラヴァ東京』のオーナー アツコ・バルーさんが綴るコラムが『シブヤ・トゥルビヨン』。今回は新年早々フランス国会で可決した話題の法律、10周年を迎えるソワレバー、元祖マルチアーティスト 谷口江里也さんの展示について。

「反アマゾン法」が可決された国。

フランスでいわゆる「反アマゾン法」が両議会を通過した! 正月早々の9日にフランスの両議会は、与党も野党もこのときだけは足並みを揃えてなんと全会一致でこの法律に賛成した。すでに1981年には書籍とレコードの量販店によるディスカウントを規制する法律が可決されているが、今回はフランスに今だ生き残っている3,000軒の本屋さんを守るためにネット書店の無料送付を禁止するものだ。上院ではここで止まっていたのを、今回下院では、その上、1981年の法律では許されていた5%までのディスカウントも禁止した。これによって町の専門店を守る、という。

これって画期的なことだと思う。そして我が国では「町の本屋」、というかけがえのない文化の橋渡し人を守ろうと政治が何をしてくれているか、我々はじっくり考えるべきだと思う。多分、日本では可能だなんて誰も夢に見ちゃいないことをフランスの議会はやってのける。この国に住んでいると理不尽な部分は多くあるが、議会が国民の声を代弁する、ってことに関してちゃんと機能しているのは認める。日本が機能しなさすぎ、なのだが、これから我々でがんばるしかない。

フランス国会上院ホームページより。遠隔地への本の販売送料について1981年ラング法当時と、現在下院と下院での可決内容の違いについてわかりやすく図解してあります。

文化を安売りするな!

1981年にフランス社会党政権がレコードと本、文化製品のディスカウントを5%までに抑える法律(通称 ラング法)を可決した。文化は安売りしないのだ。という様なことを当時の文化相、ラング氏が言っていた。当時私はフランスの大学院に通っていて、本が高いのには困ったが、その後レコードを制作して売る側になったとき、そのありがたみがわかった。

フランスの販売システムは日本と違い、本もレコードも上代が書いていない。我々レコード会社は製品を問屋に売り、問屋は小売店に好きな値段で売れる。なので大きなレコード会社は大量に生産したレコードを安く量販店で売っていたので、我々のように少ない数を生産するレコードは割高に感じられてしまう。

実は日本のシステムはよかった。

その点、日本はよくできていて、上代(希望小売価格)が決まっていたので本もレコードも値下げされることはなかった。なので日本も実は捨てたものではなかった。1981年のフランスのラング法は町の本屋やレコード店、インディーズレーベルや小さい出版社を守るものだったが、やはり時代の波は押し寄せて、多くのレコード店と書店が淘汰された。日本の方がまだ町の商店が残っているくらいだ。しかし今度の波はさらに手強い。ネット販売、アマゾンの送料無料で多くの小売店が打撃を受けているだろう。

アマゾンが先か俺たちが先か?

フランスの残った3,000軒の本屋さんがどれだけ持ちこたえるか。今回の法律によって最期を遅らせることができるだろう。少しでも長引かせればもしかしたらアマゾンの方が先に倒れるかもしれない。消費文明の終わりまで頑張れば個性ある品揃えの店が生きていける道が開けるかもしれないではないか。それまで生き延びてくれよ。と今回の法律はフランスの国民と国会議員全員が叫んでいるように感じた。効率より多様性を愛するヨーロッパ。ヨーロッパ議会には1000人を超える通訳がいて、本当はみんな英語ができるのにあえて自国語で話しあう。効率を追求する者は滅びるのだ、みたいなことをヨーロッパ議会の議員がテレビで言っていた。産業革命から既に彼らは先の世界を見ている。さすがである。

ソワレというシャンソン馬鹿一代

新宿、渋谷の夜に出没する妖精というか不思議な生き物がいる。80年代のアイドルソングとピアフのシャンソンを思いきりビブラート聞かせて歌いまくる女の子、みたいなカッコした男性。年齢は40歳くらい。ゴールデン街、新宿二丁目でバーを持ち、渋谷のライブハウスのプロデューサーをしている。ソワレは一般的に有名人とは言えないが、ソワレを知らない人は人生かなり損をしていると断言できる。

新宿ゴールデン街で10年。

ソワレがゴールデン街の3番街でバー『ソワレ』を開いて今年で10年になる。その記念にゴールデン街劇場で13日間の連続リサイタルを開くという。記念に本(パンフレット)も、映画もつくり、新しいCDも出すという。13回のリサイタルには今までのバーソワレのママさんたちが全員日替わりゲストとして登場するし、オペレッタを作曲して演じたりの大サービスである。チラシの、達筆とは言えない不思議な書き初めの前で、普段はとってもおしゃれなソワレがノンメークで男の着物を着て、まるで大正時代の書生さんみたいに座っている。これは冗談かまじめか理解に苦しむが、インパクトはあるビジュアルである。


『シャンソン馬鹿一代』
日替わりゲストは1/25エミ・エレオノーラ、1/26黒色すみれ、1/27美雲 蜂鳥あみ太=四号(ex.どっシャン)、1/28蛇石れいこ、1/29ギャランティーク和恵、1/30山田広野(活弁映画監督)、2/1チャラン・ポ・ランタン(2回公演)2/2渚ようこ、2/3ジュンマキ堂、2/4コーヒーカラー、優河、2/5エルナ・フェラガ〜モ&アナベル、2/6シャンソン歌手かや、2/7ブリーフ&トランクス(友情出演)*30日には飛び入りゲスト予定! 各公演では日替わりゲストが妖精を演じるオペレッタも。ソワレのニューアルバム『Hei!シャンソン』が公演に合わせて発売に。

見て確かめてほしい魅力。

そうそう、何故ソワレを知らない人は人生で損をするのかというと、ソワレは面白くて優しくて、音楽わかっているくせにアイドルしか聞かないし、趣味がいいんだか悪いんだかわからないし、その行動は予測不能。普通のロジックでは考えられないけれど、結局は暖かい人間で、あなたの心を温めてくれる。ソワレという妖精がいなかったら新宿も渋谷も少し退屈な街になってしまう。ぜひこの機会にゴールデン劇場で確かめてほしい、ソワレの素晴らしい声と魅力、面白いお芝居に、個性たっぷりの仲間たち、人生は捨てたもんじゃない、ときっと思えるに違いありません。

新宿ゴールデン街ソワレ十周年記念公演『シャンソン馬鹿一代』

会期:2014年1月25日(土)~2月7日(日)
時間:曜日によって異なる。平日 19:30~、金土19:00~、日18:00~。
*1/31は休演、2/1は 15:30~も。
出演:ソワレ、日替わりゲスト ライブ:北園優(ピアノ)、うのしょうじ(ベース)、BunImai(ドラム)、お芝居:山本大介、高木まゆ、ナリー二
料金:3,500円、当日 4,000円
会場:ゴールデン街劇場(東京都新宿区歌舞伎町1-1-7マルハビル1F 新宿ゴールデン街内花園三番街)

 
 
谷口江里也の詩的なおしごと。

 

年末から年始にかけてアツコバルーで行われた展示は空間デザイナーの谷口江里也の(ほとんど)すべての仕事を紹介したものだ。彼は不思議な人で詩を書いたかと思うと建築の構想を練り、実際建物を建てて、19世紀の挿絵画家、ギュスターブ・ドレのコレクションを持っていて、ダンテの神曲や聖書、寓話の新しい解釈とドレの挿絵でずっと売れ続けている本を作ったり、F1レーサーのアイルトン・セナの本をホンダの桜井淑敏さんという人と作ったり。照明家の海藤春樹さん、音のデザイナーの井出裕昭さん、スペイン人の葉巻ラベルコレクターの老人と仲良くなって本を出したり、その興味と仕事は多岐に及ぶ。


谷口江里也さんの著作、翻訳本、プロデュースした吉野大作さんのアルバム、自身のCD、空間プロデュースした会場のパースなどが展示された『アツコバルー arts drinks talk』の『詩的なおしごと ー谷口江里也の空間アーキー』より。

見えないものを見せる。

一瞥するとまとまりがないような彼の仕事だが彼の頭の中ではすべては繋がっていて、言葉から言葉に表せないもの、言葉から形へと絶えず橋をかけようとしている様が見える。私たちの頭の中ってたえず揺れているし、思考は動いている。それを職業という枠にはめて停止した形で発表することが大人というかプロだ、と思われているが果たしてそうか? 人の興味は割り切れないし、割り切れないものだから面白い。その面白さを仕事で表現できないか? それが谷口氏の問いであり今回の展覧会だった。温和な谷口さんがいつも言うように「自由にやったっていいんですよ。こんな好きなことしかしなくてもいいんですよ。」どうやら我々は自分で自主規制をしすぎているのかもしれない。良い人生って有名になることでもなくて好きなことを好きなようにやるってことだね。と安心させてくれる。建築に彼のような人があるということはうれしいことである。

ギャラリーとして、生きている一人の人間の展覧会というのは珍しいと思う。特に谷口さんはスターでもタレントでもないし、でも生き方が芸術的であるからそれで良いのかと思う。グラフィックデザインの巨匠、勝井三雄先生はそういうのが面白いんですよ。とおっしゃっていた。うれしい言葉である。


オープニング・トークイベントより。右から谷口江里也さん、アツコ・バルー、グラフィック・デザイナー 勝井三雄さん。

詩的なおしごと ー谷口江里也の空間アーキー
会期:2013年12月18日(水)~2014年1月15日(水)*展覧会は終了しています。
会場:アツコバルー arts drinks talk

アツコさんのギャラリー:アツコバルー arts drinks talk

TEL:03-6427-8048
所在地:東京都渋谷区松濤1-29-1 クロスロードビル 5F
営業時間:イベントによって異なるのでホームページで確認

入場料:500円(ワンドリンク付)

『アツコバルー arts drinks talk 』1、2月の展示

躍る糸と植物展
刺繍アーティストの咲と、植物を使った表現活動を行うスズキアキコの2人展。
会期:2014年1月19日(日)~ 1月25日(土) 14:00 ~ 21:00

公開句会・東京マッハvol. 9
持ち寄った俳句の人気投票、批評会を行う公開句会『東京マッハ』がアツコバルーに登場。
会期:2014年1月27日(月)18:00~ *SOLD OUT

光-絵 成田彩
日本の自然に魅せられて青を描いている成田彩の個展。
会期:2014年1月28日(火)~ 2月17日(月) 14:00 ~ 21:00、日月11:00 ~ 18:00
28日(火)オープニング・スペシャルライブはワンドリンク付き 3,000円
開場 18:00、開演 19:00
高橋竹山(津軽三味線)、小田朋美(キーボード)