土屋孝元のお洒落奇譚。知らないよりは、知っていたい。 奥深い、日本のルール。

(2014.08.08)
水引。これは花結びです、一般的な結びで何回でも使えます。赤が東、白が西、基本は3本、5本、7本、9本となります。本数が多いほど格があがります。はじまりは明からの贈り物の包みにあったものだそうです。© Takayoshi Tsuchiya
水引。これは花結びです、一般的な結びで何回でも使えます。赤が東、白が西、基本は3本、5本、7本、9本となります。本数が多いほど格があがります。はじまりは明からの贈り物の包みにあったものだそうです。© Takayoshi Tsuchiya
 
お茶のお稽古を通して学ぶ
格の違い。

日ごろ、お茶のお稽古をしていると いろいろなことに気づかされます。もし、お稽古をしていなかったら、いろいろなことをきちんと正確に理解していなかったと思うのです。利休さんが完成させた侘び茶のお作法には無駄がなく、意外にも合理的なことが多く 現代の生活にも使えることに納得させられています。

日本には古来より「結界」とか格の違いの「格」とか「陰・陽」という言葉がありました。最近はあまり使われない言葉なのでよくわからないという方もいらっしゃるでしょう。茶道においても「結界」とか「真・行・草」という言い方がいろいろなところに出てきます。

この「結界」とは、お茶室に入る躙り口の低い入り口も茶室への「結界」ですし、また「お軸」や「お道具」「お花」の拝見の時に茶扇子を自分の手前に置き一例してから拝見をするものですが、この茶扇子を置くことに意味があり、客として亭主の大切なお道具を拝見させて頂きますと敬う、このことに意味があります。その暗黙のルールを表すために茶扇子にて自分とお道具との間に「結界」を作るのです。

丸盆、角盆。丸盆は陽、角盆は陰、どちらが上とか下とかはありません。© Takayoshi Tsuchiya
丸盆、角盆。丸盆は陽、角盆は陰、どちらが上とか下とかはありません。© Takayoshi Tsuchiya

お茶での「真・行・草」とは格の違いのことで、簡単に説明すると一番格式の高い「真」とは唐物のお道具を使うお茶事、「台子点前」(だいすてまえ)「貴人点」(きにんだて)など……。「草」とは侘びた、利休考案の楽茶碗、利休棗、竹花入、四畳半以下の小間での茶事、侘び茶。「行」とは、その中間のことと教わりました。お辞儀にも もちろん「真・行・草」の違いがあります。

お茶事では、「古竹」の蓋置(ふたおき)は「真」のお道具にはなりませんし「草」の時に使うものです。「真」の場合には「七宝」や「南陵」銀製の細工物の蓋置などを使います。

お茶碗でも「真」では「天目茶碗」「唐物の青磁」などを使い流派にもよりますが、古袱紗などを使います。「草」の薄茶点前では「楽茶碗」「井戸茶碗」などを使い古袱紗は使わず畳に直接出します。また、この「結界」という考え方は神道にもあり、お供えする料理を載せるお盆にもあります。お盆の縁が少し立ち上がっているものはその縁が結界です。

 
木材にも格がある。

このお盆の場合には使用される木材に格というものがあり、一番格が高いのは伊勢神宮の式年遷宮で使われる木曽檜、次に神代杉(この神代杉とは1000年以上火山の噴火で土砂に埋まった杉で腐らずにいたものを指すそうです。)となるようです。栗、楠、桜、欅(けやき)なども良いように思うのですが、格的には下になるようですね。形の違いもあります、丸、四角がお盆にはありますが、それぞれ 陰と陽を表すそうで、どちらが上とか下とかはないようですね。

今はなかなか 木造建物の建築途中段階を見ることもなくなってしましたが、僕が子供の頃には、遊びに行くそこここで建築途中の家の柱や内部構造を見ることができました。まあもう時効でしょう、建築途中の家を遊び場にしていたので……。檜の柱はいい香りがして立派だなあと感心したり、天井の化粧板には杉の柾目(まさめ)が見えるものが綺麗だなあと思っていました。

在来工法の日本建築も減り、木造でも最近は2×4で米松が多く使われているようですね。今でも たまに京都の旅館などへ泊まると、お風呂は高野槙のお風呂が多いように思います。温泉でもないのに、身体の芯から温まるような感じです、この高野槙も檜の仲間ですね、

昔、家にあった桶や盥などは椹(さわら)でした。まだ家にある、飯台(寿司桶)も椹(さわら)ですね。

このように木材にも、それぞれ使うのものや場所によりきちんと意味があるのですね。

 
この場面にはこの紙を、
紙の格を知る。

同じく和紙にも格があり、楮(こうぞ)、三俣(みつまた)、雁皮(がんぴ)を使った和紙は格が高いようです。越前和紙には奉書紙、例えば証券や証書(卒業証書等)などに 「正式の用紙」として使用されたり、 またその品質が横山大観、竹内栖鳳、 平山郁夫、東山魁夷ら多くの画家らに評価されて現在でも越前和紙を制作に使う日本画家も多いようです。

檀紙(だんし)についていえば、茶道では紙釜敷に使います。炭手前にて釜を風炉や炉から下ろす時に釜敷(かましき)に使うのです。茶室の床に香合を置いて飾るときにもこの紙釜敷に乗せて飾ります。

檀紙と同じくらい格が高いとされている鳥の子紙(とりのこがみ)は雁皮を主原料に楮、三椏を使い虫害に強く色が鶏卵に似ていることからこう呼ばれるようです。これらの紙は襖紙にも使用されています。因みに鳥の子紙を紙の王とも呼ぶようです。日本のお札の紙も確か、この楮、三椏、雁皮を使う和紙?に変わりありませんね。

デザインをする者にとり、紙質は自分の好みや感覚で選んでしまうことが多いのですが、紙の格を知ることで、この場面にはこの紙を、と選べるようになります。日本文化を少しだけ理解したような気がします。

僕がお茶のお稽古をしている銀座『阿曽美術』さんのお茶室は徳島からロールの阿波紙を取り寄せ、泥と墨で自ら染めたものが壁に貼られています。なんともいい色具合、お道具との相乗効果で、照明の加減により 本当に幽玄の世界に居るような気がしてくるのです。

知れば知るほど奥深い、まだまだ先が永いのです。

 紙釜敷。檀紙を使います。茶道では炭手前の時に釜をのせて使います。香合を茶室の床に飾る時、この釜敷きにのせて飾ります。© Takayoshi Tsuchiya

紙釜敷。檀紙を使います。茶道では炭手前の時に釜をのせて使います。香合を茶室の床に飾る時、この釜敷きにのせて飾ります。© Takayoshi Tsuchiya

そのほか日本の水引の赤白にも陰と陽、黒白にも陰と陽、金と銀にも陰と陽。水引の結びにも意味があり北を枕にしてに南を向いて左が東、右が西。この左と右がそれぞれ陰と陽を表すようです。それぞれ水引の数には3、5、7、9と奇数が良いとされ 数が多いほど格が上がります。この奇数はお茶事のお菓子の盛り方も同じで、お菓子の数は3、5、が良いとされます。お料理のお皿の揃えも和皿は5枚揃えですね。西洋では6、8の偶数揃えのことが多いようです。

このように、格のことなど知らないよりきちんと理解してからくずして使うのも良いのではないでしょうか。

うつけ者と呼ばれた信長がここぞという時、たしか斎藤道三 目上の相手に会うときにはきちんと式服にて対応したとか。

何事にも 決めるときには、決めてきちんとしていたいものです。