今、なぜ「ラグジュアリー」? 『ラグジュアリー:ファッションの欲望』展。

(2009.11.24)

時代によって、豊かさの表現は変わります。
え、コム デ ギャルソンやマルタン マルジェラも?
『ラグジュアリー:ファッションの欲望』展で
新しいラグジュアリー観に出会って
目からウロコ体験してみませんか。

 

PART 1 人間の欲望が、とてつもない「ラグジュアリー」を生んできた。

 
「ラグジュアリー」と聞いて、あなたは何を思いうかべますか? “LUXURY”は日本では「贅沢、奢侈」といった意味に訳され、時として否定的な意味あいを持つこともあります。ラグジュアリー=金ピカという一般的なイメージからすると、「先の見えない経済状況が続く昨今、今さらなぜラグジュアリー?」という意見もあるはず。でも、ちょっと待って!「ラグジュアリー」とは、そもそも人とは違う物を身につけたい、という人間の飽くなき欲望の現れ。それが原動力となって、芸術的ともいえる職人による手仕事を生み、その技を培ってきたという歴史があることを、思い出してください。そこから生まれた素晴らしいコスチュームや装飾品を、間近に見られる絶好のチャンスが今回の『ラグジュアリー:ファッションの欲望』展という訳なのです。展示されるのは、京都服飾文化研究財団(KCI)に収蔵されている17世紀から現代までの120点余で、普段は温度と湿度を一定に保った保管庫に入っている、貴重な作品ばかり。じっくりと時間をかけて、鑑賞してみませんか。

では、実際に展示を見てみましょう。会場は、東京都現代美術館の地下2階の企画展示室。
この展覧会は、4つのセクションから構成されています。着飾ることは自分の力を示すこと、削ぎ落とすことは飾ること、冒険する精神~特別展示・妹島和世による空間デザイン COMME des GARCONS、ひとつだけの服、というテーマ順に会場をめぐります。

豪華な宮廷用の衣裳を間近に見られる。photo / Yuji Komatsu
特別展示は自然光の入るアトリウムで。
華やかに飾られたヒールが並ぶ様子は圧巻。

最初は王侯貴族のための絶対的な権力と結びついた豪奢な衣裳に始まり、現代のラグジュアリーブランドの服との対比も交えた展示で展開。最も分りやすい「ラグジュアリー」がこのセクションに集結しています。

二つめは外からは見えにくい贅沢、つまり簡素さの中の豊かさを表現した、20世紀のオートクチュールの作品が並びます。現代に通じるデザインと、オートクチュールならではの見事なディテールに、ため息が……。

三つめは日本が世界に誇るデザイナー、川久保玲の作品を通じて、衣服の創造性とラグジュアリーの関係を考えます。生地やパターンに時間と労力を費やして誕生する「今までにない服」は、ラグジュアリーブランドの服に劣らぬ、優れたクオリティを持っています。建築家・妹島和世による空間デザインが、コム デ ギャルソンの服を着る時のワクワク感を際立たせるかのよう。

最後は、メゾン・マルタン・マルジェラの「アーティザナル」ラインをフィーチャー。効率や利便性のみを優先する現代において、人の手によって時間をかけて創り出される一点ものの意義を考え直すことから、次の時代の「ラグジュアリー」が見えてくるはず。

この展覧会は、すでにこの春に京都展が開催されています。それに続く東京展は、特別展示を加えてさらにパワーアップ。出展される作品数が、京都展よりも多いだけでなく、ディスプレイ方法ひとつをとってみても、まったく一新されています。素晴らしい衣裳を鑑賞するうちに、今までの「ラグジュアリー」観がいつの間にか変化していることに気づくでしょう。この秋一番の「目からウロコ」体験を、ぜひお楽しみください。

 

ラグジュアリー:ファッションの欲望

会場:東京都現代美術館 東京都江東区三好4-1-1 
会期:~2010年1月17日(日) 
休館日:月(ただし11/23、1/11は開館、翌日閉館)
   12月28日~’10年1月1日
開館時間:10:00~18:00(i入場は閉館の30分前まで)
料金:一般1,200円 問い合わせ/Tel. 03-5777-8600(ハローダイヤル)
※同時開催「レベッカ・ホルン展」「スウェーディッシュ・ファッション」他

 
18世紀前半にイタリアで制作された、ドレスと紳士服。
京都服飾文化研究財団所蔵 撮影/広川泰士

 

 

PART 2 ファッションエディターNの 「ラグジュアリー」展はここが見どころ!

 
京都展と東京展の両方を見て思うことは、「まったく別の展覧会として、二度見る価値がある」。
ファッションを通して「ラグジュアリー」をもっと理解するために、東京展で絶対に見逃せない、6つのポイントをご紹介しましょう。

●服のディテールを堪能すべし。
金銭に糸目をつけず、多大な労力と気の遠くなるような時間をかけて製作された衣裳や装飾品の数々。
その贅をこらしたディテールをプレイステーション 3によって、眼で見るよりもはるかに細かい部分まで鑑賞することができます。ずばり「ラグジュアリーはディテールに宿る」!

●現代の服と対比して見られるのが楽しい。
「着飾ることは自分の力を示すこと」では、歴史的なコスチュームと現代の服を対比して見られるように、部分的に展示方法が工夫されています。たとえば18世紀のローブ・ア・ラ・フランセーズと現代のバレンシアガ、19世紀の手編みレースと現代のシャネルのオートクチュールを較べて見る、なんてことができるチャンスはめったにありません。

●コム デ ギャルソンの作品と妹島和世のコラボレーション
来年のヴェネツィア ビエンナーレの建築展のディレクターに選ばれ、国際的な評価がますます高まっている建築家・妹島和世さんが、透明なアクリルを使った空間デザインを担当。もともとコム デ ギャルソンの服の大ファンだという妹島さんによる空間の中で、服が生き生きと輝いています。

●コム デ ギャルソンの服の平面写真
作品とその平面写真を、対比して見ることができます。デザイナー川久保玲がクリエイトする「今までになかった服」は、着た時だけでなく平らにしても、今までにまったく見たことのないかたちなのでした・・・

●マルタン・マルジェラは、コンセプトから読み解く。
「これがラグジュアリー?」という疑問がわきそうな、最後のセクション。しかしここが、この展覧会の問題提起部分なのです。何事も効率優先の現代にあって、ひたすら手作業でこの世にひとつしかない服を創るのにかかった時間こそ、何よりも贅沢なのでは?という考え方から、メゾン・マルタン・マルジェラのアーティザナル・ラインの作品には、オートクチュールと同様に、製作時間が明記されています。古着や使い古した日用品をリメイクして、そこに新たな価値を見出す手法は、コンセプチュアルアートそのものといえるでしょう。

●KCIのことを、もっと知りたい。
今回の展覧会で展示された作品のほとんどは、京都服飾文化研究財団(KCI)の収蔵品です。ヨーロッパの歴史的なコスチュームがたくさん日本にあることを、初めて知った方も多いでしょう。収蔵品が1万点以上に上るKCIのコレクションは、海外の展覧会にもたびたび貸し出されていることからも、内外からの高い評価の一端がうかがえます。またチーフ・キュレーターの深井晃子さんが手がける展覧会は、「華麗な革命」「モードのジャポニスム」「身体の夢」「COLORS」など、常に新しい視点で注目を集めています。http://www.kci.or.jp