土屋孝元のお洒落奇譚。雪の翌日、茶室にて思うこと。
日々の稽古にて。

(2012.01.30)

この時期、茶の本当の良さがわかるものです。

昨日は東京、久しぶりの雪でした。
首都圏とは、これほどまで雪に弱いとは…。
昨夜は電車も遅れ遅れてギリギリでなんとか家まで帰れましたが、
もう少しで止まりそうでした。
翌日は雲一つない晴天です。お稽古の茶室にて、茶とはこの時期に本当の良さがわかるものです。赤く燃える炉の炭の様子、炭が爆ぜる火の粉、(この炭は菊炭と言いクヌギの炭を使い、たわしで水洗いしてキレイに乾かしておきます、それでも爆ぜるのです。)炭の匂いと練り香の混ざった独特の雅な香り、釜の沸く音や上がる湯気の様子……。

『山田松香木店』の練り香「玄妙」は特に好きな香りです。
この『山田松香木店』がイイんですね。松瑩堂も鳩居堂も悪くはないのですが、『山田松香木店』の香りの方がピュアな感じがします。
これは自分の感じ方なので、「私はそう思わない。」と、いう意見の方も…。香りの好みは個人の趣味趣向により微妙に違うものでしょうから。

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お菓子は節分饅頭、鬼の顔を描いたユーモラスな饅頭です。
漆の菓子皿に盛り、お稽古のお客様にお出しします。お茶では菓子皿に木地の目が見える場合は木地の木目をお客様から見て横にして出します。摺り足にて客正面へ進み両膝を揃えて正座。
菓子皿をお出ししてから正座のまま左右と下がり、膝を右左と客の正面を避けてから一礼。礼にも「真」「行」「草」とあり、「草」の礼ですね。
左より片膝立ちで立ち上がり、水屋へもどります。
今日は雪輪文様の筒型で上下面取りされた薄茶器、茶ではこの形を「風雪ふぶき」と呼ぶのだそうです、茶ではこの字を当てます。上か下かわからない、まるで風雪ふぶきの様だから、と。
銀地梨地仕上げの蒔絵で雪輪文様は金地、赤漆で杵も描かれています、まことにおめでたい柄です。夜の雪に因んでのお見立てか。
同じくこの時期には筒型の茶碗を使う事が多くなります、この茶碗はお茶が冷めにくく熱いままいただく為の心使いなのですね。

この様な筒型茶碗は茶巾の扱いが若干違い、最初に人差し指と中指にて茶巾を挟み「い」の字と「り」の字を描くように底を清め、茶碗の縁にかけてから三回半回して、清めそのまま茶巾を手に持ちながら茶碗を置きます、それから茶巾をたたみ蓋置の上の釜蓋に戻します。
後は同じ薄茶のお点前に戻りますが、この茶巾の扱いが少し違うようですね。

飽くなき勉強、
良いものを見て記憶に、感覚で理解するのみぞ……。

「この茶碗はどなたのお作ですか?」に師匠は「半泥子かな」と答え、「似ていますね」と返答すると、「実は自作」との答えでした。
昨日届いたばかりという志野茶碗。志野焼きとしては、白い釉薬が少なく、口の周りに少し見える程度で茶碗全体には赤い釉薬がかけられ、部分的に黒い釉薬もかけてあります。
見た目が老木の切り株のようでもあり、断崖絶壁のようでもあり、しっかりとしたフォルムといい、景色の良い茶碗です。

水指は竹文様の染付写し、明朝末期天啓時代の民窯(景徳鎮)本歌取りです。作は川瀬忍さん。師匠曰く、本歌を借しての写しだから、本当に良い出来だそう。
他の人のは資料の写しなので細かい部分の作りが多少違っていて完成度も違うようです。実際に使用してみてわかるのですが、口の部分が楕円形と言うよりも小判形です、虫喰いと呼ばれている釉薬の剥げた感じなども、これは資料ではわかり難い事でしょうか。こういう古染付水指で一番人気があるのが竹文様、葡萄棚文様、明末天啓年製だそうです。本物は図録でしか見た事がないので本当の色は知りませんが、川瀬忍さん作の古染付写しでも、素晴らしいと思います。お稽古で使わせていただくことで勉強になります。

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今日の軸は、今個展を開催中の木村浩之さんのユーモラスな相撲墨絵で表具も素晴らしく銀箔地の紙表装で茶室で見ると薄浅葱色にも見える風情のある軸です。
作品と軸はなかなか難しいもので、軸だけ良くても作品だけでもいけないのです。
茶とは本当に奥深く、勉強することだらけです。
お稽古にて良いものを見、記憶に残し感覚で理解するしかないのかな、といつも稽古場にて思います。

山田松香木店