土屋孝元のお洒落奇譚。よいものを長く着る
スーツに手を入れて着ています。

(2013.02.27)

1999年3月27日に
仕立たものに手を入れて。

久しぶりにスーツに手を入れて着ています。

このスーツは1999年3月27日に『銀座 英國屋 銀座二丁目店』で仕立たもので、少し幅の広いピークラペルの三つ釦二つ掛けのウィンドー・ペーン柄のスーツです。この日付けは何時作られたのかを残すために、テーラーがジャケットの裏にきちんと縫い付けていて、場所は胸ポケットの裏側についています。顧客名、制作年月日を入れるのです。

さすがに、今となっては、この日付の日に何をしていたかは思い出せません。この三つ釦二つ掛けの形はトラッディショナルでクラシカル、英国のカントリースタイルの形ですね。

肩を左右それぞれ3cm詰め、ウェストラインを絞り、着丈を少し短く、ズボンの渡り幅を詰め、ダブルの裾も今風に直しました。このダブル仕上げの折り返し幅もある時期は4・5cmの幅でしたが、今は普通に4cmくらいにしています。

これだけ直すとほとんどすべてやり直しのようなものです。


シングルピークラペルスーツ。

袖口のターンナップ、ラペルのフラワーポケット……。
見せどころいっぱい。

このスーツは僕がスーツを作り始めてから10年くらいたった頃のもので、何着か制作したスーツの最終型に近く、袖口のターンナップのデザインもまとまっているのです。微妙なラウンドで生地のウィンドー・ペーンのチェック柄をうまく見せていて、折り返しの生地のチェックとラインがきちんと合わさり、それはそれは見事な仕上げなのです。ウィンドー・ペーン柄と言われてもどんな柄かわからないとおっしゃる方のために説明しますと、大きさは様々ですが、タテ縞とヨコ縞が1色使いで同じ幅のラインが交差する柄が主です。僕のスーツは濃紺に0.1mmくらいの白い縞が入る生地。窓枠のようなので名前もウィンドー・ペーンと呼ばれます。


袖口のターンナップの部分、きちんと縞を合わせています。

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これだけの仕事が出来る職人さんがいることは日本の誇りに思います。裏も凝っていて光沢のある薄いライトブルーの総裏地に脇の部分のみ明るいベージュの鹿革のパッチが付き、摩擦に耐えるように作ってあります。 ラペル部分には生の生花を刺すようにフラワーポケットも作りました。この頃の僕は、スーツはみな同じこのデザインにしていました。今では、生花を挿して出かける展覧会やパーティーも少なくなりましたというか今は全くありませんね。同じく万年筆やペンと名刺入れのためのポケットも別に作ってもらっていました。 裏側を見せて着たいようなスーツです。


裏地は光沢のある薄いブルー。裏にはポケットがたくさん作ってあります。
よいものを長く着る文化もそろそろ。

数年ぶりに袖を通してみると、弱点はサスペンダー・スタイル。着るのに少しだけ面倒なのですね。フロントも釦仕上げのため一つ一つ止めなければなりません、お腹の調子が今いちの時には緊張します。

釦は黒水牛の角釦です。サスペンダーを吊るす釦、フロント釦、ジャケットの釦、袖口の釦、全て同じデザインのもの。袖口の折り返し通称ターンナップの裏側の仕上げは45度で生地を始末した額縁仕上げと呼ばれるものです。この部分の生地のチェック柄もきちんと合わせ、どこにも気を抜いていない作りになっています。 スーツもこれだけ、直して着てもらえば本望でしょう。


スーツのターンナップの裏側45度の角度で始末しています。

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今は次々と流行が変わりスーツもワンシーズンぐらい着たら終わりにするとか、よいものを長く着る文化もそろそろ省みては、と思います。 よく母親の世代の女性は着物を打ちなおしたりして長く着るものですが、 スーツにも同じような意識をもって着てみるのもいかがでしょうか。