土屋孝元のお洒落奇譚。 雪と桜にちなんだお道具の話からお茶の愉しみまでつらつらと。

(2014.04.02)
吹雪薄茶器。梨地銀彩杵雪輪文様蒔絵、華やかな杵と雪輪のお道具です。©Takayoshi Tsuchiya
吹雪薄茶器。梨地銀彩杵雪輪文様蒔絵、華やかな杵と雪輪のお道具です。©Takayoshi Tsuchiya
薄茶で使う薄茶器「吹雪」

春のお彼岸も過ぎ、桜の季節です。「暑さ寒さも彼岸まで」とは言うものの……夜風に乗り 沈丁花の花の香りが漂うのですが、この風の冷たさはなんでしょうか 。なんでも北極からの冷気団がアメリカと日本方面へ降りてきているとか、北国では大変な雪の害になって 仮設住宅も停電したりしているようです。南からは桜の開花も始まり、もうすぐそこまで春はやってきています。東京に住むものにとり、先月の約40年ぶりの積雪で雪の害は人ごとではないのですが、消えてしまうと忘れるのもまた早いものです。

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雪と桜に関係するお道具の話を少しだけ、お茶の世界ではお薄と呼ばれる薄茶で使う薄茶器に「吹雪」(ふぶき)と呼ばれるものがあります。

一見普通の肩付き型の茶器なのですが、上と下に面取りした肩があり、同じ角度で上下シンメトリーになっています。この名前の由来は 吹雪の時には風景が真っ白で天地もわからないと言う事で「ふぶき」と呼ばれるようです。
粋な呼び名だと思います。

この吹雪の時には袱紗は二引き(にびき)で清めます、それぞれ使う茶器の型により袱紗扱いも違い、これもお茶で学ぶべきことの一つですね。

雪輪文様は華やいだ気分。

もう一つ、雪に因んだものがあります。雪輪文様と呼ばれる蒔絵で これは江戸時代後期に雪の結晶を20年研究した土井利位(どいとしつら)という殿様がいて、雪の結晶を「雪華」(せっか)と命名し その雪の本『雪華図説』(せっかずせつ)を出してから、庶民にも知られ 文様にまでなり 一般に広がったようです。夏の着物に雪輪文様なんて粋な取り合わせだったのでしょう。その薄茶器には朱漆の杵と金蒔絵の雪輪文様が施されていて、使うと華やかな気分にさせてくれます。お稽古では、杵と雪輪文様ということで2月くらいの旧暦正月の時期によく使用します。

薬器薄茶器。大老井伊直弼好みといわれる洗い朱漆の桜と雉の蒔絵付き薬器のお道具です、洗い朱と金の蒔絵が美しい。©Takayoshi Tsuchiya
薬器薄茶器。大老井伊直弼好みといわれる洗い朱漆の桜と雉の蒔絵付き薬器のお道具です、洗い朱と金の蒔絵が美しい。©Takayoshi Tsuchiya
茶器の型により異なる袱紗扱い。

先日のお稽古で使わせていただいた この時期にしか使えない薄茶器が、井伊直弼好みといわれる洗い朱漆(しゅうるし)の薬器型(やっきがた)茶入れです、この薬器型というのは上が大きく下が小さい台形円柱で蓋は丸みを帯びた曲線で仕上げています、この蓋の時には「甲ぶき」という扱いで袱紗では棗と同じく「こ」の字を書くように清めます。綺麗な洗い朱に金の桜の花びらが蒔絵で施され、同じく金蒔絵の図案化された雉が描かれています。桜と雉という珍しい取り合わせの薬器でした、作は広哲と箱には書いてありました。同じく薬壺型(やっこがた)という薄茶器もありました。こちらは故夏目有彦(なつめありひこ)さんのもので はじめは字の如く薬を入れるための容器だったものを昔の茶人が茶入れに見たてたもののようです。根来塗りの黄色が少し強い朱色 (M80%+Y100%)正しくは水銀朱という水銀からできる赤色の漆の綺麗な薄茶器です。

今ではこの漆は使えなくなり、この色は出せないようですね。安全性を優先すると美意識は後退していきます。使う人にまかせ あまり細かくいわないほうが良いモノが出来ると思いますが いかがでしょうか。

薬壺型薄茶器。この薬壺型とは、薬師如来が持つ薬入れから由来で、故夏目有彦さんの根来は本当に綺麗なお道具です。©Takayoshi Tsuchiya
薬壺型薄茶器。この薬壺型とは、薬師如来が持つ薬入れから由来で、故夏目有彦さんの根来は本当に綺麗なお道具です。©Takayoshi Tsuchiya

お道具の薄茶器、この時期にちなんだものなどお話しましたが、お茶は見たてなので自分でこれはと思う道具を薄茶器に代用するのもありだと思います。その人のセンスを問われますが、例えば古い切子やバカラのグラスを茶入れにしてちょうど合う蓋を組合わせ薄茶器に見たて、銀の匙などを茶杓に、盆だて点前には面白い組み合わせではないでしょうか。

お茶碗はデルフトとか、白磁など合わせて、冷水仕立てのおもてなしには涼しげでなかなか良いのでは。このように取り合わせや組み合わせを考えることもお茶の愉しみのひとつです。ある程度の基本を押さえておけば、美味しく楽しく自分なりにお茶を飲めますよ。