土屋孝元のお洒落奇譚。茶会ご報告、
さてどの様なお見立てでしょうか?

(2012.01.27)

銀座・阿曽美術内茶室にて。

昨年末、お茶時のお誘いが師匠よりありました。いつものように銀座にある『阿曽美術』内茶室にての茶事です。

『阿曽美術』の阿曽さんは僕のお茶の師匠です。ふらっと、細川元首相、林屋晴三さん、武者小路の千宗屋若宗匠や宗偏流の家元もいらしてお茶を飲みます。阿曽さん自ら制作したお茶室は都会の真ん中とは思えないくらいの静寂です。

今回は一日3席の予定だそうで、僕は午後1時の回に出席しました。出席者は4名、いつもお稽古にて顔を合わせる方達。茶事の習いとして、出席を手紙にて事前にお知らせしてあります。

今日の見たてはどのように組合わされているかと思い、『阿曽美術』に入りました。待合にかわる画廊内には芸大の大々大先輩版画家駒井哲郎さんの銅版画が掛けてあります。クリスマスらしい駒井哲郎さんの作品。アクアチントによるエッチングです、内容は夜空?  幻想風景でしょう。違う棚を見ると、先日『阿曽美術』にて個展を終えたばかりの陶芸家三原研作の大振りでシャープなフォルムの前衛彫刻か立体作品かと見間違える花入れ、ヤドリギが生けてあります。僕は初めてヤドリギの実生を見ましたが、実は半透明なグミのようでもあり、ガラス細工のようでもあります。ヨーロッパやアメリカではヤドリギはクリスマスリースの定番で、「ヤドリギの飾りの下で出会った二人はキスをしなければいけない」などという風習もありますね。確かあのハリーポッターでもそんな場面があったかと思います。

時間となり、皆さんがそろい少し落ち着いたところで 亭主より汲み出しが振舞われます。器は唐津の西岡良弘作ですね、朝鮮唐津の涼やかな瑠璃色の流れ釉の表情がとても綺麗な器です、柚子の香りがほのかに漂う白湯をいただき、いざ、お茶室へ。

光る水指し!

茶扇子にて結界をつくり、一礼して床の拝見、床にも駒井哲郎さんの作品が掛けてあります、夜空に月のエッチング、アクアチントかメゾチントかクリスマスらしい見立てです。席につき、まづはお酒から、今日はイタリアワイン、キレイなルビー色、キャンティのようです。

この後、お料理を各自取り分けるのですが、銘々皿が故夏目有彦作、黒漆の中央に螺鈿細工と金泥にてヘブライ語の一言を施したお皿で、ほの暗い茶室の照明に螺鈿が青白く輝きとても幻想的なお皿です。まづは先付け、サラダをいただき、次に鴨のロースト、クリスマスらしくフレンチが続き、鴨の塩加減も焼き具合も素晴らしく美味しくいただきました。

続いて椀ものは、鱈づくし、白子に鱈の身、しかも大根おろしを入れたみぞれ仕立で雪をイメージする具沢山の白い一椀でした。これだけでも充分なほどの美味しいお椀でした。

どのお料理も食べ終わり、次に茶事での決まり事になります。客4人が同時に自分の箸をお膳に落として音を出し、亭主へそれとなく知らせます。

亭主が水屋から現れ、客のお膳を手渡しにて受け取りかたずけます。客は正客より順に一旦茶室より離席します。

待合にて休憩の後、再びお茶室へ席入りします。この時 お軸からお花に変わるのが裏千家では一般的ですが、今回のクリスマス茶会ではどうでしょうか。デザイン、お茶での先輩、佐村憲一(憲山)作の花入にお花が生けてあります。お花は何でしょう、昼からのワインのために名前はすみません、失念いたしました。さて、いよいよお茶の時間です。

亭主が水屋から登場して主菓子(おもがし)を運びます。主菓子はクリスマスらしく四角いマシュマロです、亭主が手前所作を始め、茶碗に棗から薄茶を入れた時を目安に主菓子を懐紙に取り分けていただきます。

水指はすりガラスの様ですが、不思議な形状です、薄茶器も僕は初めて見るものです。
所作が始まると、先ほどのガラスの水指が内側から光りだしました。

なんと、色が変わる。

暗い茶室での光は幻想的で、よくよく見ていると、なんと、色が変わるではないですか、ある一定の時間により変化しています、赤から紫、ブルー、グリーン、と。水指に見惚れていて気がつくと、お茶碗は小川待子作、プラチナ釉の黄金茶碗。お茶の緑と金の組み合わせは何度見ても素晴らしく、輝きも一段と増しています。お茶杓も時代物のようですが、拝見まではよく見えません。

拝見。裏と表の違いは畳のヘリ外か内かの違いです。裏千家では畳のヘリ外にて拝見。薄茶器は現代作家ものだそうです、ビザンチン様式かとも見える蒔絵が施され、この茶事の見立てには最適です、お茶杓はやはり、時代物でした、共筒に銘があり菊……? 読めませんでした。共筒とは茶杓制作者か後の所有者が自分なりの銘をつけて竹の筒に銘を書いて所有、保管するためのモノです。

茶事も無事に終わり、正客より退席です。後日、亭主宛にご礼状を送ります。毎回、絵付きの手紙を送っているのですが今回はヤドリギのリース絵にしました。

茶とは大人の遊びです、見立てたお道具にて亭主と客の間にて、ある時間を共有し、愉しむ芸術ではないでしょうか。一期一会、まさにその言葉のままです。

阿曽美術