土屋孝元のお洒落奇譚。香りにまつわるエトセトラ。
金木犀、炭手前……。

(2011.10.17)

秋の空気、金木犀の香り。

金木犀が香る秋の空気が心地よい季節です。金木犀はなんでも、江戸時代に日本へ渡来したそうで、それまでは無かったというのが不思議なくらいです。

今、日本の金木犀は雄株しかないので実は成らないんですね。原産地の中国南部では実生します。金木犀は桂花陳酒の香りをつけたり、桂花茶、蜜煮にして桂花醤という薬味や香味料としても使用し、この桂花醤は使い道はかなりあるようです。

そうです、中国では桂花ですね。

この時期、香りを放つ植物は金木犀くらいしかないのでは、これも私感ですが。

記憶を連想させる香りの様な気がします。僕も遥か昔、中学生時代、自宅から駅を越えた塾へ通っていて、その帰り道暗い夜道にこの金木犀の香りが漂っていたことを、今でも正確に覚えています。

一緒に帰った塾の女の子達のことや、駅までの道順のこと、ばく然と周りの風景のことなど。その後、金木犀の香りで連想される記憶には、ある音楽がありました『君の瞳は10,000ボルト』です。金木犀の香りとこの曲のイントロ部分が僕の記憶の中で一体化しているのです。

人間の記憶には香りや、匂いがかなり関係すると本で読んだことがあります。

大脳の記憶を司る部位の近くに香り、匂いを感知する部分があるということでした。

炭手前について。

さて話を本題に。お茶室において香りは、練り香、香木などを使用します。

伽羅、沈香、白檀、などの香木は風炉の時に使うことが多いですね、練り香は炉の時に使いますがこれも決まりではありません。基本的には同じように炭にのせて香りを楽しむのです、この香木や練り香を入れる物が香合というお道具です。

風炉には漆、木や竹でできたモノ、炉では焼き物の香合、何時でも使えるのは蛤など貝類、金属類の香合とだいたい決まりがありますが 、これも亭主の趣向で決ります。

練り香というモノは、昔の丸薬のように黒くて丸い玉状のモノです、それを炉の炭、この炭は炭手前の最後にまだ燃えていない炭の上に置き 火がまわるにしたがい段々と香りが立つようにと亭主が心使いするのです。

ここで簡単に炭手前についてお話いたします。

茶会席において、席入りしたのち、客が見ている前で炭を入れる所作のことを炭手前といいます。あらかじめ炭取りという籠の様な入れ物に、炭を組み 茶室に入ります。炭にも名前があり、胴炭、丸ぎっちょ、割ぎっちょ、丸管、割管、点炭、枝炭、輪胴など。この炭はクヌギの炭に限るのです。茶事の前には綺麗に洗いゴミや汚れをとっておきます。これをしないと火が点く時に爆ぜる粉が出てきますなどなど…。知らない人にはちんぷんかんぷんです。
一言で言えば、炭が燃えやすく、綺麗に見えるということでしょうか。

香木や練り香は何処で手に入れるのか。

炭が綺麗に燃えるには灰形も重要ですね、こちらは茶事の前にやっておくものですが、招かれた客は炉の近くに寄って、皆でその様子を見るのです。
そうそう香合の拝見もありますね。

釜は何処にと思われるでしょうが、釜はあらかじめ炉から外して横に置いておきます、これにもこの釜の扱いの所作があります、ここでは省略いたしますが。

お茶には無駄な動作がまったくないので、いつも、利休さんの考えた事は無駄無く、綺麗に見え、能や舞踊を見るようです。外国人が見たら現代美術のインスタレーションの様でしょうね。

香木や練り香は何処で手に入れるのか、僕は銀座にある松栄堂、え! 松栄堂が銀座にあるのですか、とおっしゃる方もいるでしょうか。銀座の京都新聞社ビルの一階にあるのです。鳩居堂はみなさんご存知の四丁目、香十は銀座コア、京都では山田松香木店、鳩居堂、松栄堂、と老舗があります。自分のお好きな香りを試して、これが好きとかイマイチだとか経験を重ね、段々と自分の香りが見つかるのでは。

好きな香りはどこどこのお店の何々ですと言えるのもお洒落ですよ。

香老舗 松栄堂