道田宣和のさすてーなモビリティ vol. 3シーズン到来
やればできるじゃないか。

(2011.12.10)

ええい、いっそ「モ」も取ってみたらと、「サステーナビリティ」にしました。ホントはsustainable mobilityだから、こうなると何のことだか分からない。分かったような分からないような……。まあ、それでいいのかも。

とにかく夏の終わり頃からめっぽう忙しかった。「実りの秋」はクルマの世界も同じ。特に今年は隔年開催の東京モーターショーを控え、やれ発表会だ、試乗会だとプレス向けのイベントが続いた。見てなんぼ、乗ってなんぼのこの稼業、知らないことには話にならない。日程調整に苦労しつつ、本音を言えばそんな状況をこそ愉しんでいた。

ミラからパサートまでの12台。

その中で人一倍「乗りたがり」なボクを満足させてくれたのが我がRJC(NPO法人 日本自動車研究者・ジャーナリスト会議)主催の『RJC カー オブ ザ イヤー』だった。この1年間に新しく登場した日本車と輸入車の中から第一次選考で残ったそれぞれの“6ベスト”をツインリンクもてぎ内の特設コースに集め、同じ土俵で走らせたうえで全員の投票によってカーオブザイヤー(日本車)1台と同インポート(輸入車)1台を選出するのである。結果は、すでに受賞車の広告展開でRJCのロゴが使われているからお気づきかもしれないが、前者が日産リーフ、後者がボルボS60/V60と決まった。詳しくはRJCのホームページをご覧下さい。

正直言って、6ベストの各車に対して上から順に6-5-4-3-2-1点のどれかひとつを必ず、しかも重複しないで割り振るという、RJC独得の投票方法に則ったボク自身の配点には全体の結果とやや異なる部分もある。しかし、総意は総意として尊重すべきだし、また、無記名を旨とする会の方針にも鑑み、ひとまずそれは伏せておくのが礼儀というものだろう。


広さは幕張と同等だが、場内の配置が分かりづらい東京ビッグサイト。しかも、暗く、これが世界で一、二を争うトップメーカーのブースとは。


やっぱりクルマは面白い。

と言いながら、こんな機会は滅多にない。メーカーやブランドが相乗りする数少ないイベントとしては毎年2月に行なわれるJAIA(日本自動車輸入組合)主催の合同試乗会があるが、ここではさらに日本の軽自動車までもが顔を揃えており、クラスが違えば価格やジャンルも違う。その種々雑多なところが乗り手にとってはなんとも魅力だ。しばし理事の立場も忘れてイッキ乗りに興じたが、以下の寸評を披露すると案外手の内がバレてしまうかもしれない。まずは順不同で日本車から。


レースでもショーでもない。すべては勝たんかなといいながら、我々会員のためにもてぎまで来て設営してくれる。『RJC カー オブ ザ イヤー』会場にて。

ダイハツ ミラ・イース ハイブリッドに頼らず30.0km/ℓ(JC08モード)を達成したのは立派。その割にちゃんと走るのも驚き。オイルショック後の「省燃費車」がそうではなかったから。合理的だが戦後の耐乏車と紙一重のデザインが惜しい。

ホンダ フィット・シャトル・ハイブリッド ホンダ独創のセンタータンク方式により室内の広さと荷室の使いやすさはプリウスαを圧倒する。常時エンジン音を意識させるハイブリッドは発展途上。煩雑で子供じみた計器盤はなんとかならないか。

マツダ デミオ13-SKYACTIV 個人的にお勧めの1台。ユーロピアンテイストのスタイルとシャープな運転感覚に25.0km/ℓ(JC08モード)の低燃費が加わって文武両道。アイドリングストップは賢いが、交差点の右折待ちではギリギリのことも。

日産 リーフ 逆説的だが、賞を授与されるために生まれてきたようなクルマ。事実、RJCをはじめ内外の各種アウォードを総嘗め。最大の理由がEVを言い訳にしないだけの現実感に富んでいること。最初から完成度の高い、日産車では稀有な1台。

トヨタ プリウスα セダンより約100kg重く、クラウン的な大人びた雰囲気に包まれる。もはやEV走行とエンジン・オンの区別が判然としないほどの静かさと滑らかさ。7人乗りはバッテリー変更の甲斐なく、3列目が補助席の域を出ない。

スズキ ソリオ せいぜいワゴンRの兄貴分くらいかと想像していたら、まったくの別物。むしろ下敷きになったのはスイフトで、出来そのものも優等生のそれを上回るほど。なによりBMWに似たもちもちした感触のステアリングが収穫。

アウディ A1 躍進を続けるアウディがかつての50やA2以来久々に放った小型車。セダンではなくクーペとしたところに今のアウディの自信と余裕が表われているが、反面やや子供っぽく、軽快さは血縁関係にあるVWポロやゴルフに一歩譲る。

BMW 1シリーズ 「走る、曲がる、止まる」のダイナミズムを直接身体で感じられる、あるいは感じやすいのがFR(後輪駆動)車。その入門篇としてデビューした先代のネガをすべて潰したのが2代目のこの新型。なかでも廉価版の進化が著しい。

シトロエン DS4 実用一本槍のボディと絶望的な加速。そんな過去のシトロエン像とはまるで逆なのがアグレッシブなスタイルのこのクルマ。特に200PSのマニュアル仕様はエンジンがビュンビュン回って小気味良く、まるでイタリア車の痛快さ。

フィアット 500ツインエア ヨーロッパの乗用車はざっと半分がディーゼル車。CO2が少ないから。残る半分のガソリン車は小排気量/少気筒+ターボ化が猛烈に進み、この500ではついに2気筒に。音はともかく、振動まで復元することはないのに。

フォルクスワーゲン パサート そのトレンドに先鞭を付け、現在も熱心なのがこのメーカー。お陰でこのトップモデルさえ排気量は僅か1.4ℓになってしまった。ただし、寛ぎの空間はそのままで、他のクルマから乗り移るとなぜかホッとする。

ボルボ S60/V60 周囲の危惧とは裏腹に、ボルボは中国資本に買われてからの方が生き生きとしている。製品は依然100%ヨーロッパ製。最新のこのクルマは持ち前の安全性に加えて、運転して愉しいキャラクターを打ち出すようになった。

GM本体は欠席だが、スマートモビリティを集めたコーナーには研究途上のメガシティ用コミューターがシボレーの名で展示されていた。燃料電池も手掛けるジョージ・ハンセン氏によれば、最近特許の数でGMはサムスンを抜いたとか。


見えてきた道すじ

もはやハイブリッドは当たり前、EVも現実のものとなり、その一方では既存技術を徹底して見直して効率化を図る流れが出てきた。そうして迎えた第42回東京モーターショー2011は、これまでと違って純然たる参考出品すら単なる絵空事ではなく、ある程度は意味のある展示のように映った。前回リーマンショックの余波で通夜のようだった会場は今回ヨーロッパ勢の大半が復帰して活気を取り戻したが、従来以上に中国市場を重視するアメリカ勢からは無視されたままだ。かつてデトロイト、フランクフルトと並んで世界3大ショーと囃されたのがウソのようである。幕張からビッグサイトに移って観客は増えたのだろうか?

なにがどうあれ、クルマはこの見えてきた道すじを頼りに進むしかないだろう。プレスデイ初日の夜に六本木AXISで開催された恒例のパーティ、“デザイナーズナイト”ではそのことで少し安心したという声が少なからず聞こえた。


関係ないけど、クルマ好きで知られる松任谷正隆さんの還暦祝いパーティで。玉座に座るご本人。