道田宣和のさすてーなモビリティ vol. 23モビリティ総レビュー2015。 「持続可能性元年」はホンモノか?

(2015.12.29)
 東京モビリティ23。ご存知、東京駅の日本橋口を大手町方向から見遣る。架橋とビルが道路の上にマトリクスを描く。
東京モビリティ23。ご存知、東京駅の日本橋口を大手町方向から見遣る。架橋とビルが道路の上にマトリクスを描く。
祝 COP21パリ協定採択

歴史的な快挙である。両極の氷が溶け、ツバルの陸地が波に洗われるなどして、地球温暖化はもはやのっぴきならないところまで来た。CO2排出大国のアメリカや中国が加わらず、今後その大幅な増加が見込まれる新興国や発展途上国も対象外だった京都議定書(COP3)から数えて18年。パリで行なわれた第21回国連気候変動枠組条約締約国会議は12月12日、議長国フランスによる調整が功を奏してか、それらの国々を含む196ヵ国・地域すべてが互いの利害を超える形で同意し、温暖化阻止のための新たな基準を設けることに成功した。

その骨子は、1)産業革命以前からの気温上昇を21世紀末時点で2度未満と規定し、さらに望むらくは1.5度以内に収めるべく努力すること。2)すべての国に温暖化ガスの削減目標を国連宛に作成・提出させ、5年ごとの見直しを義務づけるという画期的なもの。とりあえず結果に対するペナルティは課されないものの、あとは実行あるのみ。なにしろ人類の命運が懸かっているのだから。

12月14日(月)の夕刊から。この日は休刊日で半日遅れだったためか、一面トップを「日銀短観」に譲った。さすがは日経と言うべきかもしれないが、ニュースバリューは本来こちらの方が比較にならないほど大きいはず。
12月14日(月)の夕刊から。この日は休刊日で半日遅れだったためか、一面トップを「日銀短観」に譲った。さすがは日経と言うべきかもしれないが、ニュースバリューは本来こちらの方が比較にならないほど大きいはず。
2050年にはエンジン(のみ)車ゼロへ

折も折、トヨタはそれに先立つこと2ヵ月前の10月14日、自身久々の開催となる“環境フォーラム(2015)”を設け、その場で“環境チャレンジ2050”なる構想を披露した。曰く、『持続可能な社会の実現に貢献するため』掲げた、いわば企業としてのマニュフェストである。

その内容たるや実に壮大で、単にCO2削減のために35年後までを見据えた自社製品の超長期的な計画というだけでなく、その製造や廃棄に関わるすべてのステージで環境負荷の劇的な低減を宣言するという意欲的なもの。果ては植樹など、自然保全活動への積極的なコミットメントまで謳っている。

けれども、一般の消費者やクルマ好きにとって最大の関心事はやはりこれからのクルマがどうなるかに違いない。その点でもこの“チャレンジ2050”はきわめて具体的なロードマップを示しているのが特徴だ。トヨタが描くその将来像は、端的に言って年を追うごとにハイブリッド車(HV)やプラグイン・ハイブリッド車(PHV)、燃料電池車(FCV)、電気自動車(EV)の構成比率が高まり、ロードマップのゴールである2050年の時点では純粋に在来型内燃機関だけを動力源とする新車はついにゼロとなり、すべてのクルマがなんらかの形で電気モーターを備えるようになるという。そうなった暁には、“グローバル新車平均”で走行時のCO2排出量が2010年比90%削減されることになる。

これ(エンジン車ゼロ)って、頭では分かっているつもりでもいざ数字を突きつけられると、幼時からガソリンやオイルの匂いを嗅いで育ち、時にそれをかぐわしいとさえ感じてきた我々“在来型人間” にとっては結構ショッキングな話だ。サーキットに行くと辺り一面圧するがごときレーシングエンジンの咆哮とともに、そこはかとなく漂っていたあのカストロール・オイルのような芳香はただただ忘却の彼方に消え去るのかもしれない。

喫緊の課題。
喫緊の課題。

トヨタの対応。
トヨタの対応。

ただし、あくまでチャレンジはチャレンジであって、実際に行程表どおりに進むとは限らず、また一部には「一私企業に何ができるのか」「ひとりイイ子になりやがって」と、やっかみの声も聞こえてきそうだが、それでもすでにHVをダントツで量産し、FCVの実用化にも初めて成功した世界ナンバーワンメーカーが唱えることにはそれなりの意義と重みがあるはずだ。まさにトヨタだからこそ成し得た表明に違いない。
35年先は遠いようで実はアッという間だ。ボクが1970年代前半の第一次オイルショックで騒然としていた頃、モータージャーナリズムの世界に身を投じ、今またオートノマス・ヴィークル(自動運転車)の実現を目前に控えるまでの、この40年間がそうだったから。

フォーラムの第2部では、このために招聘されたIUCNの生物多様性保全グローバルディレクターやWWFのインターナショナル事務局長らによるパネルディスカッションが行なわれた。
フォーラムの第2部では、このために招聘されたIUCNの生物多様性保全グローバルディレクターやWWFのインターナショナル事務局長らによるパネルディスカッションが行なわれた。
 
TMS 2015オーバービュー

かつてはその重要度と華々しさからフランクフルトやデトロイトのそれと並んで世界3大オートショーの名を恣にしたTMSこと東京モーターショーだが、依然尖端技術の一大展示場としてそれなりの賑わいは見せるものの、こと集客力や溢れるような熱気という点ではマーケットの勢いをそのまま反映したかのような北京や上海のパワーに一歩譲らざるを得なくなっている。隔年開催で通算44回目に当たる今年は10月29日から11月8日までの間、東京ビッグサイトを舞台に行なわれたが、会期中の入場者数は前回比10%減の81万2500人とやや寂しかった。

そのため、主催者のJAMA(一般社団法人 日本自動車工業会)ではTMSならではの特色を打ち出すべく、ここ3回はクルマを情報通信やエネルギー、住宅などと結び付けることによって、より有機的で効率的な社会インフラの構築が可能なことを提示する、名付けて“スマートモビリティシティ”なるテーマ事業に注力するようになった。メーカー個々のブースとは別建てでコーナーを特設し、企画に沿ったクルマや住宅、機器などを集めてそれぞれ単独に、もしくは相互に関連付けて共同展示する試みである。

その言や善しで、事実EVやFCVが災害時の非常電源として家庭に電力を供給する光景など、なるほどと思わせるし、頼もしくもあるが、全般に現状を見る限りでは個々の要素にレベルの違いがありすぎたり、協調(への取り組み意欲)不足だったりして、未だしの感があるのは惜しいところだ。真にスマートになるには優れたシステムプランナーの存在ともう一段のブレークスルーが不可欠だろう。

今回のTMSではオートノマス関連の展示が一気に増えた。これは日産のIDSコンセプト。2013年にボク自身がカリフォルニアで体験したリーフ・ベースの試作車とは違って、専用デザインの流麗なスタイリングが目を惹く。ご覧のとおり、不要な時はステアリングがモニターに変身する。もちろん、EVだ。
今回のTMSではオートノマス関連の展示が一気に増えた。これは日産のIDSコンセプト。2013年にボク自身がカリフォルニアで体験したリーフ・ベースの試作車とは違って、専用デザインの流麗なスタイリングが目を惹く。ご覧のとおり、不要な時はステアリングがモニターに変身する。もちろん、EVだ。
トヨタの超小型モビリティ、 “i-ROAD”に乗ってみた。後1輪がステアし、ボディがリーンする感覚は独得で、まるで生き物みたいにホップしながら走る(ようだ)。現在実証実験中で、都内でちょくちょく見掛ける。モーター駆動で、原付き3輪車の扱いだ。
トヨタの超小型モビリティ、 “i-ROAD”に乗ってみた。後1輪がステアし、ボディがリーンする感覚は独得で、まるで生き物みたいにホップしながら走る(ようだ)。現在実証実験中で、都内でちょくちょく見掛ける。モーター駆動で、原付き3輪車の扱いだ。
 
イヤーカー2015

最後に、今すぐにでも手に入る現実のクルマについての話題を少々。まず、恒例の我がRJCカーオブザイヤーは日本車部門がスズキ・アルト、輸入車部門がMINIクラブマン、技術賞がトヨタMIRAIと決した。詳しくはホームページhttp://www.npo-rjc.jpを参照されたいが、言うまでもなくこれは会員68名で構成される組織としての総意だ。

ボク個人の意見となるとまた別。そもそも当会のイヤーカー選びはフルモデルチェンジした「新型車」である必要があり、しかも、これまた会員の投票による第一次選考で上位6台までに残っていなければならない。で、そうした規定に縛られることなく、毎年このコラムで勝手に言い放っているのが“F-O-T-Y”(ファン・オブ・ザ・イヤー)と “V-O-T-Y”(ヴァリュー・オブ・ザ・イヤー)だが、今年は試乗した数ある車の中から日本車ではホンダS660を、輸入車ではBMW340iを、そしてV-O-T-Yにはフォード・エクスプローラーを推したい。
理由は簡単、S660は軽の枠を超え、スポーツカーとして「ホンモノ」だから。340iは新設計された伝統の“6発”(直6エンジン)が涎が出るほど気持ちいいからだ。エクスプローラーは内外装のフィニッシュが格段に向上し、「安物フォード」のイメージを覆して今昔の感がある。それでいてなお、レンジローバーあたりに比べれば半分以下の値段だ。

あれッ? ここまで書いてきて我ながらハタと気が付いた。これって、車種こそ違え、3台が3台ともメーカーとしては去年(ヴェゼル/M3/マスタング)と全く同じじゃん! ジャーナリストたる者、特定のメーカーに肩入れするつもりなどさらさらないけれど、果たして偶然の一致なのか、それとも性癖の発露なのか、はたまた(我が身の)進歩のなさなのか? いやいや、冷静に振り返ってみるとこれらには実際にステアリングを握る、それもしかるべきシチュエーションで存分に振り回す機会に恵まれたという事実が共通していた。やはりクルマはどこまで行っても「乗ってナンボ」の世界なのだから。それがパーソナルモビリティ、すなわち個人のための自由な移動手段である限り。

S660。日本車としては異例な全高1180mmの低さがすべてを語る。スピード感、クイックさ、剛性……。レーシングカートのそれを思い浮かべてもらえばいい
S660。日本車としては異例な全高1180mmの低さがすべてを語る。スピード感、クイックさ、剛性……。レーシングカートのそれを思い浮かべてもらえばいい
マイナーチェンジで復活した、それこそ“エンジン車”そのものの340i。試乗車はBMW得意の“M Sport”だった。モデルチェンジ後はハイブリッド以外6気筒モデルがなかったから。パワフルで緻密でレスポンシヴな“6発”に鞭をくれてやるとステアリングでもスロットルでも自在に曲がってくれるのが楽しい。
マイナーチェンジで復活した、それこそ“エンジン車”そのものの340i。試乗車はBMW得意の“M Sport”だった。モデルチェンジ後はハイブリッド以外6気筒モデルがなかったから。パワフルで緻密でレスポンシヴな“6発”に鞭をくれてやるとステアリングでもスロットルでも自在に曲がってくれるのが楽しい。
2011年のモデルチェンジでフレームレスのモノコックになったエクスプローラーは富士の偉容にも負けない全幅2mの堂々たる体躯。室内からはドアが遠いのを実感する。かつて同じ釜の飯を食べた間柄からか、レンジローバーとはどことなく顔付きが似ているから不思議だ。マスタングにも載る新世代2.3ℓ4気筒“EcoBoost”エンジン付きのXLTならなんと489万円の安さだ。
2011年のモデルチェンジでフレームレスのモノコックになったエクスプローラーは富士の偉容にも負けない全幅2mの堂々たる体躯。室内からはドアが遠いのを実感する。かつて同じ釜の飯を食べた間柄からか、レンジローバーとはどことなく顔付きが似ているから不思議だ。マスタングにも載る新世代2.3ℓ4気筒“EcoBoost”エンジン付きのXLTならなんと489万円の安さだ。