道田宣和のさすてーなモビリティ vol. 25 吉例・新春輸入車イッキ乗り 今年も健在、それぞれの個性

(2016.03.14)
トーキョーモビリティ25。山手通り×駒沢通りの中目黒立体交差。奥を横切るは東横線。
トーキョーモビリティ25。山手通り×駒沢通りの中目黒立体交差。奥を横切るは東横線。
 

クルマ好きの孫(5歳)にせがまれ、某日本車メーカー随一のブランドショールームを覗いて啞然とした。アレ乗ろう(坐ろう)、コレ乗ろうとさんざん引っ張り回され、ジイさんその乗り降りで疲れ果てたから、ではない。

サイズやカテゴリーの違うクルマが目の前にズラリ何十台も並んでいるのだから本来もっとワクワクしていいはずだが、不思議なことにどれに乗ってもあまり変わり映えがせず、是非このクルマでなくてはと強く訴えかけるものがない。正直言って“コモディティ化”した印象しか残らなかったのである。もっとも、この日は実際に走らせたわけではないから、主としてエクステリアとインテリアに限った話なのだが、これまでの経験からすれば残念ながらその面でも大同小異なことが多いようだ。

対して、こちらは偶々その直後(我々フリーランス向けは2月4日)に行なわれた、ご存知JAIA(日本自動車輸入組合)主催の『第36回輸入車試乗会』。年に一度、加盟各社が最新モデルを持ち寄ってプレスに供する一大イベントだ。

例年どおり100台近い試乗車の中からボクが選んで乗った、国もメーカーも異なる8台(+前回書いたポルシェ・パナメーラのPHVも)は各車各様、それぞれに強烈な個性を謳い上げ、優等生だけど右に倣え(だからこそ優等生?)の日本車とは依然としてクルマづくりそのものが違うのではないかと改めて感じ入った次第。以下はそのインプレッション。数が多いのでサラッと行きたいのですが、どうなりますか。

ボクにとっては31回目のJAIA試乗会。マクラーレン570Sは乗り逃した。
ボクにとっては31回目のJAIA試乗会。マクラーレン570Sは乗り逃した。
妖艶
マセラティ・ギブリ S Q4/1135万円

(こりゃ、売れるわ)。ドライバーズシートに収まり、与えられた45分間の試乗枠を愉しむべく路上に漕ぎ出した瞬間、思わずボクの口を衝いて出た言葉だ。メルセデスで言えばEクラスに相当する現代のギブリは、マセラティ再興の立役者となった“クアトロポルテ”ベルリーナ(伊語でセダンの意)の美点をそっくり受け継ぎ、Eクラスがさらに大きなSクラスに対してそうであるように、主として取り回しの良さや「目立たなさ」を狙ってそれをややコンパクト化したオーナードライバー向けのクルマである。小さいとは言ってもそこはイタリアきってのプレスティッジサルーン、ホイールベース3000mmの上に構築される全長4970mm(兄貴分は各3170mm、5270mm)の優雅なボディは前でも後ろでも余裕ある空間を楽しめる。

“GHIBLI”の名は1960〜70年代のスーパースポーツカーを襲ったものだが、サルーンのギブリは今や同社で一番のボリュームセラーとなった。
“GHIBLI”の名は1960〜70年代のスーパースポーツカーを襲ったものだが、サルーンのギブリは今や同社で一番のボリュームセラーとなった。

だが、何と言ってもキモとなるのはドイツ系高級車にはない独得の雰囲気。同じ高級車然とした「木と革」の世界(内装)でも微妙な色遣いや仕上げの違いからどことなくラテン特有の「色っぽさ」が滲み出ているから不思議だ。ヤンチャな“グラントゥーリズモ”系よりいくぶん控えめとは言え、レーシングカーを出自とするメーカーらしく、迫力のエグゾーストノート(排気音)も健在である。3ℓV6ツインターボは充分にパワフル、足回りが若干硬いのはいかにもイタリアのスポーツセダンらしい。“S”は+80PSの高性能版を、“Q4”は4WDを表わすが、「並みの」ギブリなら915万円から入手可能なのも巷に溢れるドイツ勢に食傷気味な買い手にとっては大いなる魅力と映るはずだ。事実、かつてはごく限られたコニサー(目利き)にしか売れなかったが、マセラティ・ジャパンは去年、ラインナップ全体で1500台近くもの登録を達成したと言うから驚きだ。

黒の革に赤のステッチ。ただ大人しいだけのサルーンではない。
黒の革に赤のステッチ。ただ大人しいだけのサルーンではない。
 
端正
フォルスクワーゲン・ゴルフ・トゥーランTSIハイライン/376.9万円

ゴルフ・ベースの3列7シーター。フルチェンジは実に11年振りで、ようやく2代目に移行した。かようにヨーロッパ車は「息」が長く、その分、ユーザーはモデルの熟成とリセールバリューの高さを享受することができる。日本車ならとっくに2度や3度は衣替えしているところだ。いわゆる“ミニバン”だが、日本のそれと大きく違うのはあらずもがなのギミック(小道具)を凝らして顧客に媚びるようなことがなく、隅から隅まで見事な合理主義で貫かれていること。余計なものはない代わりに、最大の目的である、7人が快適に移動するための空間づくりにすべてが捧げられている。

スッキリ、ハッキリ、アッサリのトゥーラン。絵に描いたような整然さ。
スッキリ、ハッキリ、アッサリのトゥーラン。絵に描いたような整然さ。

一見、旧型と大差ないように見えるスタイリングがまさしくそれだ。この種のクルマとしては小振りな全長4535×全幅1830×全高1640ないし1660mmのサイズで最大限の室内寸法を得ようとすればいきおい四角いカタチにならざるを得ないが、そのこと自体がそれを是とするファンにとってはいかにもID的(工業デザインの意だが、もはや死語かも)でカッコよく見えることだろう。シートもデレデレせずに、とかく補助的な扱いを受けがちな最後列までキチンと造り込まれ、端的に言ってすこぶる気持ちがいい。強いて言えば、クルマの性格からして多くは期待しないものの、スペースユーテリティの高さに比べるとその走りっぷりは凡庸だ。

ファミリーのための後席。2列目左のフープはオプションの“インテグレーテッドチャイルドシート”。
ファミリーのための後席。2列目左のフープはオプションの“インテグレーテッドチャイルドシート”。
 
実直
フォルクスワーゲン・パサートTSIハイライン/414万円

リムジン並みに長大な後席足許の余裕とあらゆる乗用車の中でも最大級のトランクルーム容量。フォルクスワーゲン=国民車すなわち小型車のイメージからか、ミドルクラスのパサートは日本でこそいまひとつ存在感が薄いが、歴代のパサートが評価され、それゆえに同社の中でもゴルフとともに1、2を争う世界的な量販モデルとなってきた魅力の源泉がそれである。

その美点を支えるのがゲルマン流の徹底した合理主義。広くクリーンな室内は清々しく、その割に1460kgと今時のクルマにしては軽めな車重が功を奏してか、トゥーランのそれと全く同じ、僅か1.4ℓのガソリン直4ターボにツインクラッチ式7段自動変速機と同じギアリング、同じサイズのタイアを組み合わせたパワートレーンながら別物のように軽快な足取りを特徴とする。ブランドイメージに惑わされない賢明な買い手には同種の輸入車より確実に1〜2割は安い価格も手伝って好個な一台となるに違いない。

全長4785×全幅1830×全高1470mmのパサート。この「アンプルな」ボディをターボ付きながら僅か1.4ℓのエンジンが引っ張り上げる。
全長4785×全幅1830×全高1470mmのパサート。この「アンプルな」ボディをターボ付きながら僅か1.4ℓのエンジンが引っ張り上げる。
メルセデスのSクラスやBMWの7シリーズにも匹敵する後席のゆとり。親戚筋のアウディA4は前身の“80”以来エンジン縦置きのFWD/4WDだが、こちらは初代から終始横置きのFWD。
メルセデスのSクラスやBMWの7シリーズにも匹敵する後席のゆとり。親戚筋のアウディA4は前身の“80”以来エンジン縦置きのFWD/4WDだが、こちらは初代から終始横置きのFWD。
 
革新
レンジローバー・イヴォークHSEダイナミック/687万円

インドのタタ財閥に救済され、豊富な資金を得てからのジャガー・ランドローバー・グループを見ているとまるで1980年代にロンドンの金融街、“シティ”で巻き起こった「ビッグバン」を彷彿させるものがある。イギリスと言えばともすると伝統や格式に縛られた古臭いイメージが付き纏いがちだが、それだけに一旦変わるとなるとむしろ周囲の予想を超えたドラスティックな変化を遂げることが多いのは、かのビートルズ以降世界中を席巻したブリティッシュロックが良い例だ。

ノーブルなラインを御家芸としていたジャガー各車が一転してアヴァンギャルドな造形に転じたのは周知のとおりだが、このイヴォークが登場した時も正直言って驚いた。もともとはヘビーなオフロード車だったランドローバーから優雅なレンジローバーが派生され、さらにSUV全盛の今、もはや荒れ地とは似ても似つかぬアーバンクーペが生み出されたのである。デビューは2011年とさほど新しくはないが、2014年にはドイツZF製の9段オートマチックに換装され、アップデートには余念がない。乗ってみると、まさに伝統と変革のミクスチャー。外観はサイボーグさながらだが、インテリアは意外に保守的で、ややこってりした色合いと形状の“オクスフォード”レザーシートや濃いめのウッドフェイシア(木目の計器版表面)などにジョンブル好みが表われている。

既製の枠から飛び出して自ら新規の需要をevoke(喚起)したEvoque。関係の深い『VOGUE』誌にも掛けた造語だ。
既製の枠から飛び出して自ら新規の需要をevoke(喚起)したEvoque。関係の深い『VOGUE』誌にも掛けた造語だ。
王朝風のインテリア。
王朝風のインテリア。
 
痛快
プジョー208GTi by Peugeot Sport/368.66万円

見掛けはそんじょそこらのハッチバック小型大衆車と大差ないのに、いざ走らせると大違い。その気になれば絶対的にも下手なスポーツカー顔負けの速さを披露するし、なかでも曲がりくねった峠道は大得意。持ち前の「軽さ」と「曲がりやすさ」を武器にそれらに後塵を浴びせるのも可能だ。ボクが個人的にも大好きなのがこの“ホットハッチ”のジャンルだが、どうしたことか本来道路事情からそれが最も相応しい国のひとつである日本ではあまり育たず、1970年代にフォルクスワーゲン・ゴルフGTIとルノー5アルピーヌが先鞭をつけて以来、もっぱらヨーロッパ車の独壇場となっている。近年は特にルノーとプジョーのフランス勢が熱心だ。

208GTiは1980年代に登場し、それをベースとした競技車両がWRC(世界ラリー選手権)で大暴れしたことでも有名な205GTI(当時は大文字の“アイ”)の再来と言っていいクルマ。全長4mを切る(3975mm)小兵でありながらその鼻先にノーマルモデルの倍近い208PSの1.6ℓ直4ターボエンジンを詰め込み、今時珍しい完全マニュアルのクロースレシオ(ギア比が互いに接近→思いどおりのパワーを引き出せる)/ローギアリング(加速重視型→100km/h巡航時でも2500rpmでブンブン回ってる)の6段ギアボックスを介して縦横無尽に駆け巡るのが韋駄天小僧さながら。走り屋にとっては無上の歓びとなるはずだ。

“アイス・シルバー”の表面がザラついているのが分かるだろうか?
“アイス・シルバー”の表面がザラついているのが分かるだろうか?

サブネームの“バイ・プジョー・スポール”は、そのGTi(322万円)を元に同社のモータースポーツ部門がより一層「硬派」に仕立てたスペシャルバージョンであることを意味する。ひと回り大径なタイアによる絶大なロードグリップと適度な突き上げでスポーツムードいや増しの乗り心地、ガツンと効くブレンボ製ブレーキ、そして身体をタイトに包み込む本格的なバケットシートの、それらひとつひとつにゴマカシがなく、実に気持ちがいい。試乗車のボディカラーがまた変わっていた。“アイス・シルバー”(プラス12万円のオプション)なるこのペイント、新開発の“テクスチャー塗装”とのことで、なんとなんと、手で触ってみるとまるで鳥肌が立ったように荒い粒子が一面で泡立ち、光の加減で銀にも黒にも見える微妙な色合いとともに摩訶不思議な魅力を湛えているのだった。

“PEUGEOT SPORT”のロゴも誇らしげなバケットシートと赤いノブが付いたシフトレバー。
“PEUGEOT SPORT”のロゴも誇らしげなバケットシートと赤いノブが付いたシフトレバー。
 
悠然
キャデラック・エスカレード・プラチナム/1249万円

アメリカンラクシュリーを一世紀以上に亘って自ら体現してきたキャデラック。その頂点に立つフルサイズSUV、エスカレードが去年モデルチェンジした時、思わずオッと声を上げたものだ。全長5195×全幅2065×全高1910mmに及ぶ圧巻のサイズは1960年代の全盛期を想わすに充分だし、フルLEDの放列を縦に並べ、新しい造形美を創り出したヘッドライトシステムはキャデラックが唱える“アート&サイエンス”のデザインフィロソフィーそのものと言える。試乗車はシリーズの中でも最高の“プラチナム”グレード。馬車みたいな22インチの超大径ホイールとドアの開閉に伴って乗降用のステップが奥からヌッと自動で現われることでもそれと分かる。久々に「眩いアメリカ」を見る思いである。

しかし、一旦乗り込んで走り出すとすべてはアメリカ人が長年慣れ親しんできた「大陸風味」に仕上がっているのが分かる。なまじな繊細さよりも力こそが信に足るとでも言いたげだ。6.3ℓ426PSの大排気量V8は2650kgの車重もものかは、低い音でドロドロと加速し、100km/hに達するとたったの1500rpmでユルユルと回るだけ。新設計の割にボディは若干のブルブル、足回りは多少のバタつきが看て取れるが、そもそも路上を走る乗り物が全くの無音である必要がないと思っているに違いない。それを含めてのアメリカ車なのだ。

この巨きさを見よ。左ハンドルしか用意されないのも“ガイシャ”ユーザーの心をくすぐるに違いない。
この巨きさを見よ。左ハンドルしか用意されないのも“ガイシャ”ユーザーの心をくすぐるに違いない。
余裕の3列7人乗り。最後列は右隅のスイッチひとつで立てたり倒したりできる。
余裕の3列7人乗り。最後列は右隅のスイッチひとつで立てたり倒したりできる。
 
融合
ジープ・レネゲード・リミテッド/318.6万円

ダイムラーと別れてバツイチになったクライスラーがフィアットと再婚して生まれたイタロ-アメリカンの混血児。名前を変えただけの「連れ子」はすでに存在したが、実質的な第一子である。実は同時に生まれた双子の兄弟がいて、そちらは“フィアット500X”を名乗り、スタイリングもガラリと異なるのだが、イタリアではその両者を生産する。

このレネゲード、試乗したのは前輪駆動(エンジン横置きFWD)の“リミテッド”だったが、親の仲が巧く行っているせいか、タフなオフロード車から身を興したジープとしてはベストエバーな「乗用車」と言えそうだ。四角いジープ特有の出立ちの中に、明るくポップなイタリアンテイストを盛り込み、カジュアルな小型SUVづくりに成功したのだ。ジープ伝統の4WDモデルは同トレイルホークと呼ばれ、2.3ℓNA(自然吸気)4気筒175PSを積み、361.8万円で提供される。

ジープの末弟らしく、全長4.255mと可愛らしい。伝統のグリルパターンが室内の小物にも反復利用されている。
ジープの末弟らしく、全長4.255mと可愛らしい。伝統のグリルパターンが室内の小物にも反復利用されている。

2ℓターボ付き4気筒140PSによる走りっぷりは悪くないものの、一言で言えばごく標準的。だが、それよりなにより好感が持てるのは室内が開放感に溢れていること。ウインドスクリーン(フロントガラス)が比較的直立していて目の前が息苦しくなく、さらに前後2枚のガラスサンルーフ(オプション)が部屋全体を広く大きく見せている。かつて散見された雑な作りは影をひそめ、上々のフィニッシュとセンスの良さを見せる。シナジー効果が表われている証拠と言えるだろう。

ウインドスクリーンが立っているからサンルーフ開口部のスターティングポイントも前寄りで見晴らしがいい。
ウインドスクリーンが立っているからサンルーフ開口部のスターティングポイントも前寄りで見晴らしがいい。
 
歓喜
BMW 118i Style/344万円

「エンジンのBMW」と「フロイデ・アム・ファーレン=駆け抜ける歓び」。どちらもすでに言い古された言葉だが、今回、それを承知の上で再び言わざるを得なかったのが同社ラインナップの底辺を担うこのクルマだ。

メーカーが“新世代モジュラーエンジン”と称する3気筒ターボが出色の出来で、このクラス唯一無二の後輪駆動によるダイナミックバランスの良さや自然さと相俟って、突き詰めれば突き詰めるほど湧き起こるドライビングの歓びはやはりBMWならではとオーナーは密かな満足感に浸ることだろう。

その3気筒だが、普段は日本の軽自動車のそれと何ら選ぶところのないポコポコというだけの無味乾燥な音に終始し、いわば猫を被ったも同然だが、一旦鞭を入れ始めるとたちまち豹変、到底3気筒とは思えない粒の揃った快音に変化し、6500rpmのリミットまでスムーズかつ軽快な足取りで吹け上がる。136PSのパワーと220Nmのトルクそのものは限られているから、絶対的な速さ自体は大したことがないが、その間のプロセスがすこぶる気持ちいいのである。

どちらかと言うと一般的には安っぽいイメージに支配されがちな3気筒だが、この場合は同社が誇りとするあの“ストレートシックス”、すなわち直列6気筒の雰囲気に近いと言ったら言い過ぎか? 3=6の半分、でないことは理解しつつも。

“新世代モジュラーエンジン”で初めて「縦に」置かれた3気筒。もちろん、この場合は後輪を駆動するためだ。電動パワーステアリングは軽いが、フィールはしっとりと充分。
“新世代モジュラーエンジン”で初めて「縦に」置かれた3気筒。もちろん、この場合は後輪を駆動するためだ。電動パワーステアリングは軽いが、フィールはしっとりと充分。