光隠居とミヤビちゃんのちょっと聞けない日本の雅 -日本の常識 - ~その21 腐草生蛍(においくさほたるをしょうず)~

(2010.07.13)

月桜町の真ん中、光翁の書斎 では、光翁の衝撃的な話に、ミヤビは目を真ん丸にして
いる。

ミヤビ どんな理由があるっていうのよ! あんな可愛い生き物を食べちゃうなんて、信じられないわ! 動物虐待よ! 酷い! 

 まあ~よく聞きなさい。

ミヤビ ええ! お聞きしましょう! 

 合鴨はそもそも家畜で、頂くために交配した鳥じゃ。謂わば、人工で創られた鳥と云う事になる。この鳥を自然に放したらどうなると思う? 自然界には鴨がいる。この鴨と交接してしまったら、自然の摂理を壊してしまう恐れがある。現に琵琶湖という日本で一番大きい湖では、自然界で存在しない様な鳥が獲られているんだよ。可愛そうだからと言って、大きくなって自然に放してしまったら、大変なことになってしまうんだ。だからと言って、大きくなった合鴨を殺して捨てるのは生き物を大切にしたことにならない。それに、合鴨はお肉としてちゃんと売れるんだよ。

ミヤビ そうか~・・・。この間の牛の一件も、あたし不思議に思ってたの。

 寧ろ、大きくなったらそれをお肉にして頂くほうが、命を大切にすることになるんじゃないかな。

ミヤビ なるほどね。

 農薬を使わない農業は、とても大変な作業だけれど、頂く側の私達は形がよくて少しでも安い物を欲しいと考える。自然、農家は大変な経済状態になる。しかし、福田さん達のお仕事が合鴨に助けられ、それをお肉で売ることで、農薬を使わない農業を続けていける。続けていけば、この月桜町に色々な鳥や虫が季節季節に現れて、子ども達が危険なものを口にしないで済む。ミヤビには云うのを止めようか考えていたが、今のミヤビなら話してもよいと思う。実は福田さんの作物の肥料は人糞だ。ウンコだよ。

ミヤビ え~! ! ! ! ! 。

 化学肥料ではない人糞を使えば、人から出たものだから薬品に汚染されていない。福田さんは、風邪薬を飲まれた時などの糞は、そこに入れないそうだ。糞は田圃や畑の養分に成り、その養分を力に作物が大きくなる。もちろん雑草もその養分を力に生えるが、それは合鴨が食べてくれる。その合鴨を我々人間が頂く。そして糞をする……。生命を中心に輪が出来上がるんだ。

ミヤビ 本当だね~。安全な食べ物を頂けば、輪が出来上がるんだね。

 お前さんは偶にびっくりする様な事を云うね。その通りなんだ。食べ物だけじゃなくて安全な物を作っていれば、それは自然の中で大きな輪になって戻ってくるんだよ。ミヤビが住んでいるこの町は、農家の人達に守られているんだね。

ミヤビ 田植えの日、泥はお肌に良いってアイちゃんに云われて顔に塗っちゃったけど、あれはどう輪になって行くのかしら……。

 ……。

初夏の夕日が落ちかけた頃、光翁の庭の池影に仄かに光る虫が居た。
 

つづく