土屋孝元のお洒落奇譚。竹は温故知新なり。

(2010.09.30)

竹について。竹は古くから 日本人の生活に多用されてきました。

©Takayoshi Tsuchiya

僕の竹との一番の思い出は、子供の頃、昆虫採集に熱中した時期があり、小学5年か6年から中学2年ぐらいまででしたか、当時としては本格的な捕虫網を持って房総の鋸山から長野の美ヶ原まで昆虫採集に出かけていたのですが、その捕虫網をもっと良くしようとして、両親にお願いして近くにあった和竿屋さんに軸の部分を5段継ぎ(竹の軸が長い方が蝶を取りやすいのです。)の竿に改良してもらったのです。

昔の東京世田谷烏山には和竿屋さんがありました。
そんなに高くはなかったと思いますが……。これも記憶なので定かでは ありません。今、思うと和竿用の竹ですから、きちんと寝かせ乾燥させた素材を使い、軸の歪みをとり、継ぎ手部分の軸には補強のため、糸を巻き漆で化粧を施した 素晴らしいモノだったのですが、その時は、まったく気がつかず、昆虫採集に明け暮れた日々でした。今、思えば子供の頃から素晴しい竹は近くにあったのだなと。

©Takayoshi Tsuchiya

もとい、茶の世界では、利休が作った竹花入れや遠州作の竹花入れ、(竹花入れは一重切り、尺八、二重切り、輪無二重切りと作られるようになった。)茶杓をはじめ、各時代の茶人達がそれぞれに茶杓を作り、代々受け継がれて来たものもあります。料理の器にも、竹の箸としても、茶室の天井や窓の格子、水屋の簀の子(すのこ)、庭の蹲(つくばい)、鹿威し(ししおどし)、菓子切り、有名なものでは桂離宮の観月台は竹の簀の子作りです。

生活道具では、竹製の籠(かご)や台所道具の数々、提灯や団扇、楽器では、尺八、笙(しょう)笛、あげればキリがないほどです。

この竹ですが、里山の中に自然に生えてくるので、上手く使わないと大変やっかいなことになるようです。
毎年春には筍を取り、古い竹は伐採して風通しを良くして里山の環境を健康的にしてあげないと雑木や落葉広葉樹達が上手く育たず、竹だけが元気の良い、人も入れないくらいの荒れた里山になってしまいます。先日も栃木の茂木近くで そんな里山を見かけました。

里山の自然を上手に残すためには 人間が手を入れてあげないと いけないのかもしれません。最近では竹製のフローリングなども よく見かけます、
たしか、ミッドタウンのフローリングも竹でした。
もっと使い道はたくさん あると思うのですが……。

デザインの先輩でもあり、茶の兄弟子、佐村憲一さんは竹を使い、水差しや、薄茶器、花入れ、装飾品(バングルや、指輪、ペンダント。)などを制作しています。

その佐村さんから伺った話ですが、今は全国的にも古民家の解体が進み、昔、天井裏や囲炉裏の自在鈎(じざいかぎ)に使われた煤竹などが出にくくなっているようです。竹の表面にできる染みや模様の綺麗なモノ(茶人は景色と呼び、珍重しています。)がなくなってきて、ましてや煤竹の年代物などになると本当に手に入らないと。そこで佐村さんは、海外へ出かけては、竹の収集をしているということでした。

まだまだ東南アジアや中国まで出かければ、何とか手に入れやすいのかもしれません。

茶杓と茶碗、茶筅、茶巾を仕込んだところです。茶碗の作者は安倍宏さん。
自作の茶杓と筒です。

佐村さんの作品について、何点か、自分が好きなものをご紹介いたします。
平らに変形した竹(12cm幅ぐらいで高さは5cm弱の平らな竹)を長さ25cmぐらいに切り取り、その平らな表面に穴を開け、落し(落しとは、活ける素材や容器に直接花を活けられない時に、水をはり花を支える容器のことです。)になるような2cm四方の銀製の容器を組込み、花入れとして使う。(もちろん、景色は申し分のないものです。)

竹の地中に生えた地下茎の丸い根の部分を利用して花入れにしたモノ、大きな孟宗竹(直径は25cmにもなろうかという様なモノ)の株元をそのまま使い水差しにして、なかに拭き漆を塗り、防水して塗りの蓋をあつらえたモノ、まだまだあるのですが これくらいにして、お茶での竹本来の話をします。

茶杓について、茶人の刀と言われ 茶人がもっとも大切にする道具の一つです。僕も師匠に煤竹を頂き、自分で削ってみたりしていますが、なかなか難しいのです。ある時、これは上手く出来たなあと思い、仕上げ削りに入ると、だんだんと茶杓が細くなっていくのです。自分なりにここを直して、またあちらとやっていくうちにそうなりますね。

本当に茶の道は奥深い。現存する利休作や遠州作などは美術館もので 手にすることは ほとんどできません。茶杓にはそれぞれ名(めい)があり、制作した茶人が付けたもの、それを受け継いだ茶人が箱書きを書いたものなどいろいな場合があります。

利休茶杓『天正二年春』、遠州作『くせ舞』などは名茶杓と言われています。

天下の名物は自分の目で見て、自分に合う茶杓を探すのも、また、一興かと。

©Takayoshi Tsuchiya