岡部朋子のくつろぎマタニティヨガ妊娠期間の腰痛を“仕方ない”で終わらせないために。

(2011.01.14)

安定期(約15週目~)に入ると、ほとんどの妊婦さんが身体をどんどん動かすよう言われます。でも、動きたいけどお腹の膨らみが気になってどこまで身体を動かしたらいいかわからない、という声が聞こえてきます。また、「腰が痛くて運動どころではないのですが……」という方もいるようです。

まず、腰痛は妊婦さんの宿命です。
というのも、おなかが大きくなってくるにつれ、身体の重心が前に移ってきています。バランスを取ろうと歩く姿勢や立つ姿勢がどうしても反り気味になるため、背中や腰の筋肉に大きな負担がかかってきます。
また、もう一つ大きな原因があります。妊娠中は胎盤から分泌されるホルモンの影響で骨盤の関節や靭帯がゆるんでしまうのです。こうなるとおなかを支えるため、より大きな負担が腰の筋肉にかからざるを得ません。

実際、腰痛そのものが出産に悪影響を及ぼすということはありませんし、出産後は治ってしまうことがほとんどだと言われているため、不調を訴えても「仕方ありませんね」「あまり心配しすぎなくて大丈夫ですよ」と言われてしまうことが多いのですが、妊婦さんにとって毎日をストレスなく過ごすにはこれは死活問題。腰の痛みそのものが、ただでさえ大きなストレスなはず。「誰かなんとかしてー!」という叫びが聞こえてきます。

一般的な対処法としては、腰から背中、太腿にかけて身体を支える筋肉を鍛える、日常生活の中で腰に負担が掛からない姿勢を心掛ける、痛みのあるときにはリラックスして痛みを上手にかわすようにする、などと言われていますが、「だからそこのところをもっと詳しく……」という声に今回はお応えできればと思います。

 

まず、イスの上手な使い方を覚えましょう。

お腹が大きくなると、立っているだけでもしんどかったり、貧血で立ちくらみがしたり、すぐに座りたくなったり、ヨガをやるにしても立っているところから床に座るまでの過程で足もとがおぼつかなかったりします。立ったり座ったりの動きは、妊娠をしてお腹が大きくなると避けがちになります。昔は畳の生活だったので、この動きは日常的でしたが、イスと机の生活に慣れ親しんだ我々世代は、省略しようと思えば省略できる動作の一つです。
しかし、この立ったり座ったりの動きは、妊娠後期、そして出産後の明暗を分けるのです。
この動きができなくなると、相当お腹が大きくなってから、そして出産後、自力で立ったり座ったりが、しんどくなってきます。いわば、お年寄りが寝たきりになるかならないかと同じようなものです。
イスを上手に利用することで、しんどい時は背もたれにつかまり、立ちくらみがしたら座ったり、床に座り、床から立ち上がるときもイスに掴まって行き来することができます。何かにつかまってでも立ったり座ったりができていれば、その動作に必要な筋肉は維持できています。

これから紹介するヨガのポーズに限らず、イスを上手に利用して日常生活を安全に、アクティブに送りましょう。

 

「キャット&カウ」のストレッチで
腰痛に負けない背中に。

イスに普通に腰掛けます。脚の幅は骨盤よりやや広め。膝を軽く曲げます。両足先を平行に並べます(つま先が外を向かないように)。脚幅を狭くしすぎるとお腹がつかえてしまいます。赤ちゃん一人分の思いやり、ちょっと広めにとりましょう。 

そこから気持ちよく息を吸いながら気持ち背骨をゆっくり反らすつもりで、胸を天井に向けます。(写真上・牛のポーズ)
 

今度は息を吐き出しながら背骨を丸めるつもりでおへそを見るようにします。(写真下・猫のポーズ)
このとき、肩はすくめず、リラックスしましょう。もし肩に力が入ってしまうようであれば、いったん両肩をすくめて、そのまま後
ろにひいて、ストン、と落とします。
さあ、気を取り直してもう一度最初から。
 

実際猫のポーズの時はおへそを見られるほど背中は曲がりませんが、いつも反ってしんどい背中にやさしく逆刺激を与えるつもりで繰り返してみましょう。
身体を温めながら腰回りだけでなく、腿の筋肉も強化でき、日常動作が楽になります。このポーズを気持ち良く続けるためのポイントはなんといっても呼吸です。

呼吸に合わせてゆっくり空を(天井を)見上げ、お腹の赤ちゃんにごあいさつです。お母さんが骨盤を前に傾け、後ろに傾けることで、お腹の赤ちゃんはまるでゆりかごの中でゆーらゆら。お母さんにとっても赤ちゃんにとってもいいこと尽くめのポーズなのです。

体が暖まってきました。外出する前にも良さそうです。
もう一つのご褒美ポーズ、「椅子につかまった犬のポーズ」をご紹介しますね。

ヨガというと手足を床についてお尻を高く持ち上げた「下向きの犬のポーズ」をイメージされる方も少なくないと思います。ヨガではこのポーズほど奥深く、そして万能なポーズはないと言われていますが、妊婦さんが行うにはやや身体の上下動が多すぎ、転倒の不安もあります。そこで、このポーズを、イスを使って妊婦さん向けにアレンジしたものをご紹介します。

 

自宅で行うときは安全のためにイスを壁につくようにおきます。あるいはヨガマットの上にイスを置いてもすべりにくくなります。

脚はお尻よりやや広めに立ちます。再び、赤ちゃん一人分の思いやりですね。
腕を肩の高さまで上げ、手は大きく開きます。
イスの背もたれをしっかりとつかみます。そこから、肩をゆっくりイスの背もたれと同じ高さに降ろすよう、膝を曲げながらゆっくり脚を後ろに運びます。二の腕が耳の横に来たところで歩みを止めます。ちょうど頭の先、手首から肩、お尻の先にかけて一直線になっている状態です。
背骨が気持ちよく伸び、足首がお尻の下あたりに来るよう、脚の幅を調整します。

 
写真の田代さん、とてもきれいです! つま先がちゃんと平行になっているし、膝も軽く曲がっている、背骨が気持ち良さそうにストレッチされていて、呼吸もとても深いです。

 

妊婦さんにとって、背中と脇腹が伸びるのはいいこと尽くめ。

背中が気持ちよくストレッチされると重力の力で腰の辺りの負担がやわらぎます。また、前回の“お正月の食べ過ぎをすっきり”のコーナーでも書きましたが、ここで脇腹がしっかりストレッチされることで、消化の促進、深い呼吸、そしてイライラの解消にもつながります。
このポーズで気をつけるのは、背中が丸まらないようにすること、そして反りすぎないようにすることです。膝は軽く曲げておきながらも、手首から背中、腰にかけては極力一直線を目指しましょう。そうすることで、大きくなってくるお腹を支える腰の力もついてきます。自分と赤ちゃんの体重を利用した、プチ筋トレですね。

ヨガのいいところは、自分の体重を利用してトレーニングができるところです。お腹が大きくなっても身体への負担を最小限に生活するには、自分自身の身体の重みと赤ちゃんさえ支えられれば十分なんです。ですから、70kgの妊婦さんと50kgの妊婦さんでは必要な筋力が自ずと異なってきます。大切なのは、70kgの妊婦さんは70kgの身体を支える筋力を、50kgの妊婦さんは50kgを支える筋力をつけていくことです。それには自分の身体の重みを利用して体力をつけていくのが最も効果的かつ安全です。

息を吐きながら背中を伸ばし、お母さんの腰の負担が和らいでいるとき、赤ちゃんはお腹の中でハンモック。羊水の中にプカプカ浮かんで気持ち良くしているのをイメージしてみましょう。このポーズで脇腹が伸ばされることで、呼吸も自ずと深くなってきます。
私自身も臨月でもういよいよ身体を動かすのが辛い、というときもこのポーズだけは機会あるごとにやっていました。気持ちよかったのはお風呂上がり。お風呂のふちに手を当てて、のびのび~、と。胎動がある方は、静かに眼を閉じると赤ちゃんが動いているのをとても穏やかな気持ちで感じられますよ。

 

私、上手にリラックスできているでしょうか。
ポーズが気持ち良くできているかの目安をお教えしますね。
それは、身体を動かしながら、まぶたが閉じてくるかどうかです。本当に気持ちよくなってくると、人はまぶたを閉じるのです。この二つの動きをしながら、自分のまぶたが閉じてくるかどうか自分を観察してみて下さい。息を吐きながら、眼が綴じるようであれば、十分リラックス上手です。

何回ぐらい行えばいいのでしょう?

このポーズは、吸う息よりも吐く息が少しだけ長くなるように呼吸することを意識しながら(できれば、鼻で吸って鼻で吐きましょう。難しければ鼻で吸って口でもOKです)
吸って吐いてを4回ぐらいでしょうか。一日のうち、気がついたら何回やってもいいですよ。

たった2つのポーズですが、これらを気がついたときに行うだけで腰痛を緩和する筋肉はずいぶん強化され、またほぐされます。それからあと2つの問い、日常生活の中で腰に負担が掛からない姿勢を心掛けたり、痛みのあるときにはリラックスして痛みを上手にかわすようにしましょう、についてですが、どんなにいい姿勢でも同じ姿勢を長時間とり続けるのは身体への負担になります。お腹が大きくなってくるとどうしても億劫になり、同じ姿勢をとりがちですが、いい意味で落ち着きなく、ちょこちょこと姿勢を変えたり、思い切って立ち上がって背もたれにつかまって背中を伸ばしたりしましょう。また、痛みを和らげるにはなんと言っても呼吸が一番。そのためには、黙っていても深い呼吸ができる身体作りに励むことが大切。勘のいい皆さんはわかってきましたね。キャット&カウのポーズで腰回りをほぐしたり、椅子につかまった犬のポーズで脇腹を伸ばすことで、深い呼吸をするための呼吸筋も一緒にほぐされていきます。呼吸が浅いとどうしても同じ痛みでも強く長く感じてしまうのです。

身体を休めるだけでなく、このように身体を軽く動かすだけでもリラックスができるんですね。

 
 
次回は「産休に入る前に。出産前のマタニティ・ブルーを予防する」をお送りします。
 
  
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