土屋孝元のお洒落奇譚。 駆け足で春到来。様々な花の香りも漂います。香りについて。

(2014.04.21)
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阿蘭陀鳥香合、デルフト焼きの写しの香合です、可愛い形の香合です。内田鋼一作。©Takayoshi Tsuchiya

「炭手前」を少々。

染井吉野(ソメイヨシノ)の桜が咲き、あっという間に満開になり、葉桜に。沈丁花の花の香りも漂い、木蓮が咲き、辛夷(コブシ)が咲き、桃の花が香り、灯台躑躅(ドウダンツツジ)も一斉に花をつけ、水仙の花もやっと花が咲き、遅れていたヒヤシンスにも花が咲き香り、木々も一斉に芽吹き始め、例年になく寒い冬の後 駆け足で春はやってきました。

以前に お茶室での練香の話を少しだけさせていただきましたが、もう一度簡単に、お茶では「炭手前」というお点前があり 火を付け湯を沸かし 香合の拝見などがあります、この「炭手前」がない場合にはあらかじめ 茶室床の間に釜敷きという紙の上に香合を飾るのですね。お作法では練香は3個香合に入れておき、炉には2個入れて香合拝見用に一つ残します、拝見の時に香銘を答えたり、何処製の香かも答えたりなど亭主と正客で問答します。

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例えば こんな具合です。

正客「たいへん良い香りですがご香銘は?」
亭主「玄妙でございます。」
正客「お製は、」
亭主「山田松香木店です。」

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この時に使う香に練香と香木の違いがあるのです、炉の時期には練香を使うことが多くこれは決まりではなくて亭主の好みやその趣向によります、風炉の時期には香木を使うことが多いのです。

この違いとは一般的には、香合という香を入れる道具の違いによるものです。炉の時には陶器、磁器、塗物などが多く椿の葉を一枚入れて、その上に練香を乗せます。風炉の時には木地や竹が多く直接置くので乾いた香木を使うことが多いのです。練香は自分でも作ることができ  製法はいろいろとあるのですが 比較的簡単な方法を、自分が好きな香りの香を粉末にして、これはお線香でも可です。紙に包み木槌か文鎮とか硬いもので粉にし それに炭の粉をほんの少し混ぜて のり(ごはんから作った糊)で固めて丸めるのです、簡単そうに聞こえますが、実際にやると意外に難しいものです。

僕は自宅のお仏壇用に伽羅入線香を使うので線香立ての中に燃え残ります、その扱いに困りこの方法を考えました、ほかには手紙の中に入れる文香代わりにも使います。文香とは手紙に入れて使う香袋のことです、『鳩居堂』や『山田松香木店』、『香十』、他にもあると思いますが必ず置いてあるのはこのお店なので、いろいろな種類の文香があり、お花の形や折り紙の鶴、自分で作るには 形はこだわらず、ちいさい形に和紙で包み、中に香を入れたら文香かわりになります。

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獣頭香炉、架空の動物の頭を模した香合です、不思議な形の香炉です。三原研作。©Takayoshi Tsuchiya

『ラルフ・ローレン』のカサブランカ
『サンタ・マリア・ノベッラ』のルッサ。

マルセル・プルーストの『失われた時を求めて』ではないのですが、人により香りと記憶の関係性はそれぞれ違うらしく、ある人が印象深いと感じてもそれほどでもないと思ったり、またその反対に気にも停めない些細なことで記憶に残ることもあります。香りとは不思議なものですね、昔から好きな香りはカサブランカの花の香りです、この百合の花の香りはすこし強いので好き嫌いが別れるのですが、僕は好みですね。

海外へ行くと、『ラルフ・ローレン』の店には必ずこのお花、カサブランカが生けてあり、香りのブランディングでしょうか、アイデンティティを感じます。カサブランカはブルース・ウェーバーが撮る広告写真にも必ずと言っていいほど登場しています。

もう一つ好きな香りがあります『サンタ・マリア・ノヴェッラ』のルシアンコロン、ルッサとイタリア語では表記されている香り。フィレンツェにある修道院『サンタ・マリア・ノヴェッラ』が昔ながらの製法で作るオリジナル商品群の中のひとつです。『サンタ・マリア・ノヴェッラ』は世界最古の薬局と言われていて このルッサは、その昔ロシアの貴族のために調合されたとか、されないとか。旅行に出る時にはこの香りのコロンと石鹸を持っていきます。なぜか、落ち着く香りなのです。

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『サンタ・マリア・ノヴェッラ』のルッサ、いろいろある『サンタ・マリア・ノヴェッラ』のコロンの中でもこれが一番だと思います。©Takayoshi Tsuchiya

もうひとつ 同じような使い方をするものに 「塗香入れ」があります、気に入った香を入れておく黒檀などで作られた道具で 本来はお経を上げる前や写経などする時に身体に香を塗り邪気を払うためや清めるために使うものです。『鳩居堂』や『山田松香木店』で塗香といえばわかると思います。一時期は この塗香入れも必ず持参しましたが、いまは特別の時にしか持っていきません。

ある時にこの塗香入れに塗香をたっぷりと入れバックを持って出かけたら 何処からともなく塗香の香りが漂い出してきて、バックを調べたら中の塗香入れの塗香が全部出てしまい、中身が塗香まみれになっていたのです。

黒檀製のネジ式の蓋が何かの拍子で開いていたのですね、完全に密閉する蓋ではないのでそれ以来注意しています。塗香の香りはなかなか取れないので大変でした。過ぎたるは及ばざるが如しとは、このことですね。