道田宣和のさすてーなモビリティ vol. 8“i”がいっぱいの、
BMW(私的)大運動会 〜その2 〜

(2013.06.27)

ゲルマンとラテンのベストミックス

♪ミュンヘン・サッポロ・ミルウォーキー、旨いビールの合い言葉……♪。大昔に流行ったTVコマーシャルである。ホント、小麦由来の香ばしいヴァイスビアとモッツァレラチーズに似た淡白なホワイトソーセージがあれば言うことなし。 このメーカーを訪れる度に立ち寄ったミュンヘン名所のマリエンプラッツでは、アルプスの向こうから差し込んでくる陽光に包まれて行きつけのオープンカフェが至福のひとときとなった。とにかく同じドイツでも寒くて暗い北とは大違いなのだ。


M1、M3、Z1、635CSi、325iカブリオレ、イセッタ、327、ディキシィ。 BMWスペシャルティの系譜を辿ったミニチュアセット。’90年初夏、バイエルン一帯を駆け巡った850i試乗会の記念品。

Bayerische Motoren Werke、略してBMWはそのプラペラマークが示すとおり当初は航空機用エンジンの会社として1916年にこの地でスタートした。ボクも一応第二外国語にドイツ語を選んだ者として若い頃は「ベーエムヴェー」とむりやり唇を噛んだりして意気がったものだが、その頃世間ではまだ馴染みが薄く、母親などはどこでどう間違えたか「ベンベ」がせいぜいだった。その後メーカーの人間に直接確かめたところ、どうやら「ベーエムヴィ」というのが本当らしい。そのへんの事情も勘案したのだろう、日本法人は「ビー・エム・ダブリュー株式会社」と端から英語読みにしている。もっともボクなんかはダイハツが「(大阪)発動機製造」に由来するなら、BMWこと「バイエルン発動機製作所」はさしずめ“バイハツ”でいいんじゃないかと与太を飛ばしている。

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ついでに言えば1945年からの僅か10年間だったが、旧東ドイツにはEMWなるメーカーが存在した。これは”Eisenacher Motoren Werke” のフルネームから推察されるとおりBMWの旧アイゼナハ工場が第二次大戦後、時の共産党政府によって接収・国有化されたもの。主として外貨獲得のために戦前型のBMWをそのまま作って輸出したり、レーシングカーの分野では一時期そこそこの成功を収めたりはしたが、結局それだけで終わった。

プレミアムブランド中のトップ

現在、BMWはメルセデス-ベンツ、アウディとともにドイツ製高級車の御三家として知られ、中でも乗用車単独(メルセデスには商用車もあるから)では一番のボリュームセラーだ。2012年は約30万台のMINIと5000台強のロールス・ロイスを含めたグループ全体で世界販売170万台を記録した。 そのせいかこのところ新車攻勢が活発で、豊富なラインナップがそっくり入れ替わっただけでなく新ジャンルの開拓にも積極的だ。だからと言うのもナンだが、プレス向け試乗会も頻繁で、ついついアップロードを先延ばしにしてきたツケが廻り、こんなに溜まってしまった。

ボクのお気に入り、1シリーズ

普段のアシは、特に都会で乗るなら小型のハッチバックに限るというのがボクの持論。小柄で背が低い(高くない)から、出先で立体式やパレット式の駐車場にありがちな入庫制限に煩わされないのがなにより有難い。さらに5ドアなら隣りにクルマがいてもドア幅が狭いため「アクロバット」を演じなくて済み、乗り降りが楽でなおいい。それでいてリアシートを畳めば軽トラック顔負けの荷物が収まるし、基本設計がセダンやクーペと同じだから走行性能は同じだけ愉しめる。ハッチバックが古くからヨーロッパで好まれ、定着してきた所以だ。

その意味で世界のベストセラー、フォルクスワーゲン・ゴルフは万人の認める優等生であり、誰もが一度は購入対象の有力候補として検討する。ボクもそうだった。しかし、哀しいかなマンション住まいで普段のアシもなにも、虎の子の1台しか選びようがないボクにはその「普段」を超えるプラスアルファが欲しかった。欲張りなのである。

ボクが求めるプラスアルファはドライビングプレジャーの一語に尽きる。クルマがますます電子化、自動化、ロボタイズされる中、ドライバーたる自分が依然として主体的に関わり、行為と結果がストレートに実感できるクルマがいい。要はリアルでダイレクトな「ときめき」があるかないかだ。

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その点で“Freude am Fahren(駆け抜ける歓び)”のコーポレートスローガンを掲げるBMWのクルマづくりはボクにも共感できるものだ。1973年の第1次オイルショック以降、燃費向上に繋がる軽量化とスペース効率の高さ、そしてコスト低減と派生車種展開の容易さを理由に内外の小型ハッチバック車が軒並み前輪駆動(FF)化されてきた中で、敢えて上級車と同じ後輪駆動(FR)方式に拘り、2004年に登場した1シリーズは確かに唯一無二の存在と言ってよい。自ら“ONE AND ONLY”を名乗って新規需要を掘り起こし、商業的にも成功して2011年、2代目へと切り替わった。

ボクはまた、人一倍トラクション(駆動力)性能を重視するドライバーでもあるのだが、前輪に操舵機能を、後輪に駆動機能を担わせたFRなら役割分担が明確で、その結果得られる正確で自然なステアリング(ハンドル)感覚と路面をしっかり掴んで加減速するトラクション感覚とがそれらを操る手と足に達成感と歓びを与えるのである。


袖ヶ浦のスターティンググリッド上で顔を揃えた新(左)・旧(右)1シリーズ。絶対的な速さではまるで勝負にならない。
小憎らしいまでの新型

というわけでボクにとってのONE AND ONLYも当面は1シリーズ。初代デビュー直後の2005年に買ってから都内での取材や所用はもちろん、IKEAなどでの嵩張る買い物にも、そしてそこへの往復自体が愉しみとなるプレス向け試乗会に至るまで(実際、箱根のダウンヒルは得意中の得意)、ついでに言えば最近は知らないうちに娘もよく使っているようだから、乗りも乗ったり、すでに8万kmを後にした。言わず語らずのうちに自ら満足しているなによりの証拠である。

ただし、欠点がふたつある。うちひとつは今どき特に看過できない代物。排気量が1.6ℓしかないのに都内ではたった6km/ℓ台の大食漢、高速道路でもごく穏やかな巡航でさえ12km/ℓ台に届くのがやっとの劣悪な燃費だ。しかも、ご多聞に漏れず輸入車はハイオク指定ときている。ここはひとつ財布のためにも環境のためにもなんとかして欲しいところだった。

もうひとつはパンクしてもしばらくはそのまま走ることができる“ランフラットタイア”の採用がこと乗り心地に関しては裏目に出ていることだ。タイア側面(サイドウォール)が大きく潰れてホイールが接地しないよう“ケーシング剛性”を高めてあるせいか、路面の凹凸に反応してゴツゴツと粗い感触を伝えてくるし、リアアクスル(後車軸)直前に坐らされる後席ではそれが一層顕著で、時折ポンポンと弾んで尻がクッションから浮くほどである。まことに“プレミアム”らしくない。

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ところが新型に乗って驚いた。場所は千葉県のサーキット、“袖ヶ浦フォレストレースウェイ”だったが、これら7年越しの課題が見事に払拭されているだけでなく、それ以外の点でも着実に、それも目覚ましい進歩を遂げているのだ。もはや1シリーズならぬ“1.5シリーズ”とでも呼びたい出来で、こうなると旧型オーナーとしてはかえって複雑な心境でもある。思わず、ズルイ!と叫びそうになった。

そもそもスポーツカーでもないのにサーキットでお披露目したあたりにも自信のほどが窺えようというもの。なにしろ新型は“116i”(308万円〜)のネーミングと1.6ℓの正味排気量こそ同じだが、今回ターボの装着で最高出力(ワッと吹け上がる力、と覚えて下さい)は一挙に11%増し、最大トルク(同じく、ジワジワと捩じ伏せるような力)に至っては実に38%もの増強を果たしているのだ。当然加速の鋭さは比べ物にならず、一緒に走ればウサギとカメである。

それでいてスロットル(アクセル)全開のサーキットランは別として一般路上での燃費がいいのも新世代ターボの特徴。1970年代に流行った“ドッカーンターボ”(意図に反していきなりガバッと効くことからこう揶揄された)と違い、電子制御で緻密なコントロールが可能な現代のターボは直噴式の燃料噴射やアイドリングストップ、エンジン負荷の少ない電動パワーステアリング、高効率な8段オートマチックトランスミッショなどとも相俟って、116iの場合24%もの劇的な燃費改善に成功した。

一方、路面が鏡のように滑らかなサーキットでの乗り心地はその分、好条件を割り引いて考える必要があるが、それにしてもショックがまるでなく、動きそのものもはるかに大きなクルマのように落ち着いていたのは事実である。クルマの新技術ではよくあることだが、ランフラットタイアもメーカーがようやくその扱いに習熟し、文字どおり履きこなせるようになったからだろう。

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……でもね、負け惜しみじゃないけどクロームやらLEDやら光り物がやたら目につくようになった新型のエクステリアやインテリアはいささか“lavish”に過ぎ、個人的にはちょっとねと思う。健康優良児みたいな「塊感」と視覚的重心が後ろ寄りでショートブーツみたいな1シリーズ独得のプロポーションが、新型ではいささか曖昧に見えるのはボクだけだろうか? 自作に満足しない代わりに滅多なことでは同僚のデザインも褒めないあの永島譲二さんが以前ミュンヘンでインタビューした際、「狙いは分かる」と旧型のそれに一定の評価を下していたのを思い出す。氏は知る人ぞ知る、BMWドイツ本社のチーフエクステリアデザイナーにしてクリエイティブディレクターなのである。

オッと、思い入れが強い分、我ながら長広舌に過ぎたようだ。ここから先はサラッと行きます。


折も折、7年振りに再会した永島さん。6月4日の3シリーズ“GT”発表会を機に来日、我々プレス相手に最近のBMWデザインについてレクチャーしてくれた。オペル、ルノーを経て1988年に入社、Z3や先々代5シリーズ、先代3シリーズなどのデザインを手掛けた。
怪力! X5ディーゼル

その昔オフロード(悪路踏破)性能の高さで定評のあった日産サファリと初代レンジローバーにそれぞれ1年ずつ乗り、さんざん雪道ドライブや泥んこ遊びに興じたボクとしては正直言って今時の「アーバンSUV」なるものがよく理解できない。折角の機能を活かすことなく単なるファッションとして乗るだけならあまりにも勿体ない。その分高価で燃費も悪いわけだし……。しかし、そうは言いつつ乗れば乗ったでなぜか気分が良くなるのも事実だ。背が高くて見晴らしがいいからなにかそれだけで偉くなったような気がするからだろうか。ユーザー心理の奥底には「押し出し」の立派さとともにそんなある種の優越感も潜んでいるに違いない。


首都高・大黒PAで佇むX5のディーゼル仕様、 BluePerformance。こんなに派手なエアロパーツ(ただし、オプション)を付けた日には顎が引っ掛かってラフロードなんてとてもムリ。その意味で見事に「アーバン」している。

BMWの最上級SAV(スポーツ・アクティビティ・ヴィークルを略した同社独自の呼称)、X5にそのディーゼル攻勢第1弾として“xDrive 35dブルーパフォーマンス(839万円)”が追加された。シリーズ名+100cc単位の排気量+インジェクション(燃料噴射)の“i”で構成されるモデル名の最後が、この場合は“d”で終わっているのに留意されたい。

驚くのはこの種のクルマとしては「僅か」3ℓにすぎない直列6気筒ターボディーゼルエンジンの底知れぬパワーと柔軟さだ。なにしろ55.1kg-mの最大トルクは自然吸気ガソリンエンジンなら優に5ℓ級のV8に匹敵する途方もなさだから、速いのは当たり前。車重2.22トンの巨体をまるでスポーツカーのような足取りでグイグイと引っ張り上げる。

さすがはBMWと言うべきだろう、かつてシルキーシックス(絹のように回転が滑らかな6気筒)と呼ばれた美点はこのディーゼルでも健在で、一般に高回転が苦手なディーゼルの中にあってリミットの4800rpmに軽々と到達した後もまだ自ら回り続けようとする。それでいて低回転での粘りも特筆もので、高速巡航の100km/hはトップギアの8速/1500rpmでゆるゆると、しかし余裕たっぷりに回っているだけ。したがってその気になればの話だが、同じ100km/hでも7速/1800rpm、6速/2200rpm、5速/2900rpm、4速/3700rpmと、実に5通りものギアが選べてしまうから呆れるほかない。

……アブナイアブナイ、この高性能と「上から目線」が「アーバン」で結びつくことがないよう、ドライバーには自制心が必要だろう。

6シリーズ・グランクーペは男の夢?

よくできた古女房みたいな1シリーズには重箱の隅を突ついてみせたくせに、パーティで出逢った美女のような6シリーズ相手だと端から降参かよ! まあそんなもんです、人間なんて。

と言うか、クルマも商品である以上それぞれに要求されるものが異なり、それに伴って評価の基準が変わってくるのはむしろ当たり前。リッチな大型クーペを謳う6シリーズ(986万円/1257万円)ならテーマはやはり「美」そのものであるはずだ。


これこれッ、このゴージャスな肢体ですよ! 窓ガラス下端とリアフェンダー外縁の位置関係を見比べて下さい。いかに魅力的な“くびれ”かがお分かりでしょう。

実はボク、「アーバンSUV」に対してと同様、世に謂うスタイリッシュクーペに対しても正直言ってあまり過大な期待は抱いていない。クーペだからといって必ずしも美しいとは限らず、むしろ往々にして乗り降りがしづらかったり室内が狭かったりする一方、実直一途に見えるセダンやハッチバックの中にも楚々とした機能美のようなものが感じられることが少なくないからだ。

で、この場合は同じクーペでも4ドアであることがカギとなりそう。その上で全長5010mm×全幅1895mm×全高1390mmの堂々たるボディサイズだからこそ実現した造形美、なかでも女性のそれを想わせる“gorgeousな”ウエストラインにぞっこん参ったというのが真相である(そもそも米語では「豊満な」というのが主意だとか)。

乗ってはどうか? ラクシュリークーペに相応しい華麗さと豪快さを兼ね備えているのはもちろんだが、「安い」方の640iグランクーペでもやはり「エンジンのBMW」らしく官能を刺激する瞬間が用意されているのは嬉しい発見だった。得意の6気筒(ガソリン3ℓターボ)は高回転を好み、上限に近づけば近づくほどレスポンスが鋭くなるタイプで、在来型のトルクコンバーター式としては例外的にシフトアップが素早いオートマチックともども、その先にうっすらとモータースポーツの「熱」のようなものを感じさせるのだ。

すっかり今風 3シリーズ

ボクが勝手にそう呼んでいる「日本車七不思議」のひとつに、ハイブリッドやEVには熱心な反面、ヨーロッパで大流行の「ダウンサイジング」に対する冷淡な態度がある。ダウンサイジングとかシュリンキングと言うと、古い読者は1960年代以降GM(ゼネラルモーターズ)をはじめとするアメリカの“ビッグスリー”が慣れない手つきで作っては大抵失敗に終わったボディサイズの縮小を思い浮かべるかもしれないが、そうではない。

現代のダウンサイジングは主としてエンジンのそれを指し、具体的には排気量や気筒数を減らして燃費を稼ぐ一方、同時にターボやスーパーチャージャーで過給(吸入気を強制的に充填)して力不足を補ってやる方法だ。

すでにフォルクスワーゲン系各車ではお馴染みのダウンサイジングだが、ここにきてBMWもいよいよ本格化した。なぜならBMWと言えば3シリーズと言うほど同社の大黒柱的な存在だが、その3シリーズが2012年、モデルチェンジを機に伝統的なエンジン政策を一変。主力の自然吸気型ガソリンモデルに関しては従来の直列4気筒2ℓ(320i)/直列6気筒2.5ℓ(325i)の2種からいずれもターボ付きの直列4気筒2ℓに一本化されたからだ。

新型のラインナップは320i(439万円〜)および328i(570万円〜)と呼ばれ、後者は前者と同排気量ながらチュ—ン(持てるポテンシャルの引き出し度合い)を高めて61PS増しの245PSを稼ぎ出したもの。謂うならば2.8ℓ「相当」だ。 ほかにも日本向けでは3シリーズ初となるディーゼル(直列4気筒2ℓターボの320d BluePerformance/470万円〜)と、新規登場で旧型の335i(直列6気筒3ℓターボ)に代わってシリーズ最上級車としての役割も担うガソリンハイブリッド(新型では唯一直列6気筒となる3ℓターボ+電気モーターの“ActiveHybrid 3”/699万円〜)まで、一気に揃って話題満載となった。

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ところが、そんな激変を経ても3シリーズは3シリーズのまま乗り味は不思議なほど変わらない。このへんが伝統的ヨーロッパ車の真骨頂だろう。

スペックを問わずシリーズ全車に共通しているのが依然緊密に保たれた人とクルマのコミュニケーションである。エンジンは回せば回すほど生き生きとしてくるからやる気のあるドライバーはそれだけで勇気づけられるし、ステアリングはステアリングで寛容そのもの。たとえデレッとズボラを決め込もうと、逆に気合い充分で峠道を攻めようと、緩急自在なのだ。

新型のラインナップを一言で特徴づけるとこうなる。軽快さが光る320iとトルキーな(トルク感たっぷりな)320d、そして雰囲気、乗り味とも高級感に満ちたActiveHybrid 3である。それぞれに持ち味があり、甲乙付け難い。なるほど3シリーズはプレミアムブランドのトップセラーだけあって懐はかくも深く、広い。


コードネームF30型と呼ばれる新型3シリーズ。敢えて横から写してみた。これは日本で最初に販売開始された328iだが、後輪駆動(略してFR。英語圏ではRWD=リアホイールドライブという)でなおかつ前後50:50の理想的な重量配分が実感できるショットだ。4輪に均等な力が掛かるのである。
MINIから“MIDI”まで

最後にBMWのサブブランド、MINIについて駆け足で。 今日これほどの隆盛をいったい誰が予想しただろうか? 12年前、イギリス発祥の名車から引き継いだのは「ミニ」という名前だけ。事実上ゼロからスタートした一見儚いオモチャのようなクルマは瞬く間に増殖、今ではボディバリエーションだけで7種を擁し、年産はちょっとしたメーカー並みの30万台、この日本でも昨年は年間販売台数1万6000台の新記録を達成した。

それはBMWが40年以上続いた“クラシックMini”に代えて“新生MINI”を世に送り出そうとしていた2001年のこと。イタリア・ペルージアでのメーカー試乗会を皮切りにドイツ・ミュンヘンの開発本部、イギリス・オックスフォードの生産工場、そして(財)日本自動車研究所・谷田部テストコース(当時)に持ち込んでの本格的な動力性能計測に至るまで、すべてMINIそのものを駆ってのトータル3500kmに上る取材旅行を敢行、128ページのムックとして結実させた、そのボクにとってさえミラクルと映った。

だが、本当は奇跡でもなんでもない。彼らは最初からすべてを折り込み済みで、ブームは起こるべくして起こったのだ。その証拠にかのムック、『別冊CG MINI STYLE』(2002年 (株)二玄社 刊)を改めて紐解いてみるとそこには後年製品化された“CONVERTIBLE”や“CLUBMAN”、“COUPE”、“ROADSTER”などが将来構想としてすでにイラスト化されており、そのうちまだ陽の目を見ていないのは“PICKUP(TRUCK)”くらいなものだ。

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実際、BMW-MINIの成功はマーケティングの成功でもある。まず、MINIは単なるモデル名というよりもひとつのブランドとして位置づけた戦略が功を奏した。だから、やがて「4ドアでゆったりした“MINI”が欲しい」という声が上がるとそれに応えてスンナリと“CROSSOVER”や“PACEMAN”を投入することができたのだ。MINIの下にサブネームを付けるだけでいいのだから。

その、社内コードでR6X系と呼ばれる4ドア系(うちPACEMANは2ドアなので話は少々複雑)だが、新生MINIと同じくらい、いやそれ以上にクラシックMiniに対して大きな共感を覚えるボクとしてはもはやウチの1シリーズを上回るほど図体が大きくなってしまったR6X系にはMINIを名乗って欲しくないというのが正直なところだ。1960年代末〜1970年代初頭のイギリスにはクラシックMiniの兄貴分として“オースティンMaxi”というのがあったが、それに倣ってせめて“MIDI”くらいにはしてくれないと……。


2人乗りと割り切ったCOUPE(左)とROADSTER。そのためトランク容量などは“ハッチバック”(単に“MINI”と呼ばれる標準型。コードネームはR5X型)などよりむしろ大きい。

BMWのサブブランドがMINI、そのさらにサブブランドとして位置づけられるのがJCWシリーズ。今を時めくBMWはこうして車種展開も「やりたい放題」の態だ。

COUPE COOPER S/6MT(339万円)
オモチャと言えば最もオモチャっぽく見えるのがMINIブランド5番目のモデルとして登場したこれ。だが、それは全くの誤解で、そもそもMINI自体がBMWクォリティで入念に作られている上に、独自に車高を50mm低め、ウインドスクリーン(フロントガラス)の角度を13度寝かせた2人乗りの本格派である。硬派には違いないが、乗り心地も悪くない。

JOHN COOPER WORKS MT/AT(390〜464万円)
2011〜2013年に掛けては車種追加が目白押しだった。高性能なJCWシリーズは袖ヶ浦が会場。これぞまさにサーキット向きだ。JCWもATが選べるが211PSもあるからパドルシフト(ステアリング上の変速スイッチ)でパワードリフトも意のまま。さらに7PS増しの限定車、“GP”(MTのみ/460万円)に至っては“fun”の極みである。

PACEMAN COOPER S/6AT(375万円)
現時点で最新の“MINI”。CROSSOVERベースの“スポーツ・アクティビティ・クーペ”で、適度な地上高を確保するため背がやや高め(1530mm)。試乗車は2WD(FF)だったが、4WDもある。“ラウンジ感覚”がコンセプトなだけに室内は広く高級。デザインアイコンも変化させている。だけど、Miniこそ“minimalism”の総本山だったのでは?


PACEMAN。MINIがMINIであるためのデザイン言語を、少しずつだが崩しつつある。例えば、これまで縦型だったテールランプを横型にというように。