光隠居とミヤビちゃんのちょっと聞けない日本の雅 -日本の常識 - 〜その1 封筒に付いている六角形の物〜

(2010.01.01)

お正月2日、月桜町はとても静かで、たまに町行く人の賀詞(がし)が遠くに聞こえ、のんびりした昼が過ぎてゆく……。
月桜町は都心の郊外に出来たベットタウン。正月は帰省する人たちが多く、殆ど町には人が居ない。

白川 光(しらかわ ひかる)翁(おう)は、この町が出来た20年前に都内台東区から区画整理でこの町に夫婦で引っ越してきた、今年77の喜寿を迎えた品の良いおじいさん。引っ越してきた当初から町づくりに奔走し、近所付き合いの希薄なこの町にあって、唯一(ゆいいつ)『ご隠居(ごいんきょ)』と云われている。『ご隠居』この言葉、今はとうに無くなった言葉だが、朝一番に起きて着流しのまま向う三軒両隣の道を竹箒で掃き清め、誰彼構わず「おはよう!」と声を掛けるので、何時しか『ご隠居』とこの古めかしい渾名がついたというわけだ。『ご隠居』は子ども達の面倒も早い頃からみていて、足腰の達者だった頃から少年ソフトボールチームの監督もこなし、また近所の少女や悪童を集め手習いも教えていた関係で、町の真ん中にある家には、子ども達の声が止まない。先年妻を看取った。今は独居老人である。どうやら血筋も良いと云う噂だ。

そんな『ご隠居』が心配で止まない『雅(ミヤビ)』と云う少女が居た。
『ミヤビ』の両親は15年前からこの町に住んでいる。典型的な核家族。共働きで凡そ子どもの面倒は見られない。たまたま『ご隠居』の隣に住んでいた手前、小さい頃は母親がパートから帰ってくるまで『ご隠居』の家で老夫婦と時間を過ごした。中学生になる今でも、『ご隠居』の話し相手になっている。

白川 光(しらかわ ひかる)翁(おう)は、この町が出来た20年前に都内台東区から区画整理でこの町に夫婦で引っ越してきた、今年77の喜寿を迎えた品の良いおじいさん。引っ越してきた当初から町づくりに奔走し、近所付き合いの希薄なこの町にあって、唯一(ゆいいつ)『ご隠居(ごいんきょ)』と云われている。『ご隠居』この言葉、今はとうに無くなった言葉だが、朝一番に起きて着流しのまま向う三軒両隣の道を竹箒で掃き清め、誰彼構わず「おはよう!」と声を掛けるので、何時しか『ご隠居』とこの古めかしい渾名がついたというわけだ。『ご隠居』は子ども達の面倒も早い頃からみていて、足腰の達者だった頃から少年ソフトボールチームの監督もこなし、また近所の少女や悪童を集め手習いも教えていた関係で、町の真ん中にある家には、子ども達の声が止まない。先年妻を看取った。今は独居老人である。どうやら血筋も良いと云う噂だ。

そんな『ご隠居』が心配で止まない『雅(ミヤビ)』と云う少女が居た。
『ミヤビ』の両親は15年前からこの町に住んでいる。典型的な核家族。共働きで凡そ子どもの面倒は見られない。たまたま『ご隠居』の隣に住んでいた手前、小さい頃は母親がパートから帰ってくるまで『ご隠居』の家で老夫婦と時間を過ごした。中学生になる今でも、『ご隠居』の話し相手になっている。

 

ミヤビ(以下 ミ) おめでとう~。『ご隠居』いる~? 

光隠居(以下 光) おめでとう! まあ上がれ 

 ミヤビ。パパとママは? 

 今日から仕事なんだって~。 

 そりゃ~大変だ。和室に入りなさい。 

 え~っ!面倒だからイヤ~……。 

 いいから、和室に座ってなさい。いいものあげるから。 

 あ~、そういうこと~。 急に笑顔に戻るゲンキンな娘。

 
和室には新年のおしつらえが整っている。
 

 ミヤビ。ご挨拶は? 

 さっき言ったじゃん。もぉ~……。『ご隠居』新年明けましておめでとうございます。今年も宜しくお願いします。 そう言って、頭を下げる。

 お~。立派な口上だ。おめでとう。はい!これ!

 
『ご隠居』はお年玉を手渡す。
 

 やった~!『ご隠居』ありがとう!んで、毎年気になっていたんだけど、この封筒の端っこに付いている赤と紫の菱形みたいな奴、これ何? 

 お~それか~。『のし』って云うんだよ。
 
 『のし』? 

 そうだよ。正式には『のしあわび』と云うんだ。 

 ノシアワビィ~? 

 
新年の厳かな和室に、素っ頓狂な声が響く……。