道田宣和のさすてーなモビリティ vol. 1三つ子の魂百までも
どこまでもサステイナブルな人たち。

(2011.10.25)

このひと月、「おっかけ」してました

このひと月、我ながら年甲斐もなく「おっかけ」をしていた。モビリティの先達、それも昭和ひと桁どころか明治生まれ(!)まで混じる大先達を追っての西東。かく言うボク自身も団塊世代だから、傍目にはちょっと怖い絵だったかもしれない。

彼らに共通するのは驚くべきタフネス、なかでも精神的なそれである。世間が勝手に想像しがちな「好々爺」の枠には収まらず、言いたいことを言い、したいことをし、それぞれの道を極めるのが元気の素と拝察した。この分なら日本は当分大丈夫。「若者が元気」は当たり前であって、それよりボクらのような高齢者予備軍が自立しないことには話にならないのである。まずは今年めでたく102歳を迎えられたMr. Kこと片山 豊さんから。

ゴーンに直言できる男

元気な年寄りが増えたと言っても片山さんは例外中の例外。Still going strong=老いてますます盛ん=の言葉はまさにこの男のためにある。戦前型ダットサンの量産開始に立ち会うことからキャリアをスタートし、戦後は自ら率いるチームが豪州ラリーで日本車初の勝利を収め、東京モーターショーの創設にも尽力。次いで1960年代からの対米輸出に主導的役割を果たした片山さんは100歳になるまで世界中を飛び回り、運転免許を返上したのもつい最近のことである。豪腕で鳴るカルロス・ゴーン日産CEOに直談判してフェアレディZを復活させたのも記憶に新しいところだ。

けれども、Mr. Kの愛称が示すとおり彼はアメリカでの方がより知られている。現地法人の設立当初から長く社長を務め、Zやブルーバードなどのアフォーダブルカー(手に届く高性能車)を広くアメリカ人に知らしめた功が認められて“自動車殿堂”入りも果たした。実際、片山さんから知遇を得て30年のボク自身、Z誕生25周年を記念したアトランタのコンベンションでちょっと眩しいくらいの光景を目撃している。片山さんが会場に現われると大統領のパレードもかくやの大歓声に包まれ、全米から集まった500人のオーナーたちが全員スタンディングオベーションで出迎えたのである。その人となりについては新井敏記著『片山 豊 黎明』(2002年角川書店刊)に詳しい。

息づかいの聞こえるクルマ

そのミスターKがこのところ年に一度は欠かさず訪れるのが浜松市天竜区春野の山深い郷。明治の末にここで生を享けた縁で市から“ふるさと大使”に任ぜられるとともに、郷土の偉人を称えるべく天下の公道に“K’s ROAD”の名まで冠せられた。近頃のお上は洒落たことをするものである。それと並行してクラシックカーイベントが開かれるようになり、はじめはZだけに限った排他的な集まりだったが、今回からライバルメーカーのクルマや輸入車にも門戸が開放されたのはとても良い。旧いクルマはそのことだけで文化遺産であり、そうとなれば敵も味方もないからだ。

ところで、片山さんのクルマ好きは幼少期に路上で目にした、当時としても簡潔きわまりない構造のアメリカ車、“ブリッグズ & ストラットン”に目を奪われたのがそもそものきっかけだったと聞く。まるで筏にエンジンと車輪をくっ付けただけのようなスッポンポンのクルマである。それだけに、根っからの合理主義者、機能重視派と言ってよい。クルマは極力軽くシンプルにがもっぱらの口癖だ。その思いは年々募る一方のようで、今回ボクから改めて理想のモビリティ像を尋ねられ、こう答えた。馬のようなクルマ、自分が幼い頃に乗っていた馬のようにその息づかいまで感じられるクルマがいいと言う。「なにしろ彼らは5000年もの間、人間に奉仕してきたわけでしょう。クルマじゃなかなかそうはいきません」
生憎馬と親しく接したことのないボクには俄に分かりづらかったが、息づかいをリニア感やダイレクト感に置き換えると少しは理解できた。とにかく、情のないモビリティは願い下げである。世の「鉄ちゃん」たちがSLに興じるのも根は同じか?

我が師匠

次いで、青山のホンダ本社で行なわれた小林彰太郎さんの出版記念会。知る人ぞ知る、自動車評論のカリスマ的存在で、今年82歳におなりだ。単にCAR GRAPHIC誌の初代編集長というだけでなく、日本のモータージャーナリズム界に知性と雅趣を持ち込む一方、歯に衣着せぬ物言いはこの国のクルマづくりに少なからぬ刺激を与え、鍛え上げた。日本のクルマ好きにとってはある意味、恩人でもある。批判の源泉はなにより「本物」を知り抜いているからだ。その名編集長からボクは幸運にも二玄社入社以来直接薫陶を受けてきた。

会はその近著、『小林彰太郎の日本自動車社会史』(講談社ビーシー/講談社刊)が上梓されたのを祝してのことである。内容はタイトルどおり自伝的集大成だが、初出の写真やエピソードも少なくない。これまで自らは控えてきた、自身の「社会的背景」にも筆が及び、なるほどと膝を打つ思いである。小林ファン必読の書。



ヒーローはひとりだけ

さらにこちらは港町、横浜。この日の主役は御歳77でヨットによる西回り単独世界一周を2年余の苦闘の末に見事達成した斉藤 実さん。文句なしのギネスものである。支援したニコル・グループの会場でボクに語った言葉がまたふるっていた。偉業の原動力を訊かれて、「いいですか、野球だってサッカーだってチームプレイには違いないですが、ヒーローはいつもひとりだけ。最後は個人なんです」と。どうだろう、今どき珍しいあからさまなこの功名心、かえって気持ちがいいくらいだ。そう言えば、前回お会いした時より一段と目の輝きを増している。どうやら早くも次のチャレンジを計画しているらしい。

変わり身の早い日本車よろしくマイナーチェンジです。「さすっていいな」はあんまりだと一部から声が上がり、それではと「さすてーな」にしてみました。タイトル変更は本来禁じ手、我ながらいい加減だなと思います。が、“システィーナ礼拝堂”ではないけれど、なんとなくラテンぽい響きが気に入ってます、今のところはですけどね。
次回は本業(かどうかはもはや自分でも? なのですが)の自動車評論を一席、それも最近個人的に気になっている新型車について書くつもりです。