籾山由美の東京-島根 小さな暮らし福は~内! 節分(せちぶん)越えて春が来る。

(2011.02.01)

2月3日は豆まきの節分(せちぶん)です。おばあちゃん、おじいちゃんたちはみんなセチブンと呼んでいました。その節分を過ぎると立春ですが、まだまだ雪深い島根です。その寒い時期を乗り越えるために2月3日までにする大切な行事があります。父方の松江では厄を祓うために紙に描かれた人形(ひとがた)を神社に行ってもらうこと、母方の島根の石見地方ではおやつや保存食となる凍り餅(こおりもち)を作ることです。

この二つが揃うと ああもう少しの辛抱、もうすぐ雪溶けが始まると胸に期待が膨らみます。そして豆まきの始まり。皆さんはどんな節分を迎えるのでしょうか? 元気な豆まきの声が聞こえます。福は~内!

節分の豆と石見地方のお土産、手作り鬼の面。

島根県の巴智郡のおばさんが送ってくれたふるさと便という名前のギフトに入っていた鬼の面。地元の方の手作りだそうです。荷物の中にはお面、お豆、お餅、ネコヤナギの小さな枝が3本入っていました。実はこれ、22年前に頂いた物です。今でもこのギフトはあるのかな~? と思い、早速インターネットで巴智郡の役場を調べて電話で確認しました。残念、今は取り扱ってないそうです。

そりゃそうよね。巴智郡の巴南町と川本町の役場の方、突然の質問でごめんなさい。そしてありがとうございます。電話から聞こえる言葉の先にふんわりと出るなまりがとても優しくて嬉しい気持ちになりました。あ、お豆は今年新しく購入したものです。

人形(ひとがた)

松江市内の神社のあちらこちらでやる節分の人形(ひとがた)の厄祓い。この人形は私のアトリエのある松江市雑賀町の売豆紀(めづき)神社、通称めつけさんで頂いてきました。もちろん2月3日の豆まきの前に取りに行くのが必須条件。ひとり一枚が原則の人形の裏に名前、歳、住所を書いてから人形で体をさすり、すべての悪業災難を人形に移します。そして2月3日に神社に持って行き、祓い清めてもらいます。このときお祓い料としてひとり500円くらいは用意します。

またこの人形は誰かに託して神社に持って行ってもらうことも可能。忙しい人には嬉しい約束事です。ところで私の主宰する花教室の生徒さんからの情報で神奈川県の寒川神社(さむかわじんじゃ)で人形があると教えてもらいました。人形の絵もほぼ同じで厄を人形に移すやり方も同じです。

寒川神社 http://samukawajinjya.jp/index.htm

売豆紀神社の人形(ひとがた)。関東の神社でも人形を確認。

寒の餅と凍り餅

島根県の石見地方では、1月末頃から2月3日までの間に寒の餅として砂糖や塩で味付けしたお餅を作ります。必ず節分までに完成していなくてはなりません。この時期が一番乾燥させるのに良い時期だそうで、ここでしっかり干せばカビがつきににくなり年中食べられるお餅になるそうです。雪の降る地域の昔から伝わる知恵ですね。まずお餅はもろぶた(お餅を作るときや押し寿司用の木の箱で、フタが付いています)に延ばしたまま入れて、一晩ねかせてから薄く切ります。

切ってすぐに食べても良いのですが、本来はもろぶたの中に広げて乾燥させて、何もないときのおやつとして大人も子供も食べる保存食です。火鉢やストーブの上であぶって食べます。今ならフライパンで焼くか油でさっとあげても美味しいですね。子供のおやつには最適で、妹とパクパク食べていました。

冬を越す大事な保存食、寒の餅と凍り餅。

凍り餅(こおりもち)

寒に作るお餅の中で、砂糖を入れて作るお餅だけを特別に石見地方では凍り餅(こおりもち)といいます。母方の親戚、もみじ屋(屋号です)が毎年贈ってくれます。今年は凍り餅を紅白にしてくれました。凍り餅は砂糖でカビが付きやすいので、昔から他の寒の餅に比べて半分以下の薄切りにします。火鉢やストーブであぶるとすぐにぷーっと膨らむ暖かくてほのかに甘いクイックフードです。雪で外に出て遊べない日は、お餅が膨らむだけでキャアキャアワイワイ大騒ぎ。そのうち食べたの食べないで泣くほどの喧嘩になる、あ~ぁな姉妹でありました。

ほのかな甘みが嬉しい凍り餅。今年は紅白!

豆餅

黒豆入りは厚みも栄養も揃い踏みのお餅。寒の餅の横綱ですね。ポクポクと歯切れの良い黒豆の感触がたまりません。本当に美味しい。黒豆は作る直前にさっと蒸すのがコツだそうです。以前、豆を一晩水に漬け置きしたら、柔らかすぎて杵でついている間に潰れてしまい黒い餅になったとか。それはそれで美味しいと思いますが、別ものになっていて横綱ではありませんね。寒の餅の中でこれだけが塩入りです。黒豆が入っているので形を残すため自然に厚切りになります。厚切りだから塩が入っていないとカビがすぐくるようです。理にかなった作り方に感心します。昔の人は偉いなあ。

 

草餅

ヨモギ餅も時間がかかります。まず新芽の時期にお餅にする分量を考えて摘んでおきます。昔は乾燥させて保存しましたが、今は軽く茹でて冷凍庫で保存します。お餅を作る前に戻してすり潰しておき、お米がお餅になり始めたところに、少しずつ混ぜていって出来上がりです。塩も砂糖も加えません。トチ餅も味をつけません。子供のときから醤油もつけず、トチの実の甘さ、ヨモギの青臭い香りと渋みで食べるのが大好きです。食べる機会があれば何もつけず、一口試してみてください。素材の良さがわかりますよ。

 

黒豆入りで塩味の豆餅。凍り餅より厚く切ります。
ヨモギの入った草餅。焼かなくても春の香りがします。
手間のかかるトチ餅。構想から完成まで2ヶ月!

トチ餅

私は子供のときからトチ餅が大好き。おばあちゃんに手間のかかる物だからそんなにいっぺんに食べるとあとがないよ、と注意されるくらい食べていました。もみじ屋のお餅は今年も力作。トチ餅はトチの実をお餅にするために使う量を拾い、殻と渋皮を剥きます。栗と同じような大きさですから辛苦な手仕事です。そしてそれを網に入れて流れる水に漬けます。つまり川に漬けるわけです。これでゴロゴロ転がって渋皮はほぼきれいに取れます。簡単そうですが2~3週間漬けっぱなし!その間に洪水でもきたら流されてお終い。それにも負けず耐えられると更に灰汁水につけること2~3週間。灰汁を洗い流してトチの実を冷凍庫に保存します。昔は乾かしたようです。そしてお餅を作るときに蒸し、一緒について出来上がり。お餅になる前の下準備だけで2ヶ月近くかかってしまいます。トチの実拾い、流れる水、十分な灰汁、漬け置きできる場所、そして長いゆっくりとした時間、これが揃わないとできないトチ餅。それなのにばくばく食べて。。おばあちゃんからストップがかかるわけです。今年は感謝して大事に食べましょう。

 

さて、石見弁のもみじ屋のおじちゃんとおばちゃんの昨年秋の会話。
おじちゃん  「ヨモギのええのがあるが、寒の草餅にせんかい? どがーするかい?」
おばちゃん 「はぁ~、そりゃ~ええねぇ~。そいじゃが、お米一升分にしてやんさいよ。」
おじちゃん 「ほぅ、そがーじゃのぅ、そがーしょうか。」

翻訳します。
「ヨモギのいいのがあるけれど、寒の草餅にする気はないかな? どうする? 」
「あら、それはいいわね。でもお米一升分だけにして下さいね。」
「ああ、そうだね、そうしよう。」

いたってカジュアルで丁寧な優しいおしゃべりです。はぁ~ とか ほぅ とかは石見弁独特の相づちです。これを時々挟んで、まったりしゃべるとあなたも今日から石見人です。(笑)