道田宣和のさすてーなモビリティ vol. 24サステイナビリティ新局面 ヨーロッパ勢PHV急増の理由

(2016.02.20)
トーキョーモビリティ24。数寄屋橋新風景。
トーキョーモビリティ24。数寄屋橋新風景。
雨後の筍

メルセデスも、BMWも、アウディも、フォルクスワーゲンも、ボルボも、そしてあのポルシェさえも。……驚きである。

トヨタと三菱自動車が2012年に史上初の市販型プラグイン・ハイブリッド・ヴィークルとなるプリウスPHVとアウトランダーPHEVを送り出して以来、当分の間は日本の天下であり、お家芸だろうと嵩を括っていたら、なになに、それどころか世界の環境車勢力図はここ1〜2年ですっかり様変わり。ヨーロッパ勢が怒濤の如くPHVを繰り出している。なかでもドイツ製高級車を代表する「御三家」あたりは、むろんラインナップのすべてではないにせよ、出すクルマ出すクルマごとにそれを示す“e”や“E”のサブネーム付きのモデルが登場。いったいなぜなのか?

因みに、“イー”は言うまでもなくelectricのイー。プラグイン、すなわち家庭電源からの充電もできるハイブリッドはそうでないハイブリッド同様、駆動力自体はエンジンとモーターの併用であることに変わりはないものの、事前に貯めたバッテリーの電力に余力があるうちは事実上、「純粋な」電気自動車としても走ることが可能だからだ。三菱が独自に“PHEV”を名乗るのは“i-MiEV”で世に先駆けたEV(電気自動車)メーカーとしての自負が成せる業。事実、アウトランダーのそれはPHVの中でもよりEV的な性格と作動を特徴としている。

PHVがEVでいる瞬間(とき)。坂道を登っている、その刹那にもエンジンは止まったままだ。速度計(左)と回転計(右)の関係に注目!
PHVがEVでいる瞬間(とき)。坂道を登っている、その刹那にもエンジンは止まったままだ。速度計(左)と回転計(右)の関係に注目!
 
立ちはだかる95g/kmの壁

思い起こせばあれは’80年代のことだったろうか。当時、ヨーロッパではドイツのシュヴァルツヴァルト(黒い森)に代表される木々の立ち枯れ等、酸性雨被害への対策が喫緊の課題とされ、それを党是とする緑の党が躍進を遂げていた。

クルマの場合、大気汚染もしくは環境問題と言うと日本では燃費(km/ℓで表示)の良し悪しや排ガスの成分(炭化水素=HC、一酸化炭素=CO、窒素酸化物=NOx。ディーゼルでは加うるに粒子状物質=PMと硫黄酸化物=SOx)の多寡に目が行きがちだが、ヨーロッパではちょうどその頃を境として地球温暖化の元凶とされる二酸化炭素ことCO2に論議が集約された感があり、それ以降今日に至るまでその排出量(g/kmで表示)を以てクルマの環境性能とみなす共通認識が、官のみならず民にも消費者にも広く浸透・醸成された。

けれども、それからしばらくは旧態依然のままが続き、小型車でもCO2が100g/kmを大きく上回るのは当たり前、大型車や動力性能重視のスポーツカーなどに至っては200g、300g超といった、今にしてみれば「噴飯もの」も少なくなかったのである。その後ヨーロッパ車は例のダウンサイジング(排気量を縮小しつつ気筒内直接燃料噴射+過給でパワーと環境性を両立)や元来燃費(≒CO2排出量)に優れたディーゼル車の比率が高まったことから、排出量は順次着実に低減されてきた。直近では小型車から大型車までさまざまなモデルを擁するフルラインナップメーカーでもなんとか100g/km台前半に収まるところまで漕ぎ着けた(2014年実績ではEU域内で登録された新車の平均で123.4g/km)。

先のCOP21を積極的に主導したことでも分かるとおり、EU(ヨーロッパ委員会)はより一層の規制強化に向けて手綱を緩めようとせず、2012年には新たな基準を策定。2021年までにヨーロッパ全メーカー/全ラインナップの平均で95g/km以下という、一段と厳しい内容の法案を可決・成立させた。実は、個々のメーカーに課される数値はそれまで生産していたラインナップの陣容を勘案し、多少異なるのだが、いずれにせよ在来型エンジン(だけ)では達成不可能なことは明白である。

BMW X5 xDrive40e、927万円。右後ろには従来どおりガソリン給油用のフィラーリッドが
BMW X5 xDrive40e、927万円。右後ろには従来どおりガソリン給油用のフィラーリッドが

もうお分かりだろう。これこそがPHVを続々輩出させる真の理由なのである。なにしろモーターで走っている間はCO2の排出がゼロなのだから、CAFE(コーポレート・アベレージ・フューエル・エコノミー=企業平均燃費)ならぬ企業平均二酸化炭素排出量を確実に、劇的に引き下げる特効薬になり、EUから課されるペナルティ付きの必達目標をクリアできるからだ。そしてこのPHV、クルマによっていくらか異なるものの、一般に当初満充電の状態であればそこから数十km、すなわち毎日の通勤距離程度は化石燃料に全く頼ることなく電気の力だけで走ることができる一方、いざ遠出となれば航続距離が短めなEVと違って普通のクルマと同じ感覚、同じ扱いで燃料を継ぎ足しながらどこまでも走り続けることができるのだ。

聞くところによれば、カリフォルニアあたりでは以前はEVのほかにHV(単なるハイブリッド)にも与えられていたフリーウェイでのカープール(優先レーン)利用権が今やPHVでないと認められなくなったとか。確かに、そう聞くとPHVこそが差し当たってのベストなソリューションなのではと思えて来る。

そして左前には外部電源からの充電用ソケットが加わった。
そして左前には外部電源からの充電用ソケットが加わった。
 
右足次第

さて、PHVなるもの、実際に乗ってみるとどうなのか? 早速だが、最近ステアリングを握った2台を例としてインプレッションをお伝えすることとしよう。

まずは暮に箱根で行なわれたBMWの試乗会から。この日はフルチェンジした同社SUVシリーズの末弟、X1が主役のはずだったが、せっかくの機会だからと供された同じSUVの最上級モデル、X5に昨秋追加されたPHV、“X5 xDrive40e”を試してみると意外な面白さで、お蔭でボクの中では可哀想にX1の存在が霞んでしまったほどである。何が面白いかって、スロットルの踏み方、それも微妙な踏み方である時はEVになったり、またある時はガソリン車になったりと、変幻自在な様子が乗り手の知的好奇心を満足させるし、もしかしたらこれこそが新しい“driving fun”のひとつになるのではないかと期待させたからだ。

言うまでもなくPHVはEVと異なり、常時電気モーターだけで走行するのが目的ではないから、このクルマの場合だと満充電の状態で9.0kWhの容量を持つリチウムイオンバッテリーだけを使った最長走行距離は120km/h以下の速度域で30.8kmまでとされている。では、果たしてこの日舞台となった全長約13.8kmで勾配のきつい箱根ターンパイクの山道を電気の力だけで登り切ることができるだろうか? 大柄で車重2.4トン近くもあるボディを重力に逆らって引っ張り上げるのだから、想像するだけでも要するエネルギー量の大きさが知れようというもので、実際、登り始めてすぐにバッテリーの残量計は釣瓶落としのようにコマの数が減って行く。

そこをなんとかすべく逸る気持ちを抑え、負荷に堪え兼ねてエンジンが勝手に回ってしまわないよう、右足に込めた力をミリ単位で微妙に調整。ギリギリのところで均衡を保ってヒルクライムを開始すると、善良なドライバーが景色を愉しみながら走る程度のペースをなんとか維持しながら行程の半分ほどを電気だけで走ることができた。PHVにとっては最も過酷なシーンのひとつだったに違いない。

シリーズには引き続き直6やV8も用意されるので、排気量そのものは(ガソリン)直4ターボ付き2ℓにすぎないxDrive40eのエンジンルームは本来前半分がスカスカ。隙間を埋めているのは補器類やカバーである。それでもエンジンの最高出力245PS/最大トルク350Nmと電気モーターの最高出力113PS/最大トルク250Nmを合わせたシステムとしての最大出力313PS/最大トルク450Nmは優に上級モデルに匹敵する。
シリーズには引き続き直6やV8も用意されるので、排気量そのものは(ガソリン)直4ターボ付き2ℓにすぎないxDrive40eのエンジンルームは本来前半分がスカスカ。隙間を埋めているのは補器類やカバーである。それでもエンジンの最高出力245PS/最大トルク350Nmと電気モーターの最高出力113PS/最大トルク250Nmを合わせたシステムとしての最大出力313PS/最大トルク450Nmは優に上級モデルに匹敵する。

もう1台はファミリーマンのためのポルシェ、パナメーラ(シュポルトリッヘリムジーネ=スポーツセダン)に追加されたPHV、名付けてS E-ハイブリッド。こちらも全長5m+、車重2.1トン+と負けず劣らず重量級だが135km/h/約36kmまでEV走行できることになっている。おまけに舞台はJAIA(日本自動車輸入組合)主催の大磯試乗会だったため、主として平坦な西湘バイパスを利用しての走行だったから、より日常的な状況に近かったと言えそうだ。いわゆる「高速道路」ではないものの、立体交差の自動車専用道だから、本線への合流にはそれなりの加速が必要なのだが、事実、この日はプリンスホテルの駐車場を出てから大磯西のランプを経て70km/hの法定速度に達するまで、必要十分なペースの下で完全なEV走行に終始できた。もっとも、その後は「ポルシェらしさ」を確かめるべくついついスロットルに鞭を入れて化石燃料を使うことになったが、もともと試乗時間が45分間と限られていたこともあって、慎重に走りさえすればその程度なら電気だけで走ることも可能だったはずだ。

そうそう、次回はそのJAIAで乗ったポルシェ以外の最新輸入車8台をリポートします。

さしずめ、パナメーラS E-ハイブリッドが「家でご飯を食べている」ところ。こちらは3ℓのスーパーチャージャー付きV6エンジン(333PS/440Nm)に95PS/310Nmの電気モーターを組み合わせ、システムで416PS/590Nmを豪語する。メーカー公称最高速度は270km/h。1498万円。
さしずめ、パナメーラS E-ハイブリッドが「家でご飯を食べている」ところ。こちらは3ℓのスーパーチャージャー付きV6エンジン(333PS/440Nm)に95PS/310Nmの電気モーターを組み合わせ、システムで416PS/590Nmを豪語する。メーカー公称最高速度は270km/h。1498万円。
豊満なヒップがどことなくポルシェ初のフロントエンジン車、かつての“928”を髣髴させるが、乗り味も次第にそれに似て来た
豊満なヒップがどことなくポルシェ初のフロントエンジン車、かつての“928”を髣髴させるが、乗り味も次第にそれに似て来た
全長5m+、車重2.1トン+、重量級だが135km/h/約36kmまでEV走行できるという。ヨーロッパ製PHVに高価大型車が多いのは、それだけCO2削減効果が大きいから。
全長5m+、車重2.1トン+、重量級だが135km/h/約36kmまでEV走行できるという。ヨーロッパ製PHVに高価大型車が多いのは、それだけCO2削減効果が大きいから。