土屋孝元のお洒落奇譚。お茶の正月とは……。

(2010.11.09)

今日は、お茶の正月といわれる、炉開きです。
風炉から炉に変わり、茶碗の位置や水差しの位置、
お湯や水を汲む柄杓(ひしゃく)も微妙にサイズが変わります。
師匠の茶室にても炉開きの茶事があり、呼ばれて参加しました。
この茶事に呼ばれるとは、正客がこの日のために人選し、
選ばれた人だけが参加できることなのです、
正式にはですが。

まず、茶室に入るのには、「にじる」という動作にて、
茶扇子を自分の前に置き、両膝を揃えて両手にてすり寄り茶室へ入り込むと……。
言葉では難しいようですが、簡単です。

入って 床の間の掛物を拝見します、
今日は阪口鶴代さんの作品です。
(芸大の後輩と最近わかりました。)
阪口鶴代展2010年11月9日(火)から19日(金)まで『阿曽美術』にて。
Tel.03-3564-2209

岩絵の具と胡粉にて現代絵画のような平面構成で表現しています。
群青と黄土の平面構成画面は幾重にも重なった絵具により、
より深みを増し、師匠のお茶室には良く合います。
この時、自分の茶扇子を前に置き、
結界を作るようにと、作法では言われます。
自分の方が謙るという意味のようで
いま風に言えば、お道具を常にリスペクトするということですね。

©Takayoshi Tsuchiya

続いて水差しの拝見。
この水差しは三原研さんの溶岩のような肌を持つ花入れに
師匠が蓋を誂え、水差しにみたてたものです。
炉に掛けてある釡を見ると、今日の釡は鍋底釡。
珍しいもので 僕も初めて拝見しました。
鉄鍋に蓋をして真ん中に10cmぐらいの穴を開け
そこに蓋が付き、その蓋の持ち手には亀がいます。
かん付きの代わりには これまた亀が二ヶ所鎮座しています。
どうも、そこが釡かんを受けるようです、
釡かんとは釡を持ち上げる時に使う丸い輪のことですね。
拝見を終え順番に自分の席に付きます。
この時もお能の様にすり足にて移動して座り、正座です。

襖の向こうから亭主は気配を感じ、料理を運び始めます。
まず、料理ですが意表をつくワンタンというか水餃子です。
ワイングラスに赤ワインを注いでもらい、いただきます。
ワインに水餃子、以外にあいます。
この水餃子の入った器はベトナムの焼き物でバッチャン焼きでしょうか。
カタチは李朝の高台の高い茶碗のようで、
外は青磁のようなセラドングリーンで肌艶もよく、
中には青い釉薬で蓮の花や葉が描かれベトナムらしい風情です。
どうも、水餃子のタレにはニョクマムが入っているようです。
秋田のショッツルと同じ、魚醤ですね。
醤油とは違い慣れが必要ですが、馴染むと美味しいものです。

次はサラダで大皿に盛られていて、唐津皿でしょうか。
水菜やルッコラ、ネズミ大根、ベビーリーフなど、さっぱりとして食べやすい。
八角を隠し味に使っています、中華風と言うか、ベトナム風と言うか東南アジア的なドレッシング。
ワインが回ったのか、西岡良弘さん作の黒唐津長皿に盛られた料理を
失念しました。松の実が和えてありましたが、何だったのでしょう。

©Takayoshi Tsuchiya

最後にご飯と汁物です。
大きなお椀で故夏目有彦作の塗物雑煮椀です。
存在感のある根来。
ご飯は五目の炊き込みご飯、汁はのっぺい汁です。
出汁はホタテとアゴですね。
アゴの出汁は上品で、なかなか美味しい。
タケノコ、こんにゃく、里芋、人参、ホタテと具沢山でお腹も満足になりました。
雑煮椀が大きいので一杯で軽く二杯分です。
箸休めにお酢漬の新ショウガをいただきました。

これでお料理は終わり、この時、茶室にて客全員でする事があるのです。
お膳にお箸を落とし、みんな食べ終わりましたと亭主に合図を送る。
そうすると、亭主は襖の向こうから、その音を聞き、茶室に入り、
一人一人から手渡しにてお膳を受け取り下がります。

いよいよ、亭主から挨拶があり、お濃茶をさしあげますと、
主菓子が盛られた皿が正客に渡り、
次々と自分の懐紙に主菓子を取り分けます。
栗大福というのか、餡に栗が丸ごと入った饅頭です。
甘さもちょうど良い。
沢山いただいたのに、こればかりは別腹ですね。
全員が取り終わったところで、正客が声をかけ、
みんなでお菓子をいただきます。
これはお濃茶のときだけの作法です。

そして、いったん茶室より退室し、
しばし休憩となり 亭主の声を待ちます。
濃茶に備えて濡れ茶巾を畳んだり、濃茶用の準備を整えることになります。
この濡れ茶巾とは、濃茶をみなで回し飲むので、
次の人のために自分の飲んだ茶碗の口を清めるために使います。

作法では、左から右へ3回ぐらい同じ方向から拭き取ります、
この作業は丁寧に扱わないと割れることがありますから慎重に、
大寄せの茶会で茶碗が割れたというのを聞いたことがありますから。

まず正客が濃茶を一口飲み、亭主にお詰めは、と、問います。
「あいや」の「風の香り」です、と亭主が答え、
主菓子はどちらのお生ですか、と、尋ねます。
お菓子屋さんの名前とお菓子の名前を皆で聞きます。
末客が濃茶を飲み終えたら、正客へ茶碗を戻します。

この時も畳の上を躙りながら移動して行きます。

最近では、この茶碗を拝見に出すとき、
末客が亭主へ茶碗を戻し、中の濃茶をゆすぎ、
きれいにしてから正客に拝見に出すこともあるようです。
その方が高台を見るのにも気兼ねなく茶碗を裏返せますから、
茶碗の裏の高台も見どころです。
この高台にて作者を推測する訳ですね。
今日の茶碗は当代の15代楽さん作、赤楽茶碗。
銘は「反照雲一片」。

夕焼けを反射する一篇の雲をイメージしてということです。

続き薄と亭主から声がかかり、濃茶の茶碗、茶筅、茶杓を水屋に下げ、
続けて薄茶点前に入り、茶碗と薄茶器が運ばれます。
茶碗は李朝の茂三茶碗(もさんちゃわん)

お菓子が運ばれ、正客の前に出されます。
風船菓子と言う面白いお菓子で、
外は風船の様に丸い麩菓子で中にはゼリー寄せの丸いボールが入っています。
この時は薄茶が出される直前に各々お菓子をいただきます。
一人一人がお茶を待ち薄茶を順番にいただきます。

お道具の拝見をと正客が声をかけ、
茶入、茶杓、しふく、薄茶器がみんなのところを回ります。
この拝見の時は、畳の縁外にてお道具を拝見します、
お道具を離れて見て全体や佇まいを見るということでしょうか。

裏千家ではこうですが、表千家では縁内にとなる訳です。
拝見が終わると、末客が正客へお道具を戻し、
正客は亭主にお道具を返し、道具について尋ねます。

ちなみに、今日の茶入は李朝の白磁、文琳茶入。
茶杓は象牙の薬匙を茶杓にみたてたもの。
しふくは堺更紗。薄茶器は菊型の長い塗物です。作者不祥。
みなで総礼して茶室を出て終わります。

これがおおまかな茶事の流れです、
いつも思うことですが、師匠の道具の組み合わせはセンスがよいです。
日々勉強をしなければ。