ユトレヒトが移転オープン。新生『NOW IDeA』で『青田真也『A.B.』展を開催。

(2014.10.15)

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ブックショップ『ユトレヒト』が神宮前に移転オープン

先日、ブックショップ『ユトレヒト』が表参道から神宮前に移転オープンしました。新しいショップは、渋谷または原宿または表参道から少し歩いてちょうど街の賑やかな気配が薄まったころに到着するロケーションで、心が落ち着きを得ながら建物の階段をあがった2階にあり、扉を開けると広がる店内はなんとも清々しく。前の場所にあったオアシス感はそのままに、広くなって窓も大きくなり明るさを増しています。

そして、これまで国内外のほんとうに様々なクリエイターやアーティストたちの溢れんばかりの個性、独創性の懐深い受け皿となってきたギャラリースペース『NOW IDeA』も復活。誰もが自由を許されていきいきとプレゼンテーションできる特有の求心力を持っている−−NOW IDeAのエスプリも、本と一緒に詰められて新しい場所に運ばれてきたようです。クリエイターたちの個性や独創性に出会える、東京でもほかにない貴重なスペースとなるに違いない新生『NOW IDeA』の杮落しとなるエキシビションが、アーティスト・青田真也の『A.B.』です。

扉を開けてすぐのテーブルの上と窓辺の棚に、ガラスボトルが約100本並んでいます。それらは確かにどこかで見たことのあるムードのかたちなのだけれど、何かが足りていなくて、いや、何かが満ちていて…。

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なんでも削るアーティスト青田真也

アーティスト・青田真也は、何でも削ります。地球儀、能面、木彫りの熊、リコーダー、ファミコンのカセット、ドラえもん…、小さなものは将棋の駒から、大きなものはグランドピアノまで。

今年はじめに東京都現代美術館で開催された「MOTアニュアル2014 フラグメントー未完のはじまり」で展示されていたひとつが、洗剤や漂白剤のプラスチック容器のシリーズ。ラベルを剥がされ表面を削られたそれらが整然と並ぶ光景にまず単純に感動するのだけれど、それは美しいものを見たときの感動に違いないだけでなく、普段なるべく目に入れないようにしているデイリーな容器たちに感動させられるなんて、その不覚さゆえにまた感動するのであり、容器たちも生まれてこのかたこんなに堂々としたことはなかっただろうという表情をして並んでいるのが、どこか面白く微笑ましいのでした。その日以来、家のお風呂場や洗濯機の横やトイレに並ぶ洗剤たちのパッケージの中に隠れている姿が見えてきて、それはそれは愛おしく。日常の風景が変わったのです。

このときに展示されていたもうひとつがガラスボトルのシリーズでした。ウィルキンソンやコーラ、牛乳瓶、栄養ドリンク、ワインに日本酒… それらもまたラベルとともに情報を剥がされ表面を削られて残った姿だけをしていて、もうただただ、この姿としてここにあるだけ、これが真実です、と真っすぐ前を向いたような風景でした。

青田は作品を制作する際、ヤスリを使ってすべて自分の手で削りますが、ガラスボトルを作品にしようとしたときに、研磨材を機械で吹き付けて削る「サンドブラスト」という加工法を試しました。すると、確かに表面は削れるのだけれど「形について(自身の)手をほとんど出せなかった」と言います。青田にとってそれは、この方法では「作品」にはなり得ないという結論であり、同時に別の可能性の発生でした。実用品として流通できる「プロダクト」としての可能性。それを固めて発表するのが、今回の『NOW IDeA』でのエキシビションがお披露目の機会となるプロダクトライン『A.B.』です。

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    photo: 伊奈英次/Eiji INA 『MOTアニュアル2014 FRAGMENTS』東京都現代美術館 2014年
『A.B.』作品からプロダクトへ。

かたちある物はその時点で情報を帯びていて、さらに名称や用途や材料や社会的情報を帯びてわたしたちの日常に存在しています。青田の作品、つまり表面を削り落とされ情報を剥ぎ取られた物たちが残す情報に愛おしさを感じたりするのだとすれば、そこに残されている情報とは何なのでしょう。フォルムと色とテクスチャーという情報だけ残されたものが凛とした佇まいなのはどうしてなのでしょう。とにもかくにも、表層を失ったそれらに向き合うと、ありとあらゆる表層が連なり重なってできているわたしたちが生きているこの世界をも同じように削ってみた先を想像して、希望が持てるようにも思えてくるのです。

そして、手で削ろうが機械で削ろうが、表層を失う結論とそれによる感動効果は変わらなくて、青田がアーティストとして表現しようとすることとその結果の魅力も本質的には変わりません。ただ、ある物が世に存在することになったその形に自身の手を出せたか否かの違いにより、「作品」であるか否かのアーティストの判断と意思が変わる。「作品」とそうではないものとの距離感についてはいつも悩ましいトピックでもあると思いますが、青田はそのトピックについてすでに自身は答えを見出して、この『A.B.』を発表するに至ったのです。

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青田の「作品」の魅力を「プロダクト」としての実用を通して日常に落とし込むこと、または、日常の「プロダクト」としての実用が「作品」の本質を体験させること。その往来をみせるのが、プロダクトライン『A.B.』です。

『A.B.』は今後も展開していく予定の青田のプロダクトラインの名前です。「AotaのBottle」、あるいは「青のAとBLUEのB」とも。将来展開する他のプロダクトにも当てはめられることになりそうです。

NOW IDeAでの展示会期中は、『A.B.』のボトルを使いながら料理家・山本千織(chioben)さんによる特別なメニューをコースで楽しめる一夜限りのディナーショー(要予約)や、ユトレヒトと同じビルにあるフラワーショップ『Tumbler & FLOWERS』のドライフラワーを『A.B.』のボトルと合わせてお持ち帰りいただけるサービスもあります。

ぜひ『A.B.』を実際に見て、見えていなかったものが見えてくるような視覚の初体験をしてみてください。

 

青田真也『A.B.』
日程:2014年10月15日(水)〜11月3日(月・祝)
営業時間:12:00〜20:00 *月曜日定休(祝日の場合は翌日休)
会場:NOW IDeA
   東京都渋谷区神宮前5-36-6 ケーリーマンション2C ユトレヒト内)
企画1:chiobenのディナーショー with 青田真也 A.B.|10月17日(金)19:30-22:00 要予約
企画2:Tumbler & FLOWERSのドライフラワー with 青田真也 A.B.|会期中
協力:青山|目黒、Hikotaro Kanehira

青田真也(Shinya Aota)
アーティスト。身近な既製品や大量生産品、空間の表面やカタチをヤスリで削り落とし、見慣れた表層や情報を奪い去ることで、それらの本質や価値を問い直す作品を制作をしている。 主な展示に、「あいちトリエンナーレ2010」、「個展」(青山|目黒)、 2014年「日常/オフレコ」(神奈川芸術劇場)、「MOTアニュアル2014」(東京都現代美術館) などがある。