土屋孝元のお洒落奇譚。濃茶と薄茶のちょっとした違い、
大まかな茶事の流れについて。

(2011.11.04)

濃茶が飲みたくなる気温、気候です。

最近、急に気温が下がりました。つい先日までは、夏日だとか、10月に30度近い気温は何十年ぶりだとか、そんなニュースばかり目につく日々でした。いざ、寒くなってみると、あの夏の暑かった日が懐かしくなるのは 人間の性でしょうか。

濃茶が飲みたくなる気温、気候です。濃茶と言われても、お茶に詳しくない方は、薄茶と濃茶の区別もむずかしいのではないかと思います。僕もお茶の稽古を始めてから、だんだんと詳しく知るようになったのですが、簡単にと言っても、難しいのですがご説明いたしましょう、少しばかり想像力を働かせてお読みください。

*裏千家の茶事の一般的な例を紹介します。亭主の趣向やお客様の好みにより多少の変化はあります

お茶のおもてなし、茶事。
亭主と客で一体となる茶室内の雰囲気が大事。

お茶には茶事というものがあり、少人数を招き茶室にて茶懐石、濃茶、薄茶、炭手前などでもてなすものを茶事と呼びます。お茶会とは大人数を呼び、薄茶席、濃茶席と分けて席を用意し、お菓子と薄茶、濃茶、点心と呼ばれるお弁当などを振舞うものです、大きな庭園内のお茶室で開かれることが多いのでしょうか。

炉開きの晩秋から初冬におこなわれる、たくさんのお客様を迎えてのお茶会では、一席に30人も40人も一つの部屋に入りオートメーションの様にお菓子をいただき、お茶を飲む、以前おじゃました茶会では四畳半の濃茶席に30人ぐらい入りました、お道具もきちんと拝見できない様なありさまでしたね。
よく師匠がブロイラーみたいだとも評しておりました。

茶事とは、事前に手紙にて日時等を案内し、伺う客も手紙にて返事を書き当日準備万端で茶事へ向かい、亭主はお客様を待ちます。亭主はお茶の所作や手順を少しばかり間違えてもかまわず、その席がスムーズに流れるように茶事を進めなければいけません、亭主と客で一体となる茶室内の雰囲気が大事なのです。

お茶室の中では……。

当日はお茶室に多くても4人ぐらい(正客、次客、三客、末客)を招きます。呼ばれた客は庭などを見てくつろぎ、待合でひかえます。時間になると つくばいにて手と口を清め、茶扇子を前に置きながら正客から順に茶室躙り口から躙って入り、(この躙り口がお茶らしい設えで、昔、武士が太刀を持って入りにくいよう、作られたとか?定かではありませんが。)末客は最後に躙り口の戸を音を立てて閉め、客全員が席入りした事を亭主にそれとなく知らせます。この、それとなくも難かしいのです。


客は小間(四畳半以下)では躙りながら移動して、茶扇子にて結界を作り 床のお軸等拝見。釜、水指の拝見を終え席に着きます。亭主は初炭手前をして茶室の温度を上げてお客様がくつろげるように調整し、盆に先付、杯などを乗せ、手渡しで客へ配り、次々に懐石料理やお酒を振る舞い、退席して客を待ちます。客は全員で目配せして 食べ終わると同時に箸を音を立てて盆に落とし置きます。そんなに音はでないのですが、その音で亭主は盆を取りに茶室へ戻り、かたずけ 、その後に濃茶の生菓子(おもがし:季節に合わせたお菓子や亭主がこの席のために用意したものや作らせたものなど)を一人一人に運びます。客は正客の合図にて食べ始め、食べ終わると中立、客達は茶室を出てしばし休憩、その間に亭主は床を竹の花入れに変え、花を用意します。これも決まりではありません、亭主の趣向で選べば良いのですね。一般的に席入りの時には、季節や趣向に合わせて大徳寺のお坊さんの書や墨跡、墨絵の軸が掛かっています。


濃茶を回し飲み、末客で飲み切る。

師匠のお茶室で拝見して記憶に残るのは、「薫風自南来」「一花開天下春」「桃花笑春風」などの江戸期の大徳寺住職立花大亀作禅語の書や雪舟作「七賢人図」、「李朝民画」、井上有一作「心」、「花」、「必死三昧」、松田正平作の書、阪口鶴代さんの抽象日本画など、床飾りは白鳳時代の胎内仏、ペルシャの硝子壺、現代陶芸家小川待子作香炉などなど、いろいろと勉強させていただきました。

客は茶室に入り、床を拝見、この花は何だろうとか、今日の趣向とはどの様な関係かな、花入はどなたの作かな、などと思いを巡らせ席に着きます。

亭主が炉の前で濃茶点前に入り濃茶を点てます。(点てるというよりも錬るが近いですね、濃茶は濃度がありますから、お茶の種類、季節や気温、湿度、釜のお湯の温度により練り具合を調節します。)客は全員で濃茶茶碗から一人一人手渡しで回し飲み、最後の末客で飲み切ります。客は自分の飲む量をだいたい考えないといけないのですね、そうしないと末客が飲む量が多過ぎるなんてこともありますから。末客は残してはいけないので、どんな量でも飲みきります。

この濃茶とは濃度があるので飲み口が汚れるのです、そのために湿らせた懐紙を各自持参して使い、一方向へ三度ぐらい拭いて清め、(この一方向へ拭くのにも力は込めずに優しく扱わないと、拭く時に茶碗が欠けたなんて事もあるようです。高いお茶碗はベンツ一台分するとかしないとか、と、よく言われます。)次々に回し、末客は飲み終えたところで正客へ躙りながら茶碗を戻します。正客は茶碗の拝見をして、次に回し末客まで拝見が終わると正客が茶碗を躙りながら亭主へ戻します。そして亭主は「お終いにさせていただきます。」とことわり、茶碗にお水を注ぎ、お終いの所作に入ります、所作の途中、水指蓋を閉めたタイミングで正客がお道具の拝見を請います。「お仕覆、お茶入、お茶杓、の拝見をお願いいたします。」


亭主と正客の問答。

お道具の拝見も終わり、亭主へ戻し、亭主と正客の問答(この茶事の趣向でお道具が用意されているので、それをさりげなく想像しながら銘を聞きます。)も終わり亭主は退席、亭主が茶道口より 客前まで薄茶用のお菓子を運びます(薄茶には干菓子かお菓子が出されますが決まり事ではありません。)そして棗(薄茶器)と茶杓と茶筅、茶巾が仕込まれた薄茶腕を運び、薄茶点前に入り、正客から順に薄茶を頂きます、薄茶の場合は一人一腕づつ飲みきります、客が全員飲み終わり茶碗が亭主に戻ると、亭主はお終いの所作、正客は濃茶と同じタイミングでお道具の拝見を請います。

「薄茶器、お茶杓、の拝見をお願いいたします。」

客が全員拝見を終え、正客がお道具を戻して亭主と問答(ここでもこの茶事の趣向を探り銘を聞きます。)これが終わると正客より順に茶室から退席します。末客は躙り口の戸を音を立てて閉め、亭主に客が出た事を伝えます。茶事のおおまかな手順です。

正客とは、亭主が呼びたいお客様で自分のお道具や趣向を理解してくれるだろうと
思う、または「おもてなし」したい人です。茶事に呼ばれた正客は客を選んで連れて行ったり、亭主が正客とのバランスを考えて客を集めたりするものなのです。
これにも決まりはありません、亭主の趣向で茶事を開けば良いのです。

お知らせ: 
小川待子|生まれたての<うつわ>展
Machiko Ogawa|Archetypal Vessel
豊田市美術館
開催中〜2011年12月25日(日)まで
http://www.museum.toyota.aichi.jp/