表参道eco日記 - 2 - 箸みがきのススメ。

(2010.01.29)

「はい、みきちゃんのお箸。」

そう言って母がくれた漆の箸。渋めの赤で、人気のキャラクターもついてない、今思えばとても地味な箸が私の記憶の中の「最初の箸」です。

目の前には、白地に藍色でウサギが描かれたお茶碗と黒豆みたいにつややかな漆のお椀。柚子の香りに包まれ、三つ葉の鮮やかな緑に目を奪われて、子どもながらに、きれいだなぁと思っていました。そのどれもが骨董品と呼ばれるもので、お茶碗は古伊万里(こいまり)だと知ったのは、だいぶ時間がたってからのこと。道理で、記憶の中のウサギさんが「鳥獣戯画(ちょうじゅうぎが)」っぽいと思った……。

「箸みがき」に必要な椿油と蜜ろう。

実家が古美術商で、無意識に伝統的なものや古いものに囲まれて育ちました。そんな中でも、家族の思い出につながる箸は私にとって特別な存在。海外に住んだり仕事をしたりする中で暮らしの中の色々なことを簡略化するようになっても、箸だけはこだわって選んでいます。ただ、今使っている木箸にはひとつだけ悩みが。深みのある色合いを気に入って買ったのに、毎日使ううちにカサカサと白っぽくなってきたこと。使い心地が良いだけに残念に思っていました。

そんな悩みをあっという間に解決してくれたのが、箸のコンシェルジュとして頼りにしている『銀座夏野』青山店。都心初の箸専門店として10年前に銀座にオープンした、いわば箸のセレクトショップです。店内を埋め尽くす箸の数は2500種類以上。専門知識が豊富なお店の方のアドバイスで箸選びが楽しめるので、2002年に表参道にお店ができてからは度々お邪魔している私のお気に入りのスポットです。

夏野の方のアドバイスは、箸を「買う」のではなく「みがく」こと。最近、古くなった木箸をみがくサービスを始めたそうです。箸みがきは無料で、しかも他のお店で買った箸もOKという、懐の深いサービスです。さらに、自宅でも簡単にできるということで、箸みがきの方法まで教えていただきました。

最近人気の「縁起箸(えんぎばし)」。かわいい説明カード付。

 

箸みがきのイロハ

用意するもの……椿油、蜜ろう、柔らかい布1枚、タオル1枚、古くなった木箸

イ、柔らかい布に少量の椿油を含ませる
ロ、箸を1本とり、布でまんべんなく油を塗りこむ
ハ、蜜ろうを直接こすりつけるようにして塗る
ニ、タオルで乾拭きする。こする際の熱で蜜ろうの成分を浸透させる
ホ、もう1本の箸も同じようにみがいて完成

※ご紹介したのは木箸のためのお手入れです。漆塗りの箸の修理は自分では難しいので、銀座夏野のような専門店への相談をおすすめします。

 
簡単ですが、道具をそろえて黙々と箸をみがけば気分は職人。「箸っていうのはなぁ~」と、思わず熱く語っちゃいそうなテンションになります(私だけ!?)。5分後、箸は、こっくりとした茶色と本来のつやを取り戻していました。材質によって色の変化には差があるものの、「みがき」には乾燥した箸の油分を補う効果があるので、木箸におすすめのお手入れ方法だそうです。

私に箸の復活方法を教えてくれたスタッフの方が言いました。「たかが箸、されど箸。毎日使う箸を通して、暮らしを楽しんでもらえたら嬉しいです」。そういえば、母の口癖は「道具は使ってこそ生きる」。子どもにも大人と同じ器と箸を用意してくれたのも、そんな思いからだったんだなぁと、ちょっとしみじみ。

暮らしを楽しもうとすると、つい何かを「足す」ことばかり考えてしまいがちですが、毎日使う道具を大切にすること、その扱いを少しだけ丁寧にしてみること、それだけでも何かが変わるのかもしれません。世界中に箸を使う国はいくつもあるけれど、家族それぞれが自分の箸を持つというのは日本だけの文化だそうです。箸を選ぶことは、暮らしを選ぶこと。少し大げさかもしれませんが、美しくよみがえった木箸を見つめながら、そんな風に感じました。大好きな箸が戻ってきた今日は、いつもよりひと手間かけた料理を作ってみようと思います。

 

銀座夏野 小夏 青山店
東京都渋谷区神宮前4-2-17 1&2F
夏野青山店 
Tel.03-3403-6033
小夏青山店 Tel.03-5785-4721

月~土 10:00〜20:00、日祝〜19:00
アクセス:地下鉄「表参道」駅A2出口から徒歩約3分
http://www.e-ohashi.com/

*小夏はこども和食器専門店